第182話 カレー事件② バレる
「――はい。分かりました」
ダメ元の保険は掛けた。
電話を切ると再び空へと飛ぶ。
「カレー店は、こっちか!」
店に向かう途中、ランクBの魔物をいくつか浄化する。
「今日は魔物多いな」
店の上空に来たところで、念の為にエリアサーチで怪しい反応がないかチェックする。
「ハロー、メイプル。なにか反応あるか?」
『いえ。特に反応はありません』
「よし、じゃあ調査しますか」
地上に下りてカレー店の店名を確認する。
「カレー専門店『マハラジャ』。間違いない、ここだ」
店内は客でいっぱいだし、リスクが大きい。やはり裏からか。
裏手に回ると美味しそうな匂いがしてきた。勝手口をそっと開けると、中からは「注文入りました!」「5番テーブル早く持ってけ!」といった怒号にも似た声が聞こえてくる。
「今からここに入るのか?」
カッコいいこと言って調査に来たはいいが、考えてみれば昼時なんて一番忙しい時間じゃないか。そんな中で消えたカレーの調査とかできるのか?
魔法少女のステルスモードは見えないだけで透明になれるわけじゃない。普通に人とぶつかる。呑気に調査なんてやってられないぞ。
「そうだ、念の為に衣装も変えておくか」
こんなロリータファッションで万一見つかったら恥ずかし過ぎる。
「これでよし」
いや、衣装変えたからってなんにも解決してないけどな。
とりあえず中に入るか。消えたカレーはどこに行った?
「そこでなにしてるの?」
「え?」
不意に話し掛けられて声のする方へ振り向く。そこには私服の女の子が一人。
慌ててステルスモードを確認するが、ちゃんとオンになっている。ということは……。
「もしかして、魔法少女?」
「はぁ? なに言ってるの?」
一番最悪なパターンじゃねぇかあああああ!!
魔法少女が見える一般人と遭遇するとかいうレアケース。なにも今こんなタイミングで来なくたって!
「もしバイトしたいなら無理だよ。今は募集してないから」
「え? てことは、もしかして店員さん?」
「そうよ。お昼からのシフトなの」
これは逆に千載一遇のチャンス!
「あの! お願いしたいことがあるんです!」
「えっ、え?」
「私、実は友だちから頼まれて、消えたカレーを調べに来たんです!」
「はぁ? 消えたカレー? なにそれ」
そうか、この子はまだ消えたカレー事件を知らないのか。
「えーとですね……」
事のあらましを説明すると、「なにそれ!?」と驚く。
「信じらんない! あのカレーを作るのにどれだけ苦労してると思ってるのよ!」
「え? あなたも作ってるの?」
「正式なメンバーじゃないけどね、手伝いさせてもらってるの。三ツ矢女学院なんて超お嬢様学校に提供する特別なカレーよ? そんな栄誉なことに関われる機会なんて滅多にないんだから」
「そうなんだ」
「それで? なんで警察じゃなくてあんたみたいな子が来てるの?」
「学校側は警察沙汰にしない方針らしくて、でも友だちは納得いかないからって」
「警察沙汰にしない!? 窃盗事件かも知れないのよ!?」
「うん。でも仕方のないことだと思うよ。学校側は下手に事件に関われないからね。それに窃盗事件は店側の問題だから」
「なにそれ!? 下手に関われないってどういうこと!?」
「お嬢様学校は信用が全てと言ってもいい。そんな学校で事件が起きたなんて言えるわけないよ。もっと直接的で大きな事件ならともかく」
「こんな小さな事件なんて知ったこっちゃないってわけ? 何様よ!?」
店員の子がヒートアップしてきたその時、勝手口のドアが開いて料理人らしき男がやってきた。
「てめぇ川口! こんなところで電話してねぇでさっさと仕事しろ!」
「電話じゃないですよ、この子と――」
「この子って誰だ?」
「は? なに言ってるんですか、この……あれ?」
川口と呼ばれた子が呆気にとられるのも無理はない。一瞬の隙を突いて屋根に跳び乗ったのだから。
川口さんはイレギュラーだったからしょうがないとして、他の人が来るとマズい。川口さんにだけ見える幽霊みたいになってしまう。それだけは避けねば。
「あれー? 今までここにいたのに」
「下手な言い訳するな!」
「違いますよ! ……そういえばあの子、どこかで見たような」
やばっ! 姫嶋かえでとバレたら厄介だぞ……。
「そうだ、店長! 三ツ矢女学院のカレーが消えたって本当ですか!?」
「お前、なんでそのことを!?」
「ここにいた子が言ってたんですよ。学校側は警察沙汰にしない方針だから、友だちに言われて調べに来たって!」
「……そうか」
「警察に言わないなんて、おかしいでしょ!? 立派な窃盗事件ですよ!?」
「お嬢様学校だからな、体裁もあるんだろう」
「店長もあの子と同じようなこと言うんですね……!」
「当たり前のことだ! 学校というのは信用の商売なんだ! それが三ツ矢女学院ともなれば重大なことなんだ! それくらい分かるだろう!」
「じゃあ店の信用は落ちてもいいんですか!?」
「そんなことまで心配しなくてもいい。校長先生は分かってくださる。契約破棄は言われなかった」
「でも……!」
「もういい。その話はもう終わりだ。早く仕事に入れ」
「……はい」
言い合いの末に、川口さんは折れたようだ。店に入っていく。
「参ったなぁ」
魔法少女の姿が見える一般人がいるとなると、店の中の調査はほぼ不可能だ。
だが少しだけ情報は手に入った。どうやら店長は消えたカレーが盗難にあったと思っているようだ。それにメイプルを使っても不審な魔力を探知できない。となると本当に窃盗事件かな?
「さすがに人間の犯罪者相手に魔法少女として動くわけにもいかないか」
諦めて帰ろうとした、その時だった。
『マスター、救援要請が入りました』
「お、ちょうど動けるし行くか」
『南東2キロメートルの交差点付近です』
カレーについては救援が終わったら北見校長に報告しよう。
……食べたかったなぁ、カレー。
To be continued→
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