第174話 悪臭の異空間

「優海さんと付近の高位ハイランク魔法少女に緊急連絡! 救援要請を!」

『了解』


 地面を蹴って空へと跳ぶ。だが上から見ても捕捉できない……!


「メイプル! 詳しい位置は分かるか!?」

『魔力反応から推定座標を計算中。……2時の方向、ビルの裏路地です』

「くそ! 厄介なところに!」


 急行すると、確かに魔物の気配が濃い。杖にも反応がある。


「どこだ!?」


 魔物の姿も、3人の姿も見えない。


「メイプル、頼む!」

『スキャン開始』


 どこだ、どこにいる!?

 気配はあるんだ。メイプルの魔力探知にも引っ掛かってる。あとは姿さえ見えれば!


「かえでちゃん!」

「優海さん!」

「3人は?」

「分かりません。ここに魔物がいるはずなんですが、見つからなくて……」

「そう……。高位ハイランク魔法少女への救援要請は?」

「済ませました。ただ、運悪く近くに誰もいなくて……」

「仕方ないわ。私たちだけで探しましょう」

「はい!」


 落ち着け、落ち着いて考えろ。

 魔物の反応はある。気配もちゃんとある。近くにいる。それは間違いない。


〈メイプル、見つからないか?〉

〈はい。サーチに反応ありません〉

〈魔力反応はあるんだよな?〉

〈はい。それは間違いありません、マスター〉


 ということは、もしかして……。


「優海さん、地下に潜る魔物なんていますか?」

「うーん、空を飛ぶのならいっぱいいるんだけど、地下は聞いたことないわねー」


 地下じゃない? それじゃどこに……。


〈姫嶋、目の前の空間に向かってピュアラファイを撃て〉

「え?」

〈早く!〉


 突然の個別通信に驚きながらも、「優海さん、少し下がってください」と言ってからピュアラファイを撃つ。すると空間が歪みひび割れた。


「これって!」

「異空間への入口だわ! 行きましょう!」

「はい!」


 中に入ると酷い悪臭に思わず鼻をつまんでしまった。


「なんだこれ?」


 そこら中に黄色いネバネバした粘液のようなものが張り付いている。


「触らないほうが良さそうね。早く探して帰りましょう」

「はい」


 今すぐにでもシャワーを浴びたい気分だ。黄色い粘液だけじゃなく、淀んだ空気が吐き気を催す。


「いた!」


 部屋の奥の壁に、黄色い粘液で張り付けられた3人がいた。


「……これ、どうやって剥がしましょう」


 3人を助けたいのは山々だが、正直触りたくもない。


「下がってて」


 優海さんは粘液に魔法の杖を向けると、極細のピュアラファイを撃ち込む。すると粘液はシュォォと溶けていく。


「やっぱり。これ魔物の一部だわ」

「ということは、ピュアラファイで一掃すればいいんですね?」

「うーん、かえでちゃんは止めたほうがいいかも」

「どうしてですか?」

「ここは魔物が創り出した異空間だから、この部屋そのものを破壊しかねないのよ。かえでちゃんの魔法ピュアラファイ強力だからね」

「た、確かに……」

「私がやってみるわ」


 そう言うと極細のピュアラファイで慎重に粘液を剥がしていく。

 それにしても芸術的なまでの魔力制御だな。こんなに細いピュアラファイ優海さん以外で見たことない。まるで外科手術だ。


「……よし、静山さん終わったわ」

「一人ずつ救出しますか?」

「そうね、全員一気には無理だろうし、お願いできる?」

「はい」


 魔法少女に変身してると身体能力が上がるから小学生3人運ぶくらいはわけない。だがこの特異な空間では無理に運べない。


「このまま医務室に運びますか?」

「そうねー、悪いけど本部まで送り届けてもらえる?」

「分かりました」


 異空間から出ると本部の医務室へと向かう。


「あら、かえでちゃん。久しぶりじゃない」

「リネさん、お久しぶりです」

「その子は?」

「魔物に捕まって異空間に閉じ込められてたんです。念の為に検査とかお願いできますか?」

「もちろんよ。……なんか臭うわね」

「そうなんですよ。部屋中が黄色い粘液だらけで空気も淀んでて、すごく臭いんです」

「待って、異空間に閉じ込められてたって言ったよね?」

「え? はい。そうですけど」

「この子を襲った魔物、ひょっとしたらラジオネかも」

「ラジオネ?」

「ランクAの中でも厄介な奴でね。捕まえた魔法少女を異空間に閉じ込めて魔力を少しずつ吸い取るの。器が枯れるまでね」

「もしかして、魔力反応も気配もあるのに見当たらないとか?」

「そうなのよ。どうやって魔法少女を捕らえるのか分かってないし……。だから高位ハイランク魔法少女でも要注意なの」

「大変だ! まだ異空間に優海さんと捕まった子が残ってるんです!」

「なんですって!? 私も行くわ、案内して!」

「はい!」



 To be continued→

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る