第165話 荒くれ魔法少女

生島しょうじま水七海みなみか」


 俺がまだ出会ったことのない魔法少女か。

 ぷに助から送られた位置データを確認すると、そろそろ見えると思うんだが……。


「と、魔物か」


 魔法の杖には魔物が近いと警報音が鳴る機能があるんだが、最近は姫嶋かえでのセンサーのほうが鋭くなったらしく、杖に頼らずに魔物に気づけるようになった。


「小型の……ランクB程度か」


 いつの間にか魔物のランクもなんとなく分かるようになった。


「アナラ」

「斬空!」


 ――なっ!?

 後ろから魔法による攻撃が飛んできた。咄嗟に避けたからいいが、下手したら直撃してたぞ!?


「ちょっと! 危ないじゃないか!」

「あぁ? てめぇがんなとこで突っ立ってっからだろが」

「なっ……」


 深く青く長い髪、右目に眼帯をした魔法少女。黒いドレスも相まって、まるで海賊のようだ。

 

「5キロメートルエリア担当か?」

「いえ、10キロメートルエリア担当です」

「あん? 10キロメートルエリアだ? ぶっ! あっははははは!!」

「な、なにが可笑しいんですか」

「10キロメートルエリア担当のくせに、こんな雑魚相手にアナライズしようとしてたのか?」

「……知らない魔物に対してアナライズするのは当然だと思いますけど」

「知らねぇだ? 10キロメートルエリア担当のくせに魔物も把握してねぇのかよ」

「すみません。10キロメートルエリア担当になったのは最近なんです」

「最近? ああ、そういやこの前試験があったな。昇格した3人のうちの一人がてめぇか」

「はい。姫嶋かえでです」

「姫嶋? クククッ、そうか! てめぇが姫嶋かえでか!」

「知ってるんですか?」

「ああ知ってるさ。花織さんのお気に入りだろ?」

「お気に入り?」

「どうやって取り入ったのか知らねぇが、ズルい奴だよな、お前」

「取り入った?」

「そうじゃなきゃ、あの人が弟子なんか取るわけねぇだろ」

「え?」


 花織さんは弟子を取らない?

 

「ハッ、大した実力もねぇのに背伸びばっかしてっと、ロクな死に方しねぇぞ?」

「あなた、いったい何者ですか?」

「あ? ハッ! そうだよな、お前があたしのことなんか知るわけねぇよな。あたしは生島水七海。50キロメートルエリア担当だ」

「生島……水七海!?」

「あ? なんだ、知ってんのか」

「スレイプニルから手伝うようにって」

「スレイプニルから? ああ、そういやそんなこと言ってたな。なんだ? てぇことは、お前がそのお手伝いさんか」

「は、はい……」

「ハッ! 要らねぇよ。足手まといだ」

「そんな! 北見校長からも言われて来たのに」

「……北見だと?」

「え? はい」

「つーことは、てめぇ……三ツ矢女学院の生徒か」

「そうです」

「……チッ、北見さんの紹介なら仕方ねぇ」


 北見校長を知っている? もしかして、まさか……生島も三ツ矢女学院の出身者?


「手伝うっつっても、あたしの邪魔だけはするなよ」

「は、はい」


 荒々しいが、義理は重んじる。そんな感じらしい。

 まあついて行くしかないな。


 ――生島の戦い方はまるで喧嘩だった。


烈環刃れっかんじん!」


 生島のアタッカースタイルは独特だ。両手剣ほどの大きさの剣を片手で振り回し、その剣から魔法で斬撃を飛ばす。さっきの斬空というのがそれだ。

 そして、烈環刃は束縛しつつ継続ダメージを与える魔法のようだ。


「ハッ、雑魚ばっかだなぁ!」

「生島さん」

「なんだ?」

「生島さんはピュアラファイ使わないんですね」

「あぁ? あんな温い魔法なんか使ってられっかよ。しかも50キロメートルエリアの魔物にはほとんど効かねぇしよ」


 水鳥も言ってたな。ランクB以上になるとほとんど効かなくなるって。ピュアラファイだけで戦えるのはせいぜいランクCまで。だから10キロメートルエリア担当になるとオリジナルの魔法を作る。


「そういやお前の魔法はなんだ? 見せてみろ」

「いえ、私はまだピュアラファイしか使えないので」

「……はぁ? お前それ、マジで言ってんのか?」

「はい……」

「くッ、ハハハハハ!! なんだそりゃ! あの花織さんの弟子っていうから、どんなにすげぇかと思えば。傑作じゃねーか!」

「違いますよ! 花織さんが師匠になってくださってから、まだ一度も教えてもらってません!」

「あ? まだ教えてもらってないだぁ?」

「そうです。試験が終わってからもお互い忙しくて、会えてもいません」

「なんだそりゃ、ガキの恋愛かよ」

「なので、私はまだオリジナルの魔法はありません」

「つーことは、他の魔法少女に任せっきりってことだろ?」

「違いますよ! 私もちゃんとやって――」

「ピュアラファイだけでか? ランクC以下のクソ雑魚しか狩ってねぇような奴は働いてるとは言わねぇんだよ」


 駄目だ、頭ごなしに否定されて話を聞いてもらえない。初めて会った時の水鳥を思い出すな……。


「ったく、なんでこんな奴を10キロメートルエリア担当に昇格させたんだ。まあいい、とにかくお前は仕事に手を出すなよ。北見さんの顔を立てて帯同だけは許可してやる」

「はい。分かりました」


 これ以上騒いでも無駄だろう。今は大人しく付いて行くしかない。

 なんて思ってたら……。


「おりゃあ!!」


 流石に50キロメートルエリア担当だ。次々と魔物を倒していく。俺の出番が全く無い。


「ははは……これじゃ手伝うことないじゃん」


 とはいえ、何もやることが無いわけじゃない。アタッカーとしての武器の使い方を見て学ぶんだ。


「ん? なんだあれ?」

「へぇ、面白れぇのがいるじゃねぇか」

「アナライズ」


 いつものようにアナライズで情報を見ようとしたら、見慣れない表示があった。


「なんだ、これ? ランクA+……?」



 To be continued→

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