第171話 生島の過去とtre's結成の秘密
「
――魔法少女の裏切り。
魔法少女の資格を剥奪され、護衛が付くこともなく魔物に食い殺される。実質的な処刑だ。
「そうね。そう捉えることもできるわ」
「どういうことですか?」
「先日、有栖川さんが行方不明になったでしょう?」
「はい。洗脳されていた件はまだ調査中とのことですが」
「あの時は、洗脳より酷かったわ」
「……というと?」
「ある魔法少女が魔物に乗っ取られたの」
「乗っ取られた?」
「ああ、姫嶋さんはまだそういう魔物を知らないのね」
「すみません……」
「いいのよ。ではまず、魔物についてお話しましょう。魔物の名前はピューゲル。ランクAの厄介な奴でね、魔法少女専門の寄生型なの」
「魔法少女専門!?」
「寄生型は分かる?」
「はい。以前ワュノードと遭遇しました」
「ああ、あれも厄介よねぇ。よく無事だったわね」
「tre'sのお二人に助けていただいたので」
「あら! あの二人に? 運が良いのねぇ」
正確にはぷに助が応援として呼んでくれたんだけど、説明面倒くさいからいいか。
「あの、少し話が逸れてしまうんですが、質問してもいいですか?」
「ええ、どうぞ」
「tre'sはどうして二人組なんですか? 100キロメートルエリア担当は10人しかいないのに……」
「ああ、聞いてないんですね。……そうね、私が話したことは内緒にできる?」
「はい。もちろん」
「あの二人はね、魔物から呪いを受けているのよ」
「呪い……ですか?」
「そう。一部の魔物だけが使える解除不能の魔法。それを通称として呪いと言うのよ」
「魔物だけが……。ローレスとはまた違うんですか?」
「ええ。ローレスとはまた違うわ。ローレスのは魔法少女を殺すための魔法だけど、呪いは魔法少女の能力や行動を封じるのが主な目的よ。中には死に至る強力な呪いもあるけれど」
「なるほど……。それで、その呪いをtre'sのお二人が受けてる?」
「ええ。ある魔法少女を助けるためにね」
北見校長は紅茶を一口飲むと、当時を思い返すように瞼を閉じる。
「その子はまだ魔法少女になったばかりだったの。知ってか知らずか、エリア外でランクAの魔物に遭遇して殺される寸前だった。そこへ救援に現れたのが的場奏雨さん。的場さんは見事に魔物を倒したわ」
「え? 倒したのになんで……」
「その魔物だけじゃなかったのよ。気配を消して潜んでいたもう一体のランクAがいた。的場さんはその魔物から呪いを受けてしまった。
急遽、応援要請を受けて駆けつけたのが神楽・ソランデルさん。神楽さんの活躍もあって魔物は
そこで、神楽さんは一計を案じた。的場さんの呪いを自分にも移したの」
「そんなこと、できるんですか!?」
「普通なら無理ね。でも神楽さんは特殊な術式でそれをやってのけた。その影響で呪いの性質が変わったのか、二人は
「なっ!?」
一定距離で魔力が消える!? いくら魔物だけが使える魔法だからって、そんなことがあり得るのか?
「だから二人は一緒に行動せざるを得なくなったんですか」
「そうよ。でも、それ以来二人は獅子奮迅の活躍で魔法少女を、世界を支えてくれているわ」
「でも、それなら100キロメートルエリア担当の枠を増やせばいいのでは?」
「それはできないそうよ。私も詳しくは分からないのだけど、天界のシステム上の問題のようね」
天界の技術者は優秀だ。それでも枠を調整できないとなると、カーネルレベルの問題なのか。
「話してくださってありがとうございます」
「いいのよ。命の恩人のことは知っておきたいでしょう」
「はい。……あれ? 命の恩人なんて言いましたっけ?」
「ふふ。分かるわよ。ワュノードに遭遇して無事だった新人なんていないもの」
「あはは……」
そりゃそうだ。あんなの倒せる新人がいたら見てみたいわ。
「それじゃ、話を戻してもいいかしら?」
「はい、すみません」
「いいのよ。……そうね、私からも一つ質問していいかしら?」
「え? はい」
「もし、あなたの大切な人が魔物に乗っ取られたら、どうする?」
大切な人が魔物に乗っ取られたら?
俺の大切な人か……。魔法少女に限定するなら、真っ先に浮かぶのは紫や歩夢かな?
「……それは、殺す以外の選択肢が無いという状況なんですか?」
「そうねぇ、一つ教えてあげるわ。乗っ取られるというのは、寄生型が器を支配した状態のことを言うの」
「それって……!」
「そう。乗っ取られた状態で魔物を倒すということは、器を壊すのと同義なのよ」
魔法少女の器を壊すということは、魔法少女にとって死を意味する。よしんば生き残れたとして、器が壊れたことで大量の魔力に汚染されて暴走するか、魂が汚染されたら……。
「……つまり、選択肢は初めから無いんですね」
「ごめんなさいね、意地悪な質問をして」
「いえ。ということは、生島さんは……」
「そう。乗っ取られた親友をその手でね。辛かったと思うわ、とても。軽々しく『気持ちは分かる』などとは口が裂けても言えない。私も、お疲れさまと言うのが精一杯だった」
「でも、それでどうして私を会わせたかったんですか?」
「あの子は、死に場所を求めてるのよ」
「死に場所を……。そうか!」
「思い当たる節がある?」
「はい。ずっと気になっていたんです。とにかく強い魔物と戦いたがっていて、それで負けそうになった時に諦めたような顔をしてたんです。逃げようともしないで」
「そうだったの……。姫嶋さんがいてくれて良かったわ」
「え?」
「姫嶋さんがいなかったら、生島さんは昨日死んでいたかも知れないから」
「……買いかぶり過ぎですよ。私は私で生き残ることに必死だっただけです」
「それでいいのよ。生島さんは吹っ切らないといけない。生きることに必死なあなたを見れば、きっと気づいてくれる。そう思ったの」
まったく、食えない人だな北見校長は。
「そうだ、その生島さんから言伝を頼まれましたよ」
「私に?」
「はい。『ありがとうございました』と」
「――!」
「北見校長?」
「な、なんでもないわ。そう、あの子が……」
〈お話中失礼します、マスター。スレイプニルから早く戻れとメッセージが届いています〉
〈分かった〉
「すみません、スレイプニルに呼ばれてしまって」
「ああ、ごめんなさいね。長々と話してしまって」
「いえ。あ、お茶いただきますね」
茶菓子を二つ食べて紅茶で流し込む。すごく香りがいい。こんな高級紅茶ならもっと味わいたかったな。
「すごく美味しいですね!」
「あら、ありがとう」
「それでは、また!」
To be continued→
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