第76話 私がレジスタンスのリーダーだ
ゴーレムランドを、人間の手に取り戻すのだ!!
その高潔な誓いを胸に、志ある者たちが集まる。
ここは反逆のための砦。
今はダークアイと名を変えた、悪しき魔族の国の中にあって、正義のために立つ時を伺う最後の希望。
初代黒瞳王を斬った聖剣と同じ名を持つ、彼らはレジスタンス。
反魔族革命組織、ブライトレイザー。
一人の若者が、革命組織の扉を叩く。
普段はダークアイに与えられた肉体労働に従事しながら、魔族に従えられる人間という立場に疑問を覚えていた青年だ。
名をハンスと言う。
「ようこそ、ハンス! 我らブライトレイザーは、君を歓迎する!!」
ハンスは人間であることを確認された後、革命組織に迎えられた。
人間の証明といっても簡単なものだ。
肌の色が緑や青や紫ではないかどうか。
角や尻尾がないかどうか。
それらを確認されるだけ。
だが、それだけで事足りた。
魔族の外見はあまりにも特徴的で、人間に交じることなど不可能だと思われていたからだ。
「ここが……ブライトレイザーのアジトなんですね! 俺、ゴーレムランドを人間の手に取り戻すためにがんばります!!」
若者ハンスは熱き思いを胸にそう宣言する。
反魔族革命組織、ブライトレイザーの活動は多岐に渡っている。
一つは、肉体労働。
組織を維持するためには資金を稼がなくてはいけない。
構成員たちは魔族が用意する、荷運びや建築、町内清掃などの仕事をして、賃金をもらうことになる。
これで、魔族が経営する店で買物などをして物資を調達するのである。
賃金は適正であり、毎日の生活をしながら少しの贅沢ができるくらいであった。
そして物の価格は良心的。
もともと儲けるという概念を持たない魔族が運営している。
彼らは任された仕事を、責任感たっぷりにやっているだけであった。
かくして、問題なく資金と物資は調達できている。
「あのよ……」
「なんですか?」
先輩レジスタンスに話しかけられたハンス。
「なんか、こう……。ゴーレムランドの時代よりも、住みよくなってるねえか……?」
「えっ! だって先輩、魔族が俺たちの街を我が物顔で歩き回ってるんですよ! それに店の人間だってみんな魔族だし、何より俺たちの上に立つのが魔族じゃないですか! 早くこれを倒して、騎士王国とかに併合してもらわないと……」
「そ、そう……そうだよな? そうだよなあ……。うーん。なんかなあ……。魔族が俺に、仕事のコツを教えてくれたり、新しい事覚えると褒めてくれるんだよなあ……」
「陰謀ですよそれは!」
これはいけない。
ハンスは思った。
魔族の支配は巧みだ。
人間たちの心をくすぐり、懐柔しているのだ。
「こ、これは早く、俺たちが立たないといけない! 革命……革命だ……!!」
反魔族革命組織、ブライトレイザーの活動は多岐に渡っている。
一つは、ダークアイの根幹を成すであろう軍事技術の開発要員。
「こうな。一日中紋章をスケッチしてるんだ。ゴブリンの上司がすげえ絵が上手くてなあ……」
「先輩、ゴブリンに仕事を教わってるんですか!?」
「すげえ教えるのが上手いんだよ。言葉じゃなくてな、やり方を見せてくれて何回でもやり直させてくれてな。成功すると褒めてくれるしなんかやりがいが……」
「騙されてるんですよそれは!!」
これはいけない。
ハンスは思った。
魔族の支配は巧みだ。
人間たちの心の隙間に入り込み、こうして洗脳していくのだ。
「こ、このままじゃ俺たちは牙を抜かれてしまう! 革命……革命だ……!!」
実際、ハンスのように考える者は少数ではなかった。
多くは、血気盛んな若者たちである。
仕事や生活に疲れた中年は、あっという間に魔族に取り込まれていった。
魔族の提供するやりがいのある仕事と、互いをリスペクトし合う仕事環境の心地よさ。
ある者は、魔族の異性といい関係になったりもしているという。
若者たちは考える。
それこそが魔族の陰謀であると!
人間の誇りを、尊厳を地に落とし、牙を抜いて飼いならす恐るべき策略なのだと考えたのだ。
彼らは既に、魔族が魔族と言うだけで憎く、彼らは絶対的な悪なのだと確信するに至っていた。
自分たちはどんな手段を使ってでも、魔族を排除せねばならないと誓う。
そのためなら、多少の犠牲が出ても構わないだろう。
人間の尊厳を取り戻すためなら、今の多少生きやすくて暮らしやすく、生き甲斐のある暮らしなど粉々になっても構わない……!
そう、彼らは自分に酔っていた。
そんな彼らは冷静さを失っている。
だからこそ、そこに黒瞳王が付け入った。
ある日のことである。
「はじめましてー! あたし、ブライトレイザーの新人のアリサっていいまーす!」
黒髪の少女がレジスタンスに加わった。
髪は長く艷やかで、肌の色も鮮やか。
明らかに良い暮らしをしていた少女である。
「やっぱりー、魔族に支配されるっていうのはー、許せないと思ってー」
「そうだろそうだろ!」
ブライトレイザーの若者たちはうんうんとうなずいた。
そして少女アリサは、あっという間に革命組織の内部へと食い込んでいく。
「わあ、先輩すごーい! これが魔族に反逆するための武器なんですね! どうやって手に入れたんですかあ?」
「ふふふ、こいつはな、裏ルートで騎士王国と繋がってるんだ。ダークアイの情報もあっちに流してるんだぞ。その見返りにこの武器を受け取ってる」
「すごいすごーい! いつからそんなルートができてたんですかあ?」
「それはな、この間、魔王(革命組織は、黒瞳王をこう呼ぶ)が騎士王国と戦った時にな……!」
「へえー。じゃあ、この間なんですねえ。大した情報は流れてないっぽい?」
「まあ、これからだこれから! 俺たちの活動を支援してくれてもいるんだ!」
少女アリサの目が怪しく輝いたことに、レジスタンスの男は気づかない。
そして次は、夜。
「先輩、これって何をしているんですかあ?」
「こいつはな、テントや建造物に切れ込みを入れて、魔族の奴らが入ったら崩れるようにしてるんだ。これであいつらもイチコロだぜ!」
「へえー。どことどことどこにそれやってるんですかあ?」
「おう、ここと、あそことだな」
「二箇所なんですねえー。あ、みんな、補修しといて」
急にアリサの声色が変わる。
「へ?」
アリサの周囲に、突然ゴブリンが数人出現する。
「ギッ!」
「アリーシャサマ、了解デス」
ゴブリンが動き始めた。
「な、な、なん? なんで……? 君は一体……」
「困ったなあ。あのねえ、利用できる事をするのはいいんだよねえ。だけど、仲間を傷つけるようなのは洒落になんないんだよね? ここまではアウト。あと、君はあたしの正体を知ったからここでバイバイね」
「アリサ、君は一体…………あ、アリーシャ!? アリーシャって、確か魔王の側近の……」
「はい、さよならー」
ナイフが翻った。
レジスタンスの男は、そのまま永遠に言葉を発することがなくなった。
かくして、レジスタンスから一人消える。
「あいつはどうしたんだ?」
尋ねるハンスに、アリサが答える。
「なんかー、先輩はー、魔族の方が実入りがいいからってー」
「裏切ったのか、軟弱者め! 今度会ったら粛清してやる!」
かくして、レジスタンスの思想は先鋭化していく。
ついには、理想のためなら人間の同胞を巻き込んでも構わないというように。
だが……不思議なことに、レジスタンスは何の成果も挙げることはできていない。
ある時、魔族が集まる建物が崩れた。
だが、幸い死者はおらず、人間が数名巻き込まれただけ。
これも魔族たちの働きによって彼らが助け出された。
レジスタンスはこの行為について犯行声明を発したが、それによって人間たちが沸き上がる事はなかった。
むしろ、彼らの態度がよそよそしくなったような。
そしてある時、レジスタンスのリーダーであった男が魔族に捕らえられた。
ついにブライトレイザーも一巻の終わりか……!
革命組織の面々は覚悟したものだ。
そして、例え一人になろうと地下に潜ってでも革命行為を続けようと決意した。
一般的にはテロ活動と呼ばれるものだが、理想に目が曇った彼らはそれに気づかない。
だがしかし。
リーダーが戻ってきた。
激しい拷問で顔の半分を失ったとかで、仮面を被っていた。
だが、その身のこなし、そして物言いはリーダーのものに間違いあるまい。
「諸君!!」
リーダーが叫んだ。
まるで、彼の動きと言葉を理想的に再現したような、ぶれのない声色と仕草。
「我らブライトレイザーは不滅である!! 騎士王国ガルグイユは、我らの理解者だ! これからも戦い続け、我らは内からこの魔族の国を打ち崩す! 美しきゴーレムランドを取り戻すために!」
うおおおーっと盛り上がる、レジンスタンスのメンバー。
ハンスもまた、熱狂した。
レジスタンスは死なず!!
革命は死なず!!
正義の意思は誰にも折ることなどできないのだ!
ただ一人、ハンスの横にいた少女アリサが笑っている。
さもおかしくて仕方ない、という笑いだ。
「ルーちん、ほんとにマニュアル化しちゃうと真似とかも完璧にやるんだねえ」
彼女以外誰も知らない。
レジスタンスの只中に立ち、彼らの熱狂を一身に浴びる仮面の男こそが、革命組織にとって不倶戴天の敵、魔王ルーザックであることを。
聖剣の名を持つ革命組織、ブライトレイザーの矜持はこの日。
聖剣を折った男によって折られた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます