第51話 激突、魔導王vs黒瞳王2

 降り注ぐ稲妻。

 これを迎え撃つように、ディオースが行使した精霊魔法が発動する。

 地面から次々と、土で作られた槍がせり出し、稲妻を引き寄せる。


『雷の逆になる属性は、土なのか?』


「うむ。雷は風属性なのだ。そのため、土属性で緩和することができる。これが精霊魔法であれば完全に相殺されていただろう。しかし、魔導王の魔法は私の力でも相殺できん」


 ディオースの言葉を受けて、ルーザックは頷いた。


『魔法は撃たせてはいかんな。魔導王が戦場にいるならば、接近戦に持ち込むべきだ』


「奴は遠いグリフォンスの城からでも、魔法を行使することができる。ここにいるかは分からないが……」


『ならば、徹底的に敵の手を潰し、本人が出てこざるをえないようにする』


「勝算は? 数はどう考えてもあちらが多いが」


『そのためのゴキちゃんだ。ジュギィ、アリーシャ、頼む』


「はいっ、まかされた、ルーザックサマ!!」


「ほいほーい」


 目玉戦車の胴体が展開する。

 そこに搭載されているのは、新型のゴーレムキラー改型……ゴキちゃん改である。

 以前のものより一回り大きくなった、その扁平な体には、ゴテゴテと余計な部品がくっついている。

 それが、ジュギィとアリーシャのコントロールを受けて戦場の只中へと走った。

 現在、この戦場において間違いなく最速であろう、このゴキちゃん改。

 あっという間に戦線を貫き、その奥へ。

 魔法王国側の陣地へと飛び込んだ。

 そこで、全身に纏っていた部品を、一気に引き剥がす。


「な、なんだ!?」


 グリフォンス側の魔導兵が、足元に転がってきたそれを見て首を傾げた。

 そして、気づく。


「こ、これ、有人ゴーレムの心臓……」


 ごく簡易な構造ではあるが、有人ゴーレムの心臓であるそれ。

 あらかじめ、ルーザックの魔力をたっぷりと注ぎ込み、臨界直前までエネルギーを高めていた心臓は、放り出された衝撃で起動を始める。

 だが、溜め込まれた魔力が逃げ出すための弁は塞がれている。

 小さな心臓の中で、魔力が渦巻き、出口を求めて暴れ続け……。

 やがて、わざと簡易に作られた、脆弱なそれが限界を迎える。

 爆発が起きる。

 グリフォンス側の陣地の、あちこちで。


『うむ。グリフォンス側が動揺したな。では全軍突撃!!』


『わははは! やっと我輩の出番か! そおれ、行くぞ。踏み潰してしまうぞ』


 目玉戦車が動き出す。

 それに従い、後続のゴブリンたちも移動を始めた。

 彼らは投石機や槍投げ機を所持しており、ある程度進むと、それらの兵器を使って戦場に向かって攻撃を行う。

 当てる必要などない。

 飛び道具による威嚇で、グリフォンスの戦意を低下させられればいいのだ。

 混乱する戦況の中で、あらかじめ自軍の投石と槍ではダメージを受けないように装甲強度を調整された鋼鉄兵団が暴れまわる。

 オーガの体力を増強しているから、振り回す武器が当たれば肉が削げ、骨が砕ける。

 ダークアイの軍勢は、明らかに勢力を増し、グリフォンス軍を押し込み始めた。

 どこからか命令があったのか、グリフォンスが後退を始める。


 そこへ、目玉戦車が飛び込んできた。

 真っ向から踏み入ってきた目玉戦車は、その直上に据えられた主砲、サイクを温存していた。

 即ち、ダークアイ軍最強の兵器であるサイクの放つ目玉光線……魔眼光である。


『ぬはははははは! ぬはははははははは!!』


 サイクは上機嫌で笑いながら、目玉に溜め込まれていた、桁違いの魔力を解き放つ。

 極太の光線が生まれ、戦場を一直線に貫いていった。


『よっこらしょ』


 それを、ルーザックが後ろから抱えて、ぐるりと回転させていく。

 鋼鉄兵たちは皆、頭を抱えて伏せ、魔眼光の視界に入らないようにする。

 故に、標的に収まるのは敵軍ばかり。

 戦場の端から端へと、殺戮の破壊光線が薙ぎ払った。

 この間にも、魔眼光を妨害しようと発生する魔法を、ディオースが軽減し、食い止めている。

 あっという間に、グリフォンスは壊滅状態に陥った。

 既に、見渡す限り、まともに動いている者はいない。


『ああ、満足したわい。そして、我輩、ちとハッスルして魔眼光を使いすぎたようだ。目玉戦車もしばらく動けなくなるぞ』


『お疲れ様だ。む』


 ルーザックは、鎧型ゴーレム内部に仕込まれた感知装置に、魔法的な反応を感じた。

 素早くサイクの影に隠れる。

 そして、ジュギィとアリーシャを引っ張り込んだ。


「わっ、なになに!?」


「ルーザックサマ、どしたの!?」


『来たようだ』


 その直後、突如としてルーザックたちの眼前に、赤い光の塊が出現する。 

 それは凄まじい熱量を伴い、サイクに向かって降り掛かった。


『ぬ、ぬおーっ』


 サイクが悲鳴をあげる。

 目玉戦車の車体が、熱に耐えきれずに崩れていく。

 ルーザックは二人を抱えて、後方へと大きく跳んだ。


『目玉戦車を一撃で破壊したか。ディオース、どうだ』


「駄目だ。あれは魔導王の本気だな。私ではあれを打ち消すことは不可能だ」


『理解した。サイクは放っておいても、あれだけでは死なないだろう。ジュギィ、アリーシャ。ゴキちゃん改を使い、魔導王を探ってくれ』


「はーい!」


「もう、抱えられたまんまでやるの!? ハードすぎるー!!」


 ジュギィはいいお返事を。

 アリーシャはぶつくさ言いながらも、手にしたコントローラーに魔力を込める。

 魔眼光から逃れるため、地中に潜っていたゴキちゃん改が飛び出してきた。

 扁平な遠隔操作ゴーレムが、戦場を駆け巡る。


「いた、いたよ!! みんな倒れてるから見つけるの簡単だったわ。一人だけ立ってるっていうか、空に浮いてる奴がいる!」


「ルーザックサマ、見つかった! なんか凄く嫌そうな顔してる。ゴキちゃん嫌い? あの人」


『うむ。現実世界の人間であれば、嫌いな者も多いデザインにしておいたからな。では行こう』


 アリーシャが指し示した方向に向けて、ルーザックが前進を開始する。

 二人の娘を下ろし、単身にて、そこにいる存在……魔導王ツァオドゥのもとへ。


『背部バーニア展開。フルバースト!!』


 ルーザックのゴーレムアーマーは、背中に黒い箱を背負っている。

 これがルーザックの魔力を受けて、外装を吹き飛ばす。

 中から出現したのは、二本の筒だ。筒の下端は逆向きになった漏斗ろうと状に広がっている。

 筒の内部に仕込まれた燃料と、魔力に反応する発火装置が動いた。

 筒が内部で爆発を起こす。

 爆風は周囲の頑丈な筒に遮られ、ただ一箇所の出口から噴出する。

 それは強烈な後押しの力となり、ルーザックを凄まじい速度で進ませた。


『脚部ブーツ型ゴキちゃん、展開!』


 さらに、ゴーレムアーマーのふくらはぎに設置されていた、わらじ状の金属部品が降りてきて、ルーザックの足裏を覆った。

 そこからはそれぞれ六本の足が生え、猛烈な速度で動き出す。

 背部の爆発と、脚部の疾走。

 二つの力を得て、ルーザックは正に、一陣の黒い疾風となり、戦場を一直線に駆け抜けた。


「なるほど、それがお前の武器ネ、黒瞳王……!!」


 彼を迎えるのは、魔法王国グリフォンスを束ねる王。

 魔導王ツァオドゥ。

 空中に浮かんだ彼女は、信じられない速度でこちらに迫って来た黒瞳王に対し、鋭い目線を向ける。

 彼女の周囲に、緑色に輝く光の輪が生まれた。

 幾何学的な紋様を描くそれは、魔法陣である。

 魔法陣が回転を始め、その中心から炎、雷、氷、光と様々な魔法を生み出していく。

 これを、次々にルーザックに向けて発射する魔導王。

 だが……ルーザックは速い。

 恐らく、ツァオドゥが見たことも無いほどの速さで一直線に突っ込んでくる。

 何発かの魔法は、その単純な機動に対して命中という成果を得ることができた。

 しかし、ルーザックの前方に構えられている、黒い魔剣とぶつかり、一方的に破壊される。


「私が今までに見てきた奴とは、全然違うネ……! 何ね、お前! そんなまるで、アニメから出てきたような姿で戦場に立つ! ふざけているか!?」


 叩きつけられる、苛烈な魔導王の魔法。

 その全てをいなし、躱し、あるいは正面から叩き切ったルーザック。

 ついに筒の中の燃料が尽き、履いていたゴキちゃんも破損したルーザックは、それらを脱ぎ捨てると魔導王の眼前に立った。

 そして、言い放つ。


『私は常に真剣だ』


 ダークアイとグリフォンスの会戦は、ついに最終段階へと至る。

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