第一章 盗賊王を討て
第2話 JK上司は先代魔王!
気が付くと、地面の上にいた。
昼なお暗い、森の中。
魔剣一本をぶら下げて、魔王ルーザックはぽつねんと立ち尽くしていたのである。
「……夢じゃなかったのか」
呆然とつぶやいた。
足元の、湿って柔らかな土の感触。
森とそこに生きる者たちが放つ、なんとも言えぬ
聞こえてくる風の音と、何者かの鳴き声。
この臨場感、間違いなく本物であった。
「いや、まだ夢だという可能性がある。頬をつねってみよう」
「いいわよ! あたしがやったげる!」
いきなり、ぎゅーっと頬っぺたをつねられた。
「ぎええ、いたいいたい」
ルーザックは慌てて、頬をつねる何者かを振り払った。
すると、それは随分小さかったらしく、ルーザックの腕にしがみついてしまう。
「な、なんだ……?」
袖からは、三頭身の小人みたいなものが、ぶらーんとぶら下がっている。
「あたしはアリーシャよ! よろしくね!」
「よろしくって言われてもな……。ええと、どちらさま?」
ルーザックの言葉に、アリーシャを名乗った小人は不思議そうな顔をした。
「あれ? 魔神さんから紹介されてない? あたし、あんたの教育をするようにって、こうして魂の欠片だけ再生してもらってるのよ」
「紹介……? 小人を?」
「そーよ? おっかしいなあ。魔神さん? 魔神さーん」
アリーシャが、何もない空中に声を掛けると、そこがまるで窓のようにがらりと開いた。
くたびれた顔の魔神がいる。
「ああ、済まない済まない。すっかり説明を忘れてしまっていた。君がお得意のマニュアルだが、我が魔神の陣営にそういうものはなくてな。だから、先代である七代目黒瞳王アリーシャを、君用の外付け知識としてよこすようにした。魂の欠片しか回収できなかったため、今はそのような成りだが、残る魂は、アリーシャを倒した七王から回収できるだろう」
「重要な説明ではないですか。つまり、彼女は生きているマニュアル」
「先輩よっ」
フスーッと鼻息も荒く、アリーシャは胸を張った。
「口頭でこれからの引継ぎがあるとすると、もしやOJT……?」
オン・ザ・ジョブトレーニング。
現場で体験し、都度ごとに経験者からの指導を受け学んでいくスタイルだ。
古い徒弟制度に近いかもしれない。
ちなみにルーザック、OJT大嫌いマンである。
「いやだなあ」
「わっ、あんたひっどい顔! いいの? あたし、こう見えても元女子高生よ! 女子高生が手取り足取り指導するつってるのよ!」
「そういうのは間に合ってるんで……」
「でもあたしがいないと、あんた手探りでこの世界行くことになるわよ。だって魔族ほとんど滅んでるもん」
「手探りは困る……! マニュアル……! せめて手引書……!」
「ないんだなー、それがー」
わっはっは、と笑いながら、小人こと先代魔王のアリーシャは、ルーザックの肩をばしばし叩く。
「じゃあ、よろしくねー」
魔神は無責任なことを言いながら、消えていった。
「魔神さんおつー。復活させてくれてありがとねー。うん、悪いのあたしだもんね。あたしの力が足んなかったから」
くるりと、アリーシャが振り返った。
まだ、ルーザックの袖に掴まったままである。
「とりあえずねー、肩に乗せてくんないかなー。色々説明とか案内すんね」
「うむむ……。ここで彼女を拒絶すると、手探りで仕事。それはまさに地獄……! 手探りか、明らかに波長が合わないJKの上司か……。だが、だが落ち着けルーザック。口頭でもマニュアルがあったほうがいい……!」
「今、すっごい葛藤してたっしょ」
アリーシャが半笑いである。
ルーザックの肩に乗った彼女は、女子高生と言われると、なるほど、それらしい姿かたちをしている。
長袖のセーラー服にスカート、白いハイソックス。靴は履いていない。
髪の毛はちょっと茶色くて、瞳の色だけが真っ黒だった。顔立ちは、まあ可愛い方なのではないだろうか。
「分かるけどね。あたしも来たときそうだったもん。だから、新人クンに苦労はさせないかんね!」
「新人君……?」
「だってあたし、君の名前知らないもん」
「ルーザックだ」
「ルー……。おっけー、ルーちゃん! このアリーシャ様が、ばしーっと教えたげるかんね!」
(おお……)
名前を覚える気が欠片もない。
「では、俺は君の事をなんと呼べば? アリーシャ先輩とか」
「せ、先輩!! 年上のオジサンが先輩って、うひーっ」
アリーシャが背中をばりばり掻いた。
「アリーシャでいっから! ってか、あたし地球だと、
「了解したアリーシャ」
「おっけ!」
ぐっとアリーシャがサムズアップした。
(よし、彼女への対応はこれで間違っていないようだ。ひとつ覚えたぞ)
徐々に彼女の行動パターンを把握し、対応マニュアル化していこう、と誓うルーザックなのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます