第100話 狂王現れ、戦場が動く
途切れなく現れる狂戦士と、次々爆発する彼らを食い止め続けるのは、消耗する任務である。
その爆発も、盾の陣形を組んでるとはいえ無視できるものではない。
じりじりと、岩山騎士団、鋼鉄兵団は後退しつつあった。
消耗を恐れぬ、全てが自爆特攻である軍隊は恐ろしい。
バーバヤガがこの戦法で勝利したとしても、恐らくかの国に未来などあるまい。
それでも構わぬ、未来を捨てて今の勝利が……いや、今の楽しみが欲しいと考えたのが狂王ラギール。
この恐るべき狂人の楽しみに、正面から付き合っていては身が持たない。
「よし、休憩タイムだ!」
ルーザックが現れ宣言した。
これを聞いて、スタニックやシュウザーが驚愕する。
「休憩……!? このような波状攻撃を受けながら、休むことができるというのか」
「いかにも」
「前衛を交代させながら、順繰りに休ませるのではなくてか」
「一度に休ませる。コーメイ、目玉爆撃機を発進させたまえ」
「了解しました」
背中の翼を広げ、舞い上がるコーメイ。
頭上に待機していた目玉爆撃機は、既にその内部へと、不安定化した不良動力炉を大量に詰め込んでいる。
後は、溢れ出る狂戦士たちの頭上へふわふわと飛び……。
「サイク、今です!」
『おうよ! 盛大にくれてやろう!』
不安定化動力炉……すなわち、爆弾を大量に落とすだけだ。
たちまちのうちに、戦場の一角が爆散した。
爆発は一度ではない。
連鎖爆発が起こる。
サイクが落とした爆弾が炸裂し、爆発に巻き込まれた狂戦士が、絶命の間際に魔力を暴走させて爆発する。
これに呼応して、近隣の狂戦士も爆発するのだ。
一瞬で、地上に太陽が生まれたかのような輝きが灯った。
音が遅れてやって来る。
そして爆風。
さすがの岩山騎士団、鋼鉄兵団も、さらに後退せざるを得なかった。
「なんという型破りな攻撃をする! わっはっは! こりゃあ、仲間を巻き込みかねないぞ! ダークアイは半端ではないなあ」
ドミトールが妙に嬉しそうだ。
「わしは肝が冷えた……。まさかこんなに爆発が起こるとは……」
むしろ、グローンが引いている。
かくして、残る僅かな狂戦士を仕留めた後、爆煙が晴れた後を見てみれば……。
そこには、大地をえぐった巨大な穴があった。
狂戦士たちも、一旦バーバヤガ側で立ち止まっている。
狂戦士を統括してコントロールするのはラギールだ。
彼がこの状況を見て、次なる手を考えているのかも知れない。
「さあ、休憩タイムだ! 全員分の茶と戦闘食を用意してある。この隙に休憩を取り、英気を養ってくれたまえ!」
ルーザックの朗々たる声が響き渡った。
ゴブリン戦車隊が駆け出す。
運搬するのは、お茶の入ったポットや、木製の容器。
そしてパンに肉を挟んで、甘辛く味付けた戦闘食である。
「戦場でハンバーガーとは、ルーちんもなかなかやってくれるじゃないの! んほー! このジャンクな味付け大好き! なつかしー!」
アリーシャが戦闘食を頬張りながら歓声をあげた。
隣では、ジュギィもニコニコしながら食べている。
岩山騎士団にオーガたちも、腰を降ろして食事を始めた。
先程までの戦闘について、感想を言い合ったりしている。
先日まで敵同士として争っていたとは思えぬほどの打ち解けぶりだ。
「戦ができなくなりそうですな」
呟いたのは、暗殺騎士ウートルド。
「敵に情を持てば、振るう剣が鈍りますぞ」
「だろうなあ」
シュウザーが応じた。
「だが、俺らは騎士だ。四騎士団に所属する連中は、それこそ、情を抱いた女であっても、命令を受ければ殺せるよう訓練を受けている。頭と体を切り離しちまってるんだ」
「ほう」
「俺ら騎士は、水車で言う、巨大な車輪を回すための歯車みたいなもんだ。いざ行動するとなったら、思考なんざいらない。だから、別にこうして情を交わし合ってても構わないってことさ。そこで感情に負けるやつが、地方の騎士になる」
「なるほど。四騎士団と他の騎士との違いは、そこでしたか」
ウートルドが感心した。
騎士王スタニックは、戦がない時代においても、常在戦場の心を持って騎士たちを育て続けていたらしい。
だからこそ、四騎士団は真っ向からダークアイとぶつかり合っても、易々とはやられなかった。
人間を、戦争を行う装置の部品として育て上げる。
これこそが、騎士王国の強さなのだろう。
だが、対するダークアイはどうか。
あれもまた、魔族という個性の塊のような連中を、戦争をする装置の部品として育成してきた国だ。
しかし、騎士王国とはどこか違う。
「以前よりも、遥かに洗練されている。自ら望んで、考え、己を研ぎしましてきたというのか。魔族が」
ホークアイ戦争を知るウートルドだからこそ、ダークアイの魔族たちが恐るべき成長を遂げていると分かる。
しかも、貪欲に人間たちの技術を取り入れ、組み合わせ、昇華している。
騎士王が、騎士たちから思考と肉体を切り離す訓練を行ったのは正解だ。
情に流されていては、あの、成長し続け、考え続けるモンスターの群れを相手には戦えない。
「この戦いが終わってからが本番ということか……。ダークアイ、恐ろしい相手だ。つくづく、ホークアイで仕留めることができていたらば、と思うぞ」
和気あいあいと、騎士団とともに食事する魔族たち。
ウートルドが彼らに向ける目は、厳しい。
一方で、互いに気を許すこと無く、隣り合ってハンバーガーをかじる指導者同士。
「どう見る、黒瞳王。ラギールは次にどんな手を打ってくるか。まだまだ、狂戦士の数はいる。全ての国民を狂戦士に作り変えたのだから、それこそ無尽蔵とも思える兵力のはずだ。人であの穴を埋めれば、また攻め寄せることも可能ではないか?」
「それは同感だ。だが、私の考えは少し違っていてな。そんなまだるっこしい事をいちいち考えるほど、勇者ラギールは正気なのか? という」
「ほう……! かつての仲間であった私よりも、彼のことを知っていると言いたげな口ぶりだな」
「邂逅は一瞬だが、理解できるものはあった。私がかつて摂取してきた創作作品に、ああいうキャラクターは多かったからな」
「何っ」
スタニックが目を剥く。
「お前も転生者か……!!」
「いかにも。君と同じ、もとは人間だ」
「ならば、どうして人間に牙を剥く!?」
「それが仕事だからだ。私は、任された仕事はどんな手段を使っても完遂する。それに、我社の社員たちを露頭に迷わせるわけにはいかないからな。話を戻そう。勇者ラギールが求めるものは、勝利ではない」
「むうっ」
「言うなれば、自らが戦うことで生まれる、戦いの喜びだろう。彼は徹頭徹尾、己のことしか考えていまい。民を思って彼らの精神を支配しているとは言っていたが、良き王が国民総自爆突撃などするわけがない。勝っても何も残らないのだからな。だとすると……ラギールが望むのは、自らの手による決着。痺れを切らして、もうすぐやって来るぞ」
ルーザックの言葉は、すぐに実現することとなる。
戦場の巨大な穴の向こうで、呆然と立ち尽くしているように見えた狂戦士たち。
彼らが突如、爆発を始めたのである。
連鎖爆発だ。
爆発が、ひたすら続いていく。
「なんだ!?」
「何が起こっている!」
戦場にいる騎士や兵士たちは理解が及ばない。
それが単に、狂戦士を使って行う戦争ごっこに飽きた狂王が、リセットボタンを押したに過ぎないと、理解できるものはただ二人しかいなかった。
一人はコーメイ。
「バーバヤガという国を運営するのをやめましたか。いやはや、子どものメンタリティだ。だが、それで強大な力を持つプレイヤー自身が出てくるのだから、こちらにとっては災難です……!」
『勇者が戦場に立つか! これは、我らの総力で当たらねばならんな』
サイクはどこか嬉しそうだ。
右腕と左腕も呼び寄せて、彼は臨戦態勢となった。
もう一人はルーザック。
じっと、バーバヤガの王都があったであろう方向を見つめる。
そこが、一瞬きらめいた。
「来たな」
彼はそう呟くと、ハンバーガーの残りを口に押し込んだ。
稲妻を纏うそれが、単身で戦場目掛けて飛んでくる。
それは、最悪の敵。
狂った勇者ラギール。
第一次人魔共闘、最終局面。
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