第17話 出会い

 朝日会館で集合した俺たちはその後、木屋町通りを下り、軽音部飲み会のお決まり居酒屋「ざんざか亭」の宴会場に移動した。


「一回生は入部届と交換で渡したネックストラップに名前を入れて下げてください」


 カジュが入口で声をかけている。

 在学生である俺たちはすでに装着済みだ。

 俺の名札には「井澤亮太 リョータ」と、本名と皆から呼ばれている呼び名が書かれている。


 新入生たちを席に座らせると、今野部長が立ち上がった。


「えー、新入生の皆さん、まずは京都S大入学おめでとうございます。望んで入学した人、望まずに入学した人、いるかとは思いますが、長く苦しい受験勉強から解放された君たちは、間違いなく勝ち組です」


 新入生だけでなく、参加者全員が笑う。


「これからは自分の好きな音楽に囲まれた、楽しい大学生活が待っております! ぜひ、僕たちと一緒に楽しんでいきましょう! それでは令和〇年度京都S大軽音部新歓コンパ始めます、かんぱーい!」


「「「かんぱーい!」」」


 部長の乾杯の音頭で新歓コンパが始まった!


 我が軽音部部員は酒豪揃いである。

 まるで砂漠でオアシスを見つけたかのようにビールやチューハイを飲み始めた。

 その光景を見て新入生たちが呆気にとられるまでが、うちの新歓コンパのお決まりの流れだ。

 俺も昨年は先輩たちの飲みっぷりにドン引きしたが、一年間、様々な理由をつけて飲み会を開くこの部にいると、この光景にもすぐに慣れる。

 今年の新入生たちも同じ道を歩むことだろう。


 それと、軽音部のルールとして、後輩にムリに呑ませようとしない。

 自分から好きなように飲むか、後輩に注がれて飲むか、どちらかだ。

 まったく飲まない先輩もいるが、その先輩が真っ先に全裸になってたりするから訳がわからない。


「さて、みんな楽しんでるかな?」


 俺は全体を見渡す。

 新入生だけで固まっているグループ、一人になってる新入生などがいれば、俺たち上回生が声をかけてケアしてやらなくてはいけない。

 まだ入部届を提出していない新入生もいるから、ここで見切られてしまう訳にはいかないからだ。


「ま、久慈がいるから、だいぶ楽だよな」


 女の子にばかり声をかけていそうな久慈だが、ちゃんと全体を見渡してバランスを取ってくれている。

 さすがだね。


「リョータ先輩。お隣いいですか?」


 急に後ろから声を掛けられて、俺は振り向いた。

 そこにいたのは、さっき合流した西内さんだった。


「あ、ああ、いいよ。どうぞ、座って。飲み物は?」


「あ、持ってきました。まだ未成年なんでウーロン茶でいいですか?」


 西内さんは茶色のドリンクが入ったグラスを持ち上げた。


「もちろん、大丈夫だよ。じゃ、改めて軽音部へようこそ」


 俺もビールが注がれたグラスを上げて西内さんのグラスに当てる。


「はい! よろしくお願いします!」


「はーい、よろしくー!」


 今のは俺の声ではない。


「久慈! いつの間に」


「亮太。いつの間に、こんな素敵な子とお知り合いになってたんや? あ、俺の名前は久慈 光仁。よろしくね、えーと、ミクちゃん」


 名札を見ながら、久慈は西内さんの隣に座る。

 自分、さっきまで他の新入生の盛り上げ役やってたんじゃないの?

 さすがだね。


「今日の集合場所で初めて会ったんだよ。入部に悩んでるみたいだったから、オニコさんに頼んで声かけてもらって」


「今日初めてじゃないですよ?」


 西内さんが、横から俺の言葉を笑顔で即否定した。


「え? 初めてでしょ?」


「リョータさんにとっては初対面でしょうけど、私は半年前から知ってるんです」


「半年前?」


 正直、こんな可愛い子と一度でも会ったことがあれば、絶対に忘れないと思うけど。


「正確に言えば、久慈さんのことも知ってます」


「え、俺も? 半年前っていうと十月とか十一月とかか?」


 久慈も知ってるってことは、Majesty絡みだな。

 去年の十、十一月ごろって……。


「ひょっとしてS大ウチの学祭?」


「惜しいです」


「惜しい?」


「わかった! D女子大の交流ライブちゃうか?」


 久慈が指を立てて言った。


「そうです。D女子大の学祭で、先輩たちのバンドが演奏に来ていて」


 S大軽音部は、京都の他大学で活動するバンド団体のいくつかと定期的に交流を持っている。

 春はライブハウスを借り切って交流ある団体すべてが集まって合同ライブを開く。

 そして秋は、お互いの大学の学祭に、交流として二~三バンドが出張して演奏を行うのだ。

 D女子大は、女子大というだけあって、軽音部でも出演希望を出すバンドが多い。

 一回から三回生まで各学年で一バンドずつ出演するのだが、昨年、一回生の出演枠をジャンケンでもぎ取ってきたのは、何を隠そう、ここにいる久慈である。


「去年、D女子大の受験をしようと考えていたときに、ちょうど学祭があったから遊びに行ったんです。でも、ナンパばかりされちゃって」


「そらそうやろ。D女子大の学祭に遊びに行く男なんてナンパ以外の目的ないわ」


 久慈が笑って言う。

 久慈。それだと、去年の俺たちもそうだったと認めることになるぞ?


「で、避難しにライブ喫茶に行ったんです。バンド演奏しているところでナンパする人もいないだろうと思って」


 なるほど、かしこいね。


「そうしたら、女子大のバンドサークルなのに男性のバンドが出てきて驚いちゃって。で、プログラムを見たらS大からの交流バンドだってわかったんです」

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