第41話 ドワーフの実力とやらを見せてもらう
三名のドワーフをリクルートしたルーザック。
帰還した王都ホークウインドでは、無数のゴブリンたちが待っていた。
「ルーザックサマ! ギィール!」
「テイサツセイコウ、オメデトゴザイマース!」
「ギール!」
みんな、色とりどりの布を手に、それをいっぱいに振っての出迎えだ。
ドワーフたちは目を丸くした。
「おいおい、こりゃあ……。お前さん、どんだけこいつらに慕われてるんだよ」
「あるべき上司としての背中を見せただけだ。上に立つ者が規範にならずにどうする」
面白くもなさそうにルーザックは言い、仏頂面でゴブリン達に手を振る。
すると、王が反応したことに、皆大喜びで歓声を上げるのだ。
「何の冗談だ。お前、魔王なんだろう? なんでその配下が、鋼鉄王に従う連中よりも忠誠心が高そうなんだ」
「どっちが魔王でどっちが人の王なのか、分からなくなるな!」
ドワーフ達は、ドッと笑った。
「まあねえ。ルーちん、ほんっとーに人望だけはすっごいから。三ヶ月とちょっとで、あの圧倒的だった盗賊王を倒して、魔族の国を作ったんだもん。それに、ルーちんが盗賊王ショーマスを倒したシーンって、カーギィが魔法のメガネで全部見てたんだよね。これを、ゴブリンの部隊長たちが共有して、んでもって、ゴブリンたちに広がっていった。もうね、この人は魔族の間では英雄だから」
「ほおー……。盗賊王が倒されたことは知っていたが、そこまでのものだったのか。こりゃあ……俺らの仕事もやりやすくなるってもんだな」
ズムユードは愉快そうに、髭をしごいた。
うんざりする程長い上り階段を経て、王城へと到達する。
「この階段、改善したいところだな。何かこう、仕掛けを作って、もっと楽に昇降できるように……」
「エレベーターやエスカレーターみたいなものだな。人力になるとは思うが」
「えれべえた? お前、どういうもんか知ってるのか」
階段の上り際で、また雑談を始めたルーザックとズムユード。
アリーシャはすっかり呆れ果ててしまった。
とことん、男子のロマン的なものが理解できない性格なのである。
だが、ジュギィは興味深そうに、耳をそばだてている。
「ジュギィ、そんな難しい話わかんの? あたし全然わかんないわあ」
「んー、ジュギィ、わからない。でもでも、大切な話、わかる! ジュギィ、大切なこと知ってないと!」
「ジュギィは健気だねえ」
アリーシャに抱きかかえられ、ぐりぐりと頭を撫でられるジュギィ。
その後アリーシャは、男どもの尻を叩いて先を急がせた。
このままでは、日暮れまで掛かっても雑談を続けているのではないかと思えたからだ。
「ほらほら、行った行った! エレベーターなら、後で図解でもなんでもして作業しなさいよ! あんたらね、立ち話とか効率悪いっしょー!!」
「ぐえーっ! ルーザック、この女乱暴だぞ!」
「うむ。私の先代の黒瞳王でな。副社長でもあるので、なかなか重要な役割を果たしてくれているのだ」
「お前、ほんっとぶれねえなあ……」
ルーザックとズムユードは、尻を蹴られながら城に入っていった。
城と言っても、中はがらんどうである。
幾本かの柱が建っているだけで、外観からは塔に見える箇所まで、吹き抜けになっている。
そこに、巨大な目玉が浮かんでいた。
「うわああああ!?」
ドワーフ達は、並んで腰を抜かす。
『なんだ、此奴等は。おいルーザック、これがお主の連れてきた者たちか?』
「うむ。彼らが今回の戦いの鍵となるだろう。まだこれは端緒に過ぎないが、ここから基礎研究が始まる」
『ほう。ルーザックがそう言うのならば間違いないのだろう。我輩、お主が考えていることはよく理解できぬのだが、結果的にお主は魔族に歴史的大勝利をもたらした。今回のことも、我輩が想像もできぬ計画の途上にあるのだろう』
うんうん、と目玉……サイクロプスのサイクは頷く。
この異形が、思いの外フレンドリーにルーザックと会話しているため、ドワーフ達も、これが魔王軍の幕僚であるという事に思い至ったらしい。
「おい、ルーザック。こいつは……」
「我が王国の専務取締役、サイクロプスのサイクだ。まだ目玉だけだが、ゴーレムランドには右腕が眠っているらしい。第一目標は、これを復活、確保すること。次に、ゴーレムランドにおいて、可能な限り新型のゴーレムを確保し、これを当王国で量産することだ」
「色々考えてんだなあ。んで、最初にすることは? あれか。さっき見たゴーレムの反応を利用した、囮を作る作業か?」
「うむ。部下としてゴブリンたちを使い、研究に励んでくれ。その間の衣食住はこちらで担当する。君たちドワーフには、開発部という部署を与えよう。そしてズムユード。君は開発部長だ」
「お、おう」
妙な役職をもらい、ズムユードは目を白黒させた。
用意されたのは、王城の一角を改造した部屋である。
実際は、部屋の組み立てまでドワーフ達がやらねばならなかったので、用意されたというのは語弊がある。
彼らは壁を崩し、周囲に転がっていた石材を使用し、新たな空間を作り上げた。
炉を用意し、鉄床を設置し、さらにルーザックの要望で、会議用のテーブルを作った。
この時、ドワーフ達の指示に従ってせっせと働いたのが、開発部所属となったゴブリン軍団だ。
ドワーフ達が行った設計に対し、ゴブリン達は簡単な説明で意図を理解し、手足のごとく忠実に働いた。
驚くべき、マニュアルに対する理解度である。
「こいつは驚いた……。行動の指示に対して、とんでもなく忠実に従って実行しやがる。よく教育されているぜ。まるでゴーレムみてえだ」
「いやいや、ゴーレムと違うのは、あいつらきっちり休憩やトイレタイムは取ることだな。それから、作業が終わる度にお互いを褒めてるが、ありゃなんなんだ?」
ドワーフ達には理解できないアクションを挟みながら、彼らの開発室は完成していった。
およそ、三日間を掛けた作業である。
完成した当日の夜、ルーザックが視察に訪れた。
「うむ。素晴らしい開発室だ。これは、開発部発足に対して、私からの祝いの品だ。受け取って欲しい」
そう言うと、ルーザックは大きな樽を床に置いた。
その樽に、ドワーフ達は見覚えがある。
「お、おい、そりゃあもしかして……」
「うむ。諸君が愛してやまぬ、ゴーレムランド特製の火酒だ。この三日間で、酒職人も既に確保してある。酒造所の建設には時間がかかるだろうが、ひとまず最低限、諸君に酒を供給できる環境は整ったということだ」
「おお、ありがてえ!! お前、本当に有言実行だな! ちょっと尊敬するぜ……」
酒樽に駆け寄る仲間たちをよそに、ズムユードはルーザックと向かい合った。
「お前が本当に、信頼できる奴だってことを理解したぜ。改めてよろしく頼む、黒瞳王陛下」
「ああ。職務に励んでくれ。期待している」
がっしりと、握手を交わす二人なのであった。
「それで、陛下よ。お前、酒はいける口か? 一緒にどうだ?」
「生前は限りなく下戸に近かったが、今はこの魔族の肉体がアルコールを分解してくれるようだ。いただくとしよう。これも飲みニュケーションというやつだ。諸君らドワーフの忌憚ない言葉を聞かせて欲しい」
「相変わらず、堅苦しい奴だなあお前……」
酒が不味くなりそうだと、ズムユードは笑った。
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