第117話 魔王vs魔王

 上空にて、金色の輝きを纏う魔神王と、白と黒の輝きを纏った黒瞳王が激突する。


『そんな間に合せの装備で、余と戦うつもりか! 魔将共に与せた程度で、やれると踏んだか愚か者めが! 思い上がりを悔いて死ぬがいい! ぬわあっ!!』


 魔神王の背後に、無数の光の点が生まれる。

 そこから生まれ出るのは、巨大な矢尻である。


『ゆけい!!』


 魔神王が吠えた。

 矢の一本一本は、小山ほどの長さがある。

 それが黒瞳王目掛けて降り注ぐ。


 だが、黒瞳王ルーザックは揺るがない。

 漆黒の大剣を振りかぶりながら、叫ぶ。


『総員、戦場より退避!! 巻き添えになるぞ!! せええええいっ!!』


 上空へと昇りゆく、ディバインアーマー・ダークアイが加速した。

 自然と、矢との相対速度は凄まじいことになる。

 だが、接触と同時に放たれた剣閃が、この矢を真っ向から切り裂く。


『リプレイ!』


 ルーザックがコマンドを発っする。

 ディバインアーマーが有する機能を展開した。


 漆黒のマントから、黒い大剣を模した切っ先が射出される。

 それらは振りかぶられ……振り下ろされる。


 魔神王が放った矢の、およそ半数がこれによって切り落とされる。


『なにぃっ!?』


『ゴキちゃんシリーズを改良した、超硬質Gゴーレム……。名付けて、Gアトモス!』


 Gはゴキちゃんの略である。

 原子剣アトモスの構造を、七王の協力を得て解析したドワーフたちが、ゴキちゃんシリーズを改造した決定版。

 しかし、消費魔力量は極めて高く、ルーザック、ジュギィ、アリーシャ、サイク以外の誰にも起動させることすらできない。


 それを一度に複数体操ってみせるルーザック。

 これこそが、黒瞳王の真骨頂と言えよう。


『下等な現地の魔族が……いや、貴様はあれか! 異世界から呼び出された黒瞳王であったな! それがどうして、こうも余に抗う! どうやって余に迫る力を得た!?』


『全て、君が切り捨て、蔑んできたものの力だ! 現状、私もワンマン社長だが、社員の幸福のために動いている! 私が君に戦いを挑むのも、こうして拮抗する力を得たのも、全ては社員の最大幸福のためだ……!』


『わけの分からぬ事を言うな!? それに貴様、余に拮抗できると言ったな!? だいそれた事を抜かす阿呆が! それええい!』


 魔神王の腕から、黄金に輝く鎖が放たれる。

 それは真っ向から黒瞳王の腕に絡みつく。


『これで逃げられまい! ……なにっ!?』


『ふんっ!!』


 鎖から逃げようとするとばかり思っていた魔神王は、鎖を辿って真正面から突撃してきた黒瞳王に驚愕した。

 慌てて、片腕を突き上げて斬撃を受け止める。

 いや、受け止められない。切断される。


『な、なにぃーっ!? 余の魔法障壁がやすやすと切り裂かれた!? そして魔神王の腕を切り落とすとはっ!! 原子剣アトモス! それに、そのような力があったとは……!!』


『決して破壊されない剣ならば、全てを破壊できるだけの膂力と速度を乗せてぶつければ、何でも斬れる……! そういう理屈だ』


『ふざけた事を……!!』


 かくして、上空では二人の魔王が激しくぶつかり合う。

 魔神王の攻撃は、広範囲を滅ぼす災厄。

 黒瞳王の攻撃は、当てれば破壊する必殺。


 ついに魔神王は、黒瞳王と至近距離でやりあう危険さに気付き、距離を取った。

 そして眼下で蠢く配下に向けて号令を発する。


『何をしておる貴様ら! 前進せよ! 蹂躙せよ! 力で勝るは余の軍勢ぞ! 進め! 進め! 止まることは許さぬ!!』


 絶対的な王のその命令に、魔将とその軍勢は動き出した。


『そうだった!』


『我らは最強の上位魔族! 魔神王様によって直接生み出された、選ばれし者ぞ!』


『下位の魔族や人間など、恐るるに足らぬ! 七王にのみ気を配れば良い!』


 魔将たちが連携を始める。

 魔神王の目が、黒瞳王一人に注がれている今。

 彼らは比較的自由であり、コンビネーションを図るだけの冷静さを取り戻しつつあった。


 だが、彼らは忘れていた。

 黒瞳王の軍、ダークアイにもまた、魔将がいたことを。

 そして、彼は不完全な状態の我が身を、新たな時代の魔族たちが作り上げた技術で強化していたのである。


 魔将たちの頭上に、鳥のような形をした金属の塊が飛来した。


『うんん!? 何よこれぇ!』


 塊に気付き、迎撃に向かったのはツーヘッドガルーダ。

 すると、彼の首と首の間に、いつの間にか誰かが立っていた。


「うへえ、生暖かぁい」


『ヒェッ!? 誰よあんた!?』


「先代の黒瞳王だったアリーシャでーす。ほいほい、サイク、サポートしとくからねー」


 金属の塊に声を掛けたアリーシャが、腰からダガーを抜いた。

 ダガーには石がはめ込まれており、それがアリーシャの魔力を受けて輝いている。


『ええい! アタシから降りろ! 降りろちびすけえええええっ!!』


 叫び、暴れるツーヘッドガルーダ。

 だが、彼の体の上を、超短距離のテレポートを繰り返しながら、全く振り落とされる様子がないアリーシャである。

 瞬間移動の力しか持たない黒瞳王だが、それはつまり、一芸に特化しているということだ。


「使うのやだけど、やるしかないねえ。それ、行くよ、Gアトモス!」


 アリーシャの宣言と同時に、金属の塊から数本の黒い刃が射出された。

 アリーシャはそれらを導くように、光るダガーをガルーダの全身に突き刺していく。


『なっ、お前、何を今……』


「それじゃあ、バイバーイ」


 アリーシャが消えた。

 既に、金属の塊の上にいる。


 ツーヘッドガルーダを襲ったのは、超硬度の飛翔型ゴーレムソードによる蹂躙であった。

 声をあげる暇もなく、みじん切りにされて、魔将が戦場から脱落する。


「うわあ、エグいなあ。おっと、ダガー回収しなくちゃ」


 そう言って消えたアリーシャは、空中を連続テレポートしながら、ばらまかれたダガーを回収する。

 再び戻ってきた時には、金属の塊がようやく起動するところだった。


『時間稼ぎご苦労。吾輩もようやく温まってきたところだ。どーれ、かつての同輩を粉砕してやるとするかのう!』


 金属の塊が、変形を始める。

 巨大な翼は、腕に。

 畳み込まれていた足が展開し、ゆっくりと大地へと降り立っていく。


 鳥のように見えた頭部がぐるりと回転すると、単眼鬼サイクロプスを思わせるものになった。


『よう、袂を分かったかつての仲間たちよ。吾輩が蹴散らしてやる。まとめて掛かってくるが良い』


『サイクロプスか!?』


『てめえ、上位魔族の誇りを忘れて、下等生物どもの側についたのか!』


『裏切り者め、ここで処分してやる!』


 サイクの言葉通り、激高した魔族たちが襲いかかってきた。


「パンチだよー、サイクー!!」


 サイクの肩の上で、叫ぶアリーシャ。


『そうれ、行くぞ!』


 拳が振り上げられ、そして魔族の一体、ファイアジャイアントへと叩きつけられた。

 一撃は纏う風圧でファイアジャイアントの炎を吹き飛ばし、めり込む拳は、ジャイアントの肉と骨格を粉々にしながら振り抜かれる。


『ウグワーッ!?』


 ついにはジャイアントの頭部が、千切れ飛んだ。

 拳の衝撃波で、小型の魔族たちが消し飛んでいく。


「次はキックだサイク!」


『おう!!』


 組み付いた魔族の腹を、サイクの膝が蹴り上げる。

 堪らず離れた魔族は、強烈な前蹴りによって胴体を粉々に粉砕された。


『な、なんだあれはーっ!?』


 混乱に陥る魔神王の軍勢。


「説明致しましょう!」


 サイクのもう片方の肩から現れたのは、魔族コーメイである。


「上位魔族たるサイク専務に、アリーシャ副社長と私の魔力を注ぎ込むことで、速度と威力を強化しているのです! そしてこのボディは、ゴーレムアーマーの研究成果の結晶……! これこそが、最新技術! 我が社の力です!!」


 これを聞いて、ダークアイの魔族たちがわーっと拍手した。


『そーれ、わしらも負けてはおれぬぞ! 鋼鉄兵団、突撃せよ!』


「ダークエルフ部隊、支援を開始!!」


「いっくよー、みんなー! ゴブリン、オーク、ケンタウロス、とつげーき!!」


 サイクが戦線を切り開く。

 そこに雪崩込むダークアイ。


 戦況は、人魔連合軍が押し始めた。

 だが、全ては二人の魔王の決着次第なのである。

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