第6話 バイト先ではモテる!
「亮太くんも、だいぶ、この仕事は慣れたか?」
「はい、おかげさまで。もう年末も含めれば二ヶ月近く、ここで仕事させてもらってますからね」
俺はみんなが淹れてくれたお茶を一口飲んだ。
「亮太くんは学生さんの割には、よう働くなぁ」
「ありがとうございます。僕、働くの嫌いじゃないですね」
働いていれば、ごはんが食べられてお金までもらえる。
アルバイトって最高だと思う。
高校時代、あのオナニーに費やした日々にバイトをしておけば、ティッシュの山でなく小銭の山程度は稼げていたのに。
なぜオレは、あんなムダな時間を……。
「入ったばかりの頃は、漬物樽を運ぶ時もフラフラしとったけどな」
「ホンマや。樽の周りでフラフラしとるから、野菜と一緒に漬け込んでまうトコやったで」
みんなのシャレにならないジョークが飛ぶ。
「あの頃は腕の力で樽を持ち上げようとしてましたからね。みなさんにコツを教えてもらってから、すごく楽になりました」
「せやな。腰に乗せんとウチらでも樽なんか運ぶん無理やで」
腕で荷物を持つには限度がある。
腰に乗せたり、樽の底を支点に樽を回して運んだりと、漬物屋らしい荷物運びのコツを教えてくれたのも、この
まあ、いくらコツを知っているからとはいえ、彼女たちの年齢であのクソ重い漬物樽を運べるのは恐ろしいことだけど。
「せやけど、亮太くんは私らみたいなお婆ちゃんでも、一緒にようけ話してくれるから嬉しいわ」
「せやせや。これまで入った子は、ご飯を食べ終ると、すぐに携帯見始めてな。私らと話したくないって感じやったんよ」
「へえ、そうなんですか」
食事後と三時の休憩時はこのような感じで、みんなでお茶を飲みながら、休憩室のテーブルに車座になってガヤガヤと話す。
これまでも大学生アルバイトは何人か来たらしいのだが、彼らは
彼らの気持ちもわからないではない。
人生の大先輩たちのコミュニティに飛び込むのは、リア充大学生でもなかなかハードルが高いことだと思う。
一方、あまりリア充とは言えない生活をしている俺は、地元ではお祖母ちゃんっ子だったおかげで、先輩たちと話すのが全然苦じゃない。
バイト初日から、普通にみんなの車座の中で話に混ざらせてもらった。
おかげで仕事は別として、人間関係だけは初日からすぐに馴染めた。
ウチの久慈だったら、スマホを見てばかりってタイプになるのか?
……いや、アイツはその点、相手の年齢関係なく、女性は女性としてキチンと扱いそうだな。
「そういえば亮太くんは、学校で楽器やってる言うてたな」
「ああ、はい。そうです。大学で軽音部に入ってバンドやってます」
調理用キャップのネットに髪の毛を全部入れさえすれば、長髪でも金髪でもバイトOKだったことも、このバイトをすることにした理由であった。
ま、俺は長髪でも金髪でもないんだけど。
「亮太くんは歌手になりたいんか?」
「歌手……いや、プロとか考えてないですよ! そんなに上手くないですし」
Majestyのメンバーの中で実力的にも華的にも、一番プロから遠いのって多分、俺だし。
「今年、大学生になったウチの孫は歌手になりたいとか言うてるわ」
現場の副リーダー格である金子さんが、お茶を啜りながら言った。
「へえ、金子さんちのお孫さんも音楽やってるんですか」
「なんや、
歌うてるビデオ……『〇〇歌ってみた』系の歌い手さんってことかな?
YouTubeやニコ動に動画を上げてるってことか。
「そういうのでスカウトされてデビューする人もいますからね。そのまま、人気出ちゃう人とか」
ウチの軽音部でも、バンド活動と並行してYouTubeで動画を上げてるヤツはいる。
歌ってみたり、ギターを弾いてみたり。
簡単に世界中の人に見てもらえるし、色んな反応が見れる。
いい
ただ、ネット上での表面的な評価だけを鵜吞みにして天狗になっていく歌い手がいるのも知っているから微妙なところだ。
俺はやっぱり、ライブのように目の前で人の反応を見ている方が楽しいし、それがバンドをやっている醍醐味だと思うから、ライブだけで十分かなと思う。
まだ一人で演奏を見せられるほど上手くないのが一番の理由だけど。
「せやけど、こんなに毎日バイトして音楽もやってて、彼女は怒ったりせえへんの?」
金子さんからキツい質問が飛ぶ。
「いや、俺、彼女いないっす……」
まさか、こんなところで寂しい告白をする羽目になるとは。
「え! そうなん? 亮太くん、かわいい顔してんのに」
「もったいないやん」
「内山さん、お父さん死んでもう十年やろ? 亮太くんに相手してもらい!」
「いやー、恥ずかしいわぁ」
「あはははは……」
お婆ちゃん世代にはこのモテようである。
ハーレム。
嬉しくない。
我ながら、こういう意味のないモテっぷりは、どうにかならんものか。
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