第63話 鋼鉄王国攻防戦2

 鋼鉄王国の全軍が、戦場を埋め尽くしていく。

 対するのは、ダークアイ軍。

 ゴーレムランドは、山脈に沿って存在する王国だ。

 限られた平地に展開できる、可能な限りの軍勢がひしめき合い、ぶつかり合う。


「普段であれば、大量生産のゴーレムを生身で相手取るほど馬鹿馬鹿しいことはない。だが、今回はそれを気にする必要はない。ダークアイの全軍で押し潰すぞ」


「ほうほう、ルーちん、そのココロは」


「大量生産品を相手取るのは、倒してもまた生産されてしまうからだ。だが、現在は我が軍が押し込んでいる。このまま押し切れば、ゴーレムは二度と再生産されないだろう。つまり、今いるだけで品切れになるということだ」


 戦線には、現存するほぼ全てのゴブリン戦車が投入されている。

 例外は、剣王監視チームのみだ。

 さらに、新型の鋼鉄兵が前方に控える。

 鋼鉄兵の肩部には、大型の回転式射撃装置が据え付けられていた。

 その後方には座席が設けられ、一人ずつのダークエルフが腰掛けている。


「ね、ね、ルーザックサマ。あれなーに」


 部隊の中程にいる玉座戦車。

 ルーザックの隣に侍るジュギィが、尋ねてくる。


「あれはな。うちのセーラに最初から搭載されてた装備なのだ。あれを再現しようとしたがどうしてもでかくなってしまう。そして使用するには、オーガ一体では魔力量が全然足りないので、オーガとダークエルフのツーマンセルということにした。嫌がるダークエルフに、防御用の甲冑を着させてな」


「ほえー。でも、ジュギィのゴキちゃんには普通についてるよ?」


「あれはなあ」


 ジュギィの目の前には、平たく真っ黒な遠隔操作ゴーレムがちょこんと座っている。

 そのゴキちゃんの、背中が盛り上がっていた。

 一つだけ完成した、小型回転射撃装置の試作機である。

 威力はあるが、使用するには馬鹿げた量の魔力を要求する。


「私とアリーシャ、そしてジュギィしか使えまい」


「そなの?」


「ゴキちゃんを動かせるのは、私達三人だけだろう。そのレベルの魔力がなければ使えないんだ。この戦いの切り札は君だぞ、ジュギィ」


「おー! ジュギィ、切り札!」


 ジュギィは嬉しそうに、ぴょんぴょんと跳ねる。

 その体は、薄手の変わったプロテクターを纏っていた。

 それは、魔力を用いて様々な効果を発揮する、超小型ゴーレムアーマー。

 防御効果は全くないものの、その代りジュギィの能力を強化する仕掛けがされている。


「ご主人様。そろそろ戦端が開かれる気配です。ご準備を」


「うむ、ありがとうセーラ。やっぱりメイドはいいな」


「またルーちんが頭おかしいこと言ってる」


 メイドゴーレムのセーラの言葉を受けて、ルーザックは兜を被った。

 ジュギィとアリーシャは、戦車の内部に乗り込む。


『さて、どう見るルーザックよ。敵の物量は圧倒的。だが、それしきなら我輩の魔眼光で薙ぎ払えよう。問題は、鋼鉄王の隠し玉であろうよ』


『うむ。それは、以前会敵したメイドゴーレムの動きを解析し、セーラの協力を受けながらマニュアルを作ってある。アリーシャ、ジュギィ、ピスティル、セーラの四人である程度対応可能だろう。敵の身体能力が優れていたとしても、あの鋼鉄王のことだ。メイドたちにも統一規格が用いられ、作られている気がする。ならば、対処方法は簡単だ』


 ルーザックとサイクが会話する間にも、戦闘が開始されている。

 ぶつかり合うのは、突撃槍を装備したゴブリン戦車と、量産型ゴーレム軍団だ。

 猛烈な勢いで突進する戦車は、突撃槍をゴーレムへと叩き込む。

 すると、槍が爆発した。

 その勢いで後退するゴーレム。ゴブリン戦車は軽く宙を舞い、くるくる回ってぽてっと落ちた。

 中からゴブリン達が出てきて、えっさほいさと戦車をひっくり返して元通りに。

 そして、槍の先端を再装填した。

 何度も何度も練習したのだろう。

 戦場にあっても、その動きは習慣化されておりスムーズだ。


 このような状況が、戦場のあちこちで展開されている。

 さらに、戦闘における優先順位はゴブリン達の命である。

 完全に破損した戦車は廃棄して、ゴブリン達は撤退していく。


『よし、第二陣。鋼鉄兵団攻撃開始!』


 ルーザックの号令を受けて、鋼鉄兵達が身構える。

 その肩の上で、回転射撃装置……ガトリングガンが唸りを上げた。

 魔力によって炸裂する弾丸を撃ち出すこの装置は、一度の使用に膨大な魔力を必要とする。

 装置一つにつき、ダークエルフ一人を配備しなければいけないほどの燃費の悪さだ。

 だが、威力は絶大。


 弾丸の雨が、車高の低いゴブリン戦車の頭上を通り過ぎていく。

 炸裂、爆発、爆発、爆発、爆発。

 射撃で戦線をなぎ払いつつ、鋼鉄兵団が前進していく。

 本来ならばメイドゴーレムに装備されているはずの、鋼鉄王国でも上位に位置する装備だ。

 量産型ゴーレムでは、魔力の関係でこのガトリングガンを装備する事はできない。

 ダークアイは、何故これだけの数を量産し、装備する事ができたのか。


「ちっ、もう壊れてしまった」


『ダークエルフ、後退しろ』


「ああ。後はよろしく頼むぞ、オーガ」


 つまり、工作の精度が低いのである。

 一度か二度の斉射で、ダークアイのガトリングガンは使い物にならなくなる。

 初撃から撃てないものもあるが、過剰な魔力量を注ぎ込むことで、砲身を破壊しながら使用する事はできるのだ。

 回転射撃装置による蹂躙は、時間にしてほんの数十秒だったことだろう。

 だが、この短時間で敵軍のゴーレムのおよそ五割超が倒されるか、なんらかの致命的な損傷を受けている。

 魔族でも最大の魔力量を持つ種族、ダークエルフと、ドワーフの工作能力をあわせた規格外の兵装なのだ。

 それだけの力があって然るべきだろう。


『素晴らしい……』


 ジーンとしながら、ルーザックがスタンディングオベーションした。


『おいこら、危ないぞルーザック。座っておれ』


『あっ』


 ガツーンとルーザックの頭に、遠距離射撃兵器が命中した。


『痛い』


『座っておれ』


 ルーザックは大人しく座った。


『どうやら、敵には以前の狙撃型メイドゴーレムがいるようだな』


「そのようです」


 ルーザックの足元からセーラの声がした。

 彼女は戦車の中に乗り込むことなく、匍匐姿勢になって玉座戦車の上にいるのだ。

 そして、彼女の下から持ち上がってくる装備がある。


「では、応射します」


『よろしく頼む』


「お任せ下さい、ご主人様。ブリリアントキャノン、セットアップ」


 それは、セーラ専用の遠距離射撃兵装。

 ガトリングガンの応用で作られた、超巨大砲身のキャノン砲だ。

 これは、サイクの魔力を使用している。

 セーラは狙いをつけるだけだ。

 だが、彼女の性能は、魔力供給源であるルーザックによって保証される。

 ほぼ、無限に近い魔力を持つルーザックからエネルギーを供給され……。


「発見しました。では、我が主を狙う不届きな姉や妹たちに、鉄槌を下しましょう」


 ルーザックとサイクの魔力が混じり合い放たれる、砲撃型魔眼光。

 それこそがこの、ブリリアントキャノンの正体だ。

 そして命名はセーラ。

 ネーミングセンスは悪い。


「よし、やれ、セーラ」


「かしこまりました。ご無礼ファイア


 銃口が、咆哮した。

 放たれた、破壊光線は空に向かって伸びる。

 それは鋼鉄兵団をまたぎ、弧を描いて鋼鉄王国の陣地へと落下していく。

 発生するのは、爆発だ。

 次いで、衝撃波。

 戦場に響き渡る轟音。

 鋼鉄王国の大地が、揺れる。


「一撃で砲身が破損しました。やはりダークアイのそれは、鋼鉄王の武器の精度と比べればまだまだですね」


『面目ない』


「ご主人様は何も悪くありません。悪いのはドワーフです」


 全力でルーザックを甘やかすスタイルのセーラだった。

 だが、確かにセーラが言う通り、ドワーフ達が作り上げるダークアイの兵器群は、性能はさほどでもない。

 その運用方法と乗組員の技量で、敵との性能差を補っているのである。

 しかし、工業レベル的な限界があるからこそ、ダークアイの兵器は一芸に特化している。

 とにかく毎回、その戦場に特化したカスタムを、ドワーフのみならずゴブリン達も総出で作成する。

 そして何よりも、人命……いや、魔命優先である。

 技量を磨き上げ、マニュアルを己のものとして体得した魔族達こそ、ダークアイの最大の財産だった。


「ご主人様。姉達が出てきます」


『うむ、こちらでも確認した。鋼鉄王の最高戦力、上位のメイドゴーレム達だな。では、決着をつける。玉座戦車、最大戦速。鋼鉄兵団、前進。戦場への道を切り開け』


 鋼の巨人たちが、一斉に応える。


『御意!! 我らこそが、真の鋼鉄! 偽りの鋼鉄王を討滅さん!!』


 ルーザックがノリノリで考えた、最高の煽り文句である。

 大音声で、戦場に響き渡る。


「姉達がキレましたね」


『そこまで感情表現が出来るのか。凄いな、鋼鉄王のメイドゴーレムは』


 そしていよいよ、鋼鉄王国の決戦は最終局面に突入する。

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