第109話 プラモデル召喚
「見たまえ。魔神王の軍勢が入り込んできて、我が物顔をしている」
ここは、魔法で作られた塔の上。
ダークアイとガルグイユ、そして元魔導王国領の国境線に立っているそこで、ルーザックが声を上げた。
「あれを四方から攻める。可能な限り、魔神王にはここに戦力を投入してもらわなければ」
「元々私の国だったネ。そこを戦場にされるの、まあ面白くはないネー。悪趣味じゃない?」
この塔を一夜にして作り上げた、魔導王ツァオドゥが顔をしかめる。
だが、彼女はルーザックの立てた作戦に乗っている。
側近であるエルフが傍らにて、精霊魔法を用いて遠方を観察していた。
「我ら魔導王国の魔法と、騎士王国の陣形、神国の加護による支援。これらが合わされば、恐れるものなど無いでしょう」
このエルフは、ルーザックにも見覚えがある。
魔導王と鋼鉄王による、険悪な雰囲気の会談。
そのただ中に飛び込んだのがルーザックだった。
そしてなし崩し的に両国へと宣戦布告をしたのだ。
その場にいたのは、魔導王の側近のエルフと、鋼鉄王側近のメイドゴーレム。
「……誰だったっけ……」
ルーザックが真面目くさった顔をしてまじまじとエルフを見る。
エルフ氏は調子を崩されたようで、困った表情をした。
「ゼフィードだ」
「よろしく、ゼフィード。黒瞳王ルーザックだ」
「知っている」
ゼフィードが仏頂面で答える。
この様子が面白かったらしく、ルーザックの右腕である前黒瞳王、現ダークアイ副社長アリーシャが、腹を抱えて笑っている。
「……それで……。君は何をしているのだ?」
ルーザックに問うのは、騎士王スタニックである。
彼が自ら最前線までやって来ている。
それだけ、これから行われる戦いを重要であると認識しているのだ。
ここはまさしく、新たなる人魔の大戦が行われる最前線。
今まではダークアイが単独で魔神王の軍勢を食い止めていた。
だが、これからは人類も、この戦いに加わることとなる。
ルーザックがそう仕向けたのだ。
七王の国に属する人々にとっては、とんだ災難とも言えよう。
多くの人間たちは、魔神王を災厄か何かであると認識していた。
自分たちは何も悪いことをしていないのに、理不尽に降り掛かってきた災害のようなものだと。
それが、ダークアイによって自国から隔てられていると知って、彼らはホッと安堵したものだ。
魔族と魔族が潰し合ってくれる。
願わくば、こちらが何もしないうちに共倒れになって欲しい。
だが、事がそうも都合よく運ぶことはない。
いや、ある意味では最悪の形で、人間たちは戦火のただ中に投げ込まれた形になる。
魔導王国跡に駐留する魔将の数は、片手の指の数では効かない。
一体一体が七王に近い実力を持ち、単独で都市を一つ滅ぼせるような化け物揃いである。
これらが、ダークアイが魔導王国を明け渡したことで、いつでも七王の国へ攻め込める状態になったのである。
そのうち戦うことになるだろうと覚悟していた軍人たちにとっても、晴天の霹靂に他ならない。
かくして、塔が作られた。
これこそ、人魔連合軍の前線基地。
法王クラウディアは無邪気に、「光と闇が集う塔ですから、人魔決戦要塞ブライトシャドウと名付けましょう」と言って、あまりの厨二っぷりにツァオドゥが悶ている間に、割とそのネーミングが気に入ったスタニックが正式名称にしてしまった。
そしてクラウディアは散々ツァオドゥに怒られたので、凹んでしまって今日は出てきていない。
実力だけなら超一級だが、精神的な防御力はスーパーベビー級なのである。
アレクスもいなかった。
彼は弟子のジンを連れ、気ままに魔導王国の中を駆け回って戦っているらしい。
「……君は何をしているのだと聞いているのだ」
話は戻る。
スタニックは、ルーザックを注視していた。
塔の中に作られた、会議用のテーブル。
自由に動かせるそれの上に、ルーザックは巨大な箱を置き、開封していた。
箱の中には、樹脂で作られた骨格のようなものと、それに繋がれた様々な色形をした部品が収められている。
「何と言われても、見ての通りだが?」
ルーザックはごく冷静に応じた。
彼の横では、側近であるゴブリン娘のジュギィが、骨格から切り出した部品の余分な突起をヤスリで削り落とし、箱に同封された説明書の絵を見ながらパチリと組み合わせている。
手慣れた仕草だ。
「まさか……この最前線でプラモデルを作っているとでも言うのか……!?」
「その通りだが?」
即答するルーザック。
全く動じない。
スタニックが絶句する。
彼はこの場に現れると同時に、その固有能力を使用してプラモデルを召喚したのである。
しかも特大サイズだ。
「これは、装輪機甲サンブリンガーに登場する最後の敵でな。大気圏突破能力を持つ装甲ヘリコプターがロケットのパーツと合体した、天魔ベルゼブブというロボットで……」
説明を始めた。
しかも、説明しながらも指先は止まらない。
パーツを切り出しながら、ヤスリでバリを削り落とし、的確に組み上げていく。
ジュギィが右手、右足を担当し、どうやら二人で役割分担しているようだ。
ちなみにパーツの切り出しに使われているのは、ドワーフ謹製のニッパーである。
これがもう、切れる切れる。
ルーザックの剣である、原子剣アトモスを参考にして作られた、魔法的手段によって金属の分子構造を単純化させ、その強度を圧倒的に増した代物だ。
技術試験の意味合いも含めた産物だったが、まだこれを大型化する目処は立っていない。
なので、ルーザックはプラモ作りに使用しているというわけだ。
薄い刃だが、基本的に欠けるということがないので、いつまでもパチパチと爽快な切れ味を誇る。
「サイクが纏うゴーレムアーマーは試験作だったが、ここで諸君と共闘することで我が軍にも余裕が生まれる。この余暇を利用して彼をさらに強化しようと思ってね。私の積みプラの中でも、最大クラスの一つであるこれを召喚したというわけだ。ちなみに我々ダークアイのゴーレムアーマーは、全て私の召喚したプラモデルをモデルにして作ってある」
驚きの事実であった。
スタニックもツァオドゥも、目眩を感じた。
自分たちは、プラモデルを手本に作られたものと戦っていたのか!
その中身こそ、鋼鉄王と魔導王の技術の結晶ではある。
だが、ゴーレムアーマーやゴブリン戦車の戦術理念やデザインはプラモデルのそれなのだった。
「見たまえ。パッケージにストーリーが書いてある。これが想像力を膨らませる……。さらにコーメイが仲間になったことで、彼が召喚できる地球のPC配信ゲームで新たな戦術システムを構築可能になり……」
「もうやめるんだ! 君は我々のプライドを粉々に粉砕するつもりか!」
スタニックがマジギレした。
実は彼は、地球では合衆国のフットボールでクォーターバックをしていた人物である。
陣形は、彼がフットボールで学んだチームワークが能力として発現したものだ。
そういう意味では、ルーザックと彼との戦い方に、基本的な差はない。
だが、こと、相手がプラモデルやPCゲームとなると、抵抗感が出てくるものらしい。
ちなみにツァオドゥは、手足を組み終わったジュギィが、ロボットの支援メカらしき超小型のユニットを組み始めたのを見て嫌な予感がした。
まさか、あのユニットも現実化して、それにゴブリンを搭載するなんてことをするのではないだろうか?
いやいや、あの黒瞳王ならやる。絶対にやる。
異世界ディオコスモに満ちる、魔力とは万能のエネルギーである。
それを用いる者の想像力と適性によって、いかなる形にも活用できる。
故に、空飛ぶ合体ロボも、ロボに搭載される自律飛行支援ユニットだってやろうと思えば再現できるのだ。
だが、それらが今まで存在していなかったのは、単純に人々の想像力がそこまで至っていなかったからに過ぎない。
ここに、モデルがある。
ルーザックが召喚するプラモデルによって、明確な形を与えられた、新たな魔力の形。
それに気付いたツァオドゥは悟る。
力の価値とは、それの即効性と分かりやすい有用性が全てではないのだ。
間違いなく、ルーザックが持つプラモデル召喚という力は、自分たちの持つ魔法や陣形、剣術といった異能と等価値の力なのだった。
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