第176話 魔物の会議

「ほんっとうにごめん!」

「いやいや、謝ることじゃないですって」


 医務室で目が覚めた優海さんは、ラジオネの異空間で気絶してしまい、助けられたことを何度も謝る。


「それに全員無事だったんですから」

「でも、あの子たちきっと魔法少女辞めたがるわね……」

「まあ、いきなりA+に出会して危うく死ぬところでしたからね」

「A+? てなに?」

「え?」


 しまった! 優海さんはあの会議に出席してないんだ!


「え? えーと、ランクAですよランクA」

「今プラスって言ったよね?」

「……言いましたっけ?」

「言った。かえでちゃん〜? なに隠してるのかなー?」

「ちょ、近いですって!」

「だって近づいてるもの」


 優海さんにこんな迫られるなんて……!


「うぅ……。わ、分かりましたよ。実はですね……」


 高位ハイランク魔法少女の会議に出席したこと、ランクの新基準が作られたことを話した。ランク報酬はさすがに伏せたほうがいいだろう。


「ふーん。それじゃあラジオネは50キロメートルエリア相当の危険度ってことなのね」

「そうみたいです。まだ高位ハイランク魔法少女だけの実装なので、秘密にしてくださいね」

「いいけど。ズルいなー、かえでちゃんだけそんな会議行くなんて」

「流れでそうなったんですよ。それに、優海さんなら高位ハイランクになれるんじゃないですか?」

「私? ううん、そこまでの力はないよー」

「そうですか?」


 なんか誤魔化そうとしてる感じもするが……。


「それじゃ私はそろそろ戻りますね」

「え? あ、もうこんな時間!? ごめんね、変なことに巻き込んじゃって」

「いいですよ。優海さんも新人さんも無事だったんですから。それじゃ!」

 

 そういえば、結局ラジオネは浄化できなかったな。どんなやつなんだろ?


 *   *   *


 ――夕方。街中の裏路地。


「……」

「それはそれは、不運でしたねぇ」

「……。……」

「まあまあ、新人の魔法少女で当たりを探すなんて非効率ですから、仕方ありませんよ」

「……! ……」

「ですが、あなたの特性上、高位ハイランク魔法少女を引き込むのは大変でしょう」

「……! ……。……」

「なるほど。しかし今回の一件で警戒が厳しくなりますし、しばらくは雑魚や普通の人間で我慢するしかありません。今は耐えてください。私が良い狩り場を作って差し上げます」

「……?」

「ええ、もちろんですとも。あなたは希少種ですし、私もできる限りの協力は惜しみませんよ。今後は良きビジネスパートナーになりそうですし」

「……? ……」

「ええ、それで構いません。我々にとっては理解が難しい新たな概念ですから」

「……。……」

「それは否定しませんよ。だからこそ、貴方がたのような狡猾で有能な魔物が私には必要なのです」

「……。……!」

「そんなことはありませんよ。それに、私にはすでに強力なビジネスパートナーがいる」

「……?」


 ちょうどその時、空間がひび割れ、そこから魔物が現れた。


「よぉ。こっちは済んだぜ」

「ご苦労さまです」

「ん? なんだそいつは?」

「ああ、紹介しましょう。私たちの新たなビジネスパートナー候補、ラジオネさんです」

「ラジオネ? 噂で聞いたことはあったけどよ、実在したんだな」

「ええ、もちろん。彼女はとても魅力的ですよ」

「彼女? そいつ女なのか?」

「いえ、魔物に性別の概念はありません。ですが、ラジオネさんは彼より彼女と呼ばれるほうがお好きなようなので」

「……、……」

「ははは。そうですね」

「あ? なんて言ったんだ?」

「あなたに私の感性は分からない。と」

「悪かったな。ていうかそいつの言ってること分かるのかよ?」

「ええ。最初は苦労しましたが、コツを掴めばそう難しいことではないですよ」

「へぇ、そうかい。俺は通訳してもらえればいいや」

「……?」

「なんだって?」

「あなたはなにをするのか? と」

「俺にはぶっ殺したい奴がいるんだ。そいつとまた殺り合う前に、こいつに協力して力を付けてるんだよ」

「……?」

「相手は高位ハイランクなのか? と」

「いや、まだ高位ハイランクじゃねぇよ。そうだ、あとで情報渡すから、そいつだけは喰うんじゃねぇぞ」

「……、……。……」

「ふむ」

「なんだって?」

「その件については了解してくれました。ただ、一つ気になることを言ってます」

「なんだよ」

「さっき捕食し損ねた魔法少女の中に、あなたと似た気配を持つ者がいたと」

「似た気配? 俺の同族ってことか」

「可能性はありますね。寄生したばかりだとしたら、魔法少女と魔力が混在して分かりづらいですから、似た気配になるのも頷けます」

「へぇ? 面白えじゃねぇか」

「というと?」

「その同族を上手いこと利用すれば、高位ハイランクを喰えるぜ?」

「ほほう。それは興味深い」

「……! ……!」

「なんだって?」

「もし本当に高位ハイランクを捕食できるなら、ぜひとも協力させて欲しいと」

「いいぜ、美味いメシのためなら、俺も協力は惜しまねぇ」

「フフフ。思わぬ形ではありますが、ラジオネさんとは良いビジネスになりそうです」

「そういやぁ、例の計画はどうなってんだ?」

「ああ、順調ですよ。すでに種も蒔きました。1週間もすれば楽しいフェスティバルの開幕ですよ」

「よし、なら俺は予定通り動くぜ」

「……。……」

「ええ。では、またお会いしましょう」


 日が沈む逢魔が時、世界が闇に染まりゆくように、魔物の思惑は着実に魔法少女たちへと迫っていた――。



 To be continued→

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る