第183話 カレー事件③ 暴走するトラック

 救援要請を受けて飛んで行くと、確かに魔物の気配がする。と、道路近くに魔法少女が倒れているのを見つける。

 白と赤のドレスに、ピンクのグラデーションカラーが可愛らしいボブヘアが目を引く。


「大丈夫!?」


 かなりダメージを受けてはいるが、致命的じゃない。これならRドリンクでいけるな。


「これ飲んで」

「――!? あ、ありが……とう」


 なんか俺を見て驚いたような?

 ドリンクを飲んで回復するのを待ってから事情を訊く。

 

「なにがあったの?」

「そこの交差点でコュースという魔物を浄化しようとしたんです。そしたら魔物がトラックと融合して」

「トラックと融合!?」

「はい。そのトラックに撥ねられました」


 それで倒れてたのか。

 

「そのトラックに融合した魔物を浄化すればいいんだね?」

「それが……」

「なにかあるの?」

「アナライズ情報によると融合した状態で浄化されると自爆するみたいで」

「自爆!?」

「はい。それで、あのトラックにはまだ運転席に民間人が乗っているんです」

「なるほど、それは厄介だね……。どこに逃げたか分かる?」

「東の方に」

「分かった。追ってみる!」

「あの! 私も一緒に行っていいですか?」

「え?」

「自己紹介が遅れました。波多野三和と言います。5キロメートルエリア担当です」

「私は――」

「姫嶋かえでさんですよね」

「知ってるの?」

「今の魔法少女で知らない人はいませんよ」

「それはもしかして、例の事件で……?」

「はい。実はその……。姫嶋さんのファンでして……」


 あー、それでさっき驚いてたのか。


「分かった。じゃあ一緒に追おうか」

「はい! よろしくお願いします!」


 とりあえず東へと飛ぶ。波多野の証言通り、確かに魔物の気配は東へと続いている。


「あっ!」

「これは酷いですね……」


 魔物の気配が残る道路には事故が発生していた。それも1台や2台じゃない。


「これは早くなんとかしないと!」


 気配を追い続けると、ようやく暴走するトラックが見えてきた。


「あれか!」


 なるほど、見た目はただのトラックだが魔物の気配が濃い。まさに一体化している。


「どうやったら自爆させずに倒せるんだ?」

「私もそれが分からなくて……」


 こういう時は頼れる相棒だな。


〈ハロー、メイプル〉

〈どうしましたか?〉

〈あのトラック、コュースという魔物が融合してるらしいんだけど、自爆させない方法はない?〉

〈一つだけ方法があります。魔物のコアを一撃で撃ち抜くことで自爆を阻止できます〉

〈なるほどな、やってみよう〉

「試してみたいことがあるんだけど、いいかな?」

「どんなことですか?」

「たぶん、あの魔物にはコアがある。それを一撃で破壊できれば自爆しないかも」

「えっ!? そんなことが可能なんですか?」

「うん。コアの位置さえ分かればね」

「位置は分かるんですか?」

「うーん、どうかな。意識集中コンセントレーションして探れば分かるかも。ちょっと待ってね」


 少しの間、目を閉じて意識集中コンセントレーションして魔物の魔力を詳しく探る。するとトラックの駆動部分に多くの魔力が集中しているのが分かる。

 その中に一箇所、魔力を強く感じる。きっとこれがコアだな。


「見つけた!」

「本当ですか!?」

「でもここって……」

「ど、どこなんですか?」

「えーとね、エンジン部?」

「ええー!? 車壊れちゃうじゃないですか!」

「でも、やらないと燃料尽きるまで暴走し続ける。その間に事故も増えるだろうし、誰かが死ぬかも知れない」

「そうですけど……」

「とりあえず、やってみるよ」


 魔法の杖を久しぶりにライフルモードにして構える。


〈メイプル、サポートお願い〉

〈了解。照準をコア部に固定します〉


 照準を固定って、そんなことできるのか。

 メイプルを作った藍音は本当に天才なのかも。


 ――意識集中コンセントレーション


 極限まで研ぎ澄ませたスナイパーライフルのような一撃が必要だ。優海さんの極細ピュアラファイを思い出せ。


「ハァ……スゥー……ハァ……」

〈照準固定完了。いつでも行けます〉

「よし。ピュアラファイ!!」


 今まで一番細いレーザーのような白銀の閃光が走る。その直後に手応えを感じた。


「よし!」

「なに、今の……すごっ」

「確認しに行くね、波多野さんはそこで待ってて!」

「あ、はい!」


 急いでトラックに向かう。確認するというのは方便だ。コアを撃ち抜いた実感はあった。それよりも、一刻も早くトラックを止めないといけない。


「大丈夫ですか!?」


 運転席を見ると、案の定運転手は気を失っていた。


「くそ!」


 ペーパードライバーだが、一応免許は持っている。しかしこの小さな身体で止められるか?


「ブレーキに届かない!」


 無理やりブレーキだけ踏むか? だがバランスを失って横転しかねない。こうなったら……!

 魔法の杖のボタンを押して変身を解除し、スーツ姿のサラリーマンに戻るとブレーキを踏む。


「……っ! ――ふぅ」


 なんとか路肩に寄せて停めることができた。あとは警察と救急車に連絡して一件落着かな?


「うう……」

「大丈夫ですか?」

「か、カレーを……」

「カレー?」

「カレーを……早く……」

「どういうことですか!?」

「早く、学校……へ」

「――! それって、まさか三ツ矢女学院ですか!?」

「あ、ああ……」

「どういうことですか? カレーは盗難にあったと聞きましたけど」

「違う。……カレーは、ある。早く……」


 そこでまた気を失ってしまった。

 どういうことだ? カレーは盗まれたわけじゃない。ということは、もしかしてこの人はマハラジャの従業員か?


「とにかく、まずは変身しないとな」


 再び姫嶋かえでになると、スマホで運転手の顔を撮影してからトラックの荷台を開けて見る。そこには運転手の言うようにカレーの匂いが漂う寸胴が固定されていた。


「これか」


 スマホで写真を撮って荷台を閉めると、波多野に警察と救急車を呼ぶよう伝える。


「ごめんね、私はちょっと行かないといけないから、お願いね」

「はい! あとは任せてください!」


 笑顔で手を振る波多野さんに手を振って応えると、急いでマハラジャへ向かう。一体何がどうなってるんだ?



 To be continued→

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