第173話 新人研修
「ふぅ、こんなもんかな?」
新人研修に必要な諸々の準備を終えると、ちょうど新人が入ってきた。
「うわー、すごい」
「どうなってるの?」
「こ、こんなところでやるの……?」
3人か。思ったより少ないな。どんな魔法少女になるのかな?
「そうだ、優海さん、私はなにすればいいんですか?」
「あー、かえでちゃんには実技と体験談をお願いしようと思ってるの」
「実技?」
「ピュアラファイの指導よ」
「し、指導。ですか?」
「大丈夫よ、撃ち方を教えてあげればいいから」
「はぁ」
大丈夫か? 優海さんに教えてもらったとはいえ、半分自己流だぞ?
「はい、ではそこに並んでね。右からお名前と年齢を教えてください」
「鍵山
「小林真奈です。10歳」
「えと、静山ひなたです。10歳……です」
小さいと思ったら小学生かよ!?
そういや、優海さんていくつなんだろ?
「私は逢沢優海っていいます。よろしくね。で、こちらがお手伝いしてくれる姫嶋かえでさん」
「え? あ、はじめまして。姫嶋です」
自己紹介すると急にザワつく。
「えと、なにか変だった?」
「ううん。たぶん……」
「あの! もしかしてHuGFの姫嶋かえでさんですか!?」
「あ――」
そうか、すっかり忘れてた。あのライブで一気に有名人になってたんだ。
「えーと、……はい。そうです」
「すごーい!」
「超有名人だ!」
一気にテンションマックスになる二人に、静山はついて行けてないようだ。この子は知らないのかな?
「はいはい、落ち着いて。一応言っておくけど、姫嶋さんは今は入院中ということになってるから、みんなには内緒だよ?」
「そうだ! もう死にそうって聞いた!」
「どうしてここにいるんですか!?」
「それはね、秘密のお薬で治したからよ」
「すごーい!」
「そんなお薬あるのー!?」
「すごいでしょー? これからお話することを聞いて、がんばって魔法少女のお仕事すれば、みんなもそのお薬使えるようになるかもだよ?」
「すごいすごーい!」
「がんばるー!」
「良い子ねー、じゃあお話するね」
さすが優海さんだ。子供の相手も慣れてる。
あの子は大丈夫かな? 全然ついて行けてないけど。
「まず、魔法少女ってなにをするお仕事か分かるかな?」
「はい!」
「鍵山さん、どうぞ」
「魔物を倒すことです!」
「はい、大正解!」
「えへへ!」
「じゃあ、その魔物を倒すにはどうすればいいかな?」
「はい!」
「小林さん、どうぞ」
「魔法でじょーかします!」
「うん、大正解!」
「やったー!」
「じゃあ、最後に静山さん」
「え、はい!」
「強い魔物に襲われちゃったら、どうする?」
「えーと……。逃げます」
優海さんに問われて自信なさ気に言う。
「なんでー!?」
「戦わないのー!?」
「うぅ……」
「大正解!」
優海さんが高らかに正解を宣言すると、二人はポカーンとする。
「なんで戦わないの? て、二人は思うんでしょ?」
優海さんに訊かれて二人は力強く頭を縦に振る。
「魔法少女になって、テンション上がっちゃって、すごくワクワクしてると思う。でもね、一つだけ大事なことを教えてあげる。私たち魔法少女はビルから落ちても、車に撥ねられても死なないけど、魔物は私たちを殺せるの」
優海さんは最後に声のトーンをやや落とす。ほんの僅かだが温度が下がった気がした。
「魔法少女はカッコいいし、可愛いし、すごく楽しいこともある。でもね、テレビゲームやスマホゲームとは違って殺されると本当に死んじゃうの」
「……」
「……」
「死んじゃうの、やだよね?」
「やだ!」
「死にたくない!」
「そうだよね。だから、強くて勝てないって思ったら逃げてください。もう全力で! それで、ちゃんと生き残ってください。そうすれば、強い先輩が助けてくれるから」
「……優海さんや姫嶋さんも、助けてくれる?」
「約束はできないけど、近くにいたら絶対助けるよ。だから、ちゃんと逃げて生き残ろうね、静山さん」
「うん!」
すごいな、優海さん。俺は子供を説得する自信なんてないや。
「さて、次は姫嶋さんの実技ね」
「えっ」
「どうしたの?」
「本当にやるんですか……?」
「当たり前じゃない。ほら、がんばって
そう背中を押され、予め決めておいた位置に立つ。
「もう……。どうなっても知りませんよ」
子供の前でクイックドロウはやらないほうがいいな。できるだけ基本通りに。
――
「星が回ってるー!」
「いいところに気づいたね。あれは
「ピュアラファイ!」
白銀の閃光は真っ直ぐターゲットを射抜く。しかし、できる限り出力は抑えたつもりだが、やはり通常の5倍は出てしまう。
もっと早く花織さんに魔力制御を教わるべきだった。そうすればデュプリケートで攻撃の幅を広げられる。
「て、あれ?」
子供たちはポカーンとしてるし、優海さんはクスクス笑ってる。
「もう、だから言ったじゃないですか」
「そんなことないよ。ほら、よく見て」
子供たちは目を輝かせていた。
「すごーい!」
「今のがピュアラファイ!?」
「ひ、姫嶋さん、すごいです!」
「あ……どうも」
「ほらね。もうすっかりヒーローよ、かえでちゃん」
そうか、子供ってすごいのを見ると素直にすごいって思うんだよな。俺だって小さい頃は変身ヒーローに憧れたものだ。
優海さんは、ここまで計算していたんだろうか?
「姫嶋さんのように、なりたいかー!」
「「「なりたーい!!」」」
引っ込み思案だった静山ひなたですら、いつの間にかすっかり優海さんのペースに乗せられている。
――その後も優海さん中心に新人研修は進み、滞りなく全てのプログラムが終了した。
「はい。お疲れさまでした! 気をつけて帰ってねー」
「あ、私が送って行きますよ」
「そう? ありがとう。私は後片付けしてくから、よろしくね」
「はい」
訓練棟から出て、本部を後にすると
「じゃあ、気をつけて帰ってね」
「はーい!」
「ありがとうございました!」
「またねー!」
人生で子供と触れ合う機会なんて意外と少ない。今日は貴重な体験になったな。
――と、優海さんのところへ戻ろうとした時だった。
「この、感覚――!」
魔物だ。わりと近い!
「ハロー、メイプル! 近くに魔物は!?」
『500メートルほど離れた場所に反応あり。推定ランクはA+です』
「こんな街中で!?」
しかも、レーダーに映る位置は――
「3人が危ない!!」
To be continued→
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