第178話 理事長との会談

 おいおい北見校長! カレーのためにとんでもないサプライズ仕掛けてくれたな!?


「す、すみません! 理事長のお名前も存じ上げず!」

「ふっ。スレイプニルに聞いていた通りだな」

「え?」

「スレイプニルから聞いてないのかね? 私はを知る数少ない人間の一人ということだよ。樋山楓人君」

「――!」


 そういや、ぷに助がそんなこと言ってたな!?


「変身は解除できるかね?」

「今ですか?」

「そうだ」

「え、でも……」

「大丈夫だ。彼女には10分ほど近づかないよう言ってある」


 ということは、彼女は事情を知らない魔法少女か。それとも一般人か。

 

「分かりました。お待ち下さい」


 こういう事もあろうかと、変身中は必ず雑魚の魔物を浄化している。

 魔法の杖のボタンを押すと、スーツ姿のサラリーマンになる。


「……ほう。それが君の本当の姿か」

「はい。樋山楓人と申します」

「ふむ。話には聞いてたが、本当に不可思議なものだな。男なのに魔法少女の器を有している」

「分かるんですか?」

「ああ。魔法少女の中には器を知覚できる者もいるよ。……これほど強力な器に強大な魔力は私の記憶には無いな」

「スレイプニルや他の魔法少女から聞いてはいるんですが、やはり珍しいんですか」

「ああ。現在のデセム・マギアにもいないだろう。特に魔力においてはね」

「デセム・マギア?」

「100キロメートルエリア担当の俗称だよ。10人の魔法少女という意味の造語だ」

「そうでしたか。あまり聞き馴染みなかったので」

「そうだろうね。デセム・マギアは大昔に誰かがそう言い出しただけで定着はしなかったから」

「でも中原さんは使われるんですね」

「なんとなくだよ。だって100キロメートルエリア担当なんて、長ったらしいじゃないか」

「まあ、それは確かに……」

「さて、話を戻そう。魔法少女の器というのはあまねく女性に生まれつき備わっているものだ。器は知覚できるし魔物は器を食らう。だが摘出はできない。つまり知らぬ間に移植されていた、などということはあり得ない」

「では、私も生まれつき備わっていたと」

「そう考えるのが自然だろう。そしてそれは天界も共通見解のはずだ。魔法少女の長い歴史上で初めての事象、例外的特異点。それが樋山楓人なのだろう」

 

 前から、考えなかったわけじゃない。

 魔法少女の器は男には現れない。でも、そういうルールとか、絶対的な決まりとは限らない。突然変異のように偶然の産物で生まれた魔法少女、それが俺なのかも知れないと。


「ただ、そうなると一つだけ解けない謎が残る」

「……姫嶋かえでの体はどこからやって来たのか、ですね」

「そうだ。君も知っての通り、魔法少女は元の体そのままだ。多少の身体能力強化はあるが、特別製というわけではないし、魔物に殺されれば普通に死ぬ。魔物と戦えるようにドレスという防具と魔法という武器を与えられるに過ぎない」

「それと、スレイプニルには話したんですが、どうやら姫嶋かえでのドレスは間宮楓香がデザインしたものなんだそうです」

「それは本当か?」

「はい」

「……いや、考えられんことではない。魔法の杖には所有者となる少女のデータが予めインプットされる。その時に間宮の衣装データがインプットされ、姫嶋かえでのドレスに反映された。という可能性はある」

「なるほど、そう考えると腹落ちしますね」

「ともかく興味深いか。……そろそろ時間になる。姫嶋かえでに変身しておけ」

「あ、分かりました」


 魔法の杖のボタンを押して魔法少女に変身する。


「……ふぅ」

「その体には慣れたのか?」

「はい。もうだいぶ」

「30代の男性がいきなり少女になるんだ、大変だったろう」

「それは、まあ」


 大変なんてものじゃない。身長や腕の長さ、歩きの違和感など、最初はまるでロボットを操縦しているようだった。


「ところで、君は今後どうするのかね?」

「どう、と言いますと?」

「このまま魔法少女として生涯を遂げるのか?」

「え?」


 魔法少女として……。そうか、俺はあくまで代行。魔法少女Agentだったじゃないか。もうずっと魔法少女やってて感覚麻痺ってたのか?

 そもそも間宮楓香を守るのが俺の、姫嶋かえでの使命の一つだったはずだ。技能試験にライブに三ツ矢女学院に、忙しすぎてすっかり忘れてた。


「でも、スレイプニルから聞きましたけど、魔法の杖を返納すればいいって問題じゃないんですよね?」

「そうだ。魔法少女は魔法の杖と魂との直接的な魔法契約によって成される。よって返納したから契約が解除されるわけではない。それは間違いない」

「最初は魔法少女なんて冗談じゃない。元に戻してくれって思いました。でも、今はおかげさまで良いマンションに住めてますし、大変な目にも遭いましたが、高位ハイランクを目指す目標もできて……。

 なんていうか、半年前からすると考えられないくらい充実してるように思えます。青春の延長じゃないですけど、悪くないって思えます」

「では、今後も魔法少女として生きて行くのかな?」

「と言いますか、それしか選択肢はないでしょうし」

「……戻れる。と言ったら?」

「――え?」

「元の樋山楓人の人生に戻れる。と言ったら、どうする?」



 To be continued→

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