第170話 北見の呼び出し

「ふぁぁ〜……」


 昨日は生島に付いて回ってけっこう疲れたからか、よく眠れた。帰ってすぐ乃愛に捕まったのは不運だったが……。

 いや、あの子のヒーリング能力は本物だしすごく助かってるんだけどさ、あの儀式だけはどうにかならないものか……。


「さーて、今日は少し会社に顔を出そうかな」


 ていうかこのまま律儀に2週間過ごすのか?

 ――2週間後。

 でいいんじゃないか?


「なにがですか?」

「うひゃぁ!? ……陽奈さんかぁ」

「相変わらず驚き方が独特ですね」

「そ、そうかな? ところで体はもういいの?」

「ええ、おかげさまで。それと、遅くなりましたが、今回は本当にありがとうございました」


 丁寧にお辞儀されて、さすがお嬢様学校に通う本物のお嬢様だ。と感心してしまった。

 

「私の不注意で敵に捕まり、裏切り者として処罰されるところを救っていただいて、感謝し切れません」

「顔上げてください。仕方ないですよ、洗脳魔法なんて初見殺しみたいなの分かりませんって」

「……本当に優しいんですね」

「え?」

「それと、私のことは陽奈と呼んでください」

「陽奈って、呼び捨てでってこと?」

「はい」

「いいの? ここって呼び方も厳しいんじゃないの?」

「プライベートの時だけでも構いませんよ」

「じゃあ……陽奈で」

「それと、敬語もいらないですよ」

「それはさすがにマズくない?」

「一応同級生なんですよ? 私たち」

「だったら、陽奈も敬語やめようよ」

「い、いえ、私はこれが標準で……」

「陽奈がやめたら、私も敬語やめるよ。ね?」

「……ぅ。なかなかの策士ですね、かえでさん」

「ほら、名前も同じく呼び捨てで」

「……わ、分かりました。……かえで」

「うん、陽奈。これからもよろしくね!」

「――っ。よ、よろしく」


 敬語じゃないと恥ずかしいのか、頬を少し赤らめる。


「じゃ、授業いってらっしゃい。陽奈」

「う、うん。行ってくるね、かえで」


 なんだろう、初々しい感じする。可愛いな陽奈。


「――て、駄目だぞその扉は! 開けてはならない扉だ!」


 相手は14歳だぞ。何を考えてるんだ。

 ……でもこれって、楓人おれの感情なのか? それとも姫嶋かえでの?


「はぁ……」


 時々分からなくなる。魔法少女として姫嶋かえでに変身してる時にも楓人おれとしての自我はちゃんと残っていて、意識もあり記憶もある。なのに時々発作的に女の子らしい言動が飛び出る。

 さっきの、『うん、陽奈。これからもよろしくね!』も正直楓人おれの割合は少ない。勝手に言葉が出た感じだ。


 いつもの俺だったら「よろしくな、陽奈」だろうし、とにかく姫嶋かえでの陽キャ感がハンパない。まるで俺の反対だ。……言い換えれば、俺の理想とする女の子なのかもな。

 俺は時々、女の子に生まれたかったと思うことがある。漠然とそう思うだけだが、そんな俺が『こんな女の子に生まれてたら』と無意識に考えていた理想像。それが姫嶋かえでなのかも知れない。


「そもそも魔法の杖は天界の謎技術で作られてるわけだしな。人の思考をスキャンしてモデリングするくらいのことはやりそうだ」


 ま、これ以上考えてもしょうがない。仕事へ――


「仕事だぞ」

「うわおわぁ!?」

「ふん。相変わらずユニークな驚き方だな」

「ぷに助……お前までなに言ってんだ。仕事って、魔法少女のか?」

「他になにがある? それとスレイプニルだ」

「悪いが、本業にも顔出したいんだよ」

「言ったはずだぞ。魔法少女の仕事が最優先だ。そのための人形だろうが」

「それは分かってるんだが……。そうだ、どうやら新島は人形を俺じゃないって分かってるみたいだぞ」

「ふむ。ローレス化に近づいているからだろうな。本来であれば普通の人間がマキハラの人形に気づけるはずがない。それも楓人おまえの人形は特別製だ。一年一緒に過ごしてもバレることはない」

「そうは言ってもなぁ……」

「しょうがない。マキハラに報告しておこう。それでいいか?」

「そうだな……。頼む」

「なら、仕事に取り掛かれ」

「それで、今日はなにするんだ?」

「お、そうだ。その前に北見に会いに行け」

「校長先生に?」


 ぷに助に言われて校長室へと向かう。いくらステルスモードの魔法少女でも目撃されると困るので一旦上空を経由する。


「ん?」


 何気に日中空から学院を見るのは初めてだが、何らかの違和感を感じた。


「なんだ?」


 学院のことはほとんど知らない。なのにどうして違和感あるんだ?


「ま、いいか」


 校長室に行くと、「どうぞ座って」と紅茶を淹れてくれた。


「ありがとうございます」

「お口に合うか分からないけど」


 と、茶菓子まで用意してくれた。話し込む気か? 仕事あるって言われてるけど……。ま、いっか。


「それで、お話というのは?」

「え? ああ、そんな畏まらなくてもいいですよ。そんなに大事な話ではないから」

「といいますと?」

「生島水七海さん、どうでしたか?」

「どうでしたかって……やっぱりご存知なんですね」

「ええ、それはもう。よく知ってるわ。それで、どうだった?」

「スレイプニルに言われて手伝いに来ましたって言ったら、『いらねぇ』て門前払いされそうになったんですけど、北見校長の名前を出したら渋々帯同を許可してくれたんです」

「まあ、ふふ。あの子らしいわ」

「もしかして、私を生島さんに会わせたかったんですか?」

「いいえ、その逆よ」

「え?」

「あの子に、生島さんに会って欲しかったのよ。姫嶋さんにね」

「それってどういう……」

「そうねぇ……。少しばかり昔話になるけど、いいかしら?」

「はい」

「生島さんはね、魔法少女を殺したのよ」



 To be continued→

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