第164話 北見の思惑

 翌日、俺はまた樋山楓人に戻って職場に――と思ってたんだが、2日連続で寄宿舎にいなかったことで少し問題になってしまった。

 陽奈を救助して一件落着。と思ったら北見校長に呼び止められ……。


『魔法少女の姿であれば、基本的には誰にも見られることはないでしょう。しかし三ツ矢女学ここ院には他の魔法少女や、魔法少女に匹敵する器の持ち主が数多く在籍しています。

 我々もできる限りの協力は惜しみませんが、フォローできることには限界があります。困るのが姫嶋さんだけならいいんですが、あなたは現在、形だけとはいえ我が校に在籍している生徒の一人です。なにが言いたいかはお分かりですね?』

『はい……』

『俗っぽいと思われるでしょうが、学校にとって評判は重要なんです。もちろん評判だけを気にしているわけではありませんが、評判が良くない学校に大切なお嬢さんを預けたいとは思わないでしょう?』

『はい……』

『どうやら、姫嶋さんは他の子よりも賢いようね』

『えっ? いや、私なんて全然勉強できませんし』

『そうじゃないわ。なんというか、大人びている』

『――!?』

『達観とまでは言いませんが、同い年の子よりも遥かに経験を積まれたように見えます。私の話に対してもそう。ちゃんと聞いて言い訳や反論を一切せず、自らのを理解し、私の言わんとすることを汲み取っている』

『そ、そんな、買いかぶりですよ』

『そう、その謙虚な姿勢も。本当に大人を相手にしている錯覚すら覚えるわ』

『そ、そうですかー?』

『ふふ。ビクビクしなくてもいいわ、褒めているのよ』

『はぁ』

『今回は深く反省なさっているようなので、口頭注意だけに留めておきます。姫嶋さんなら同じ愚を繰り返さないと信じていますよ』


 ――と、軽く説教されてしまった。

 とはいえ、理路整然としていて威圧感もなく、しきりに反省するだけだった。そもそも俺が悪いからな。

 どうやら寄宿舎から姿を消したのは、魔法少女に変身すれば姿が見えないという悪知恵を働かせたと思ってるらしい。

 

 樋山楓人として仕事してたのがバレたのかと焦ったぞ……。ぷに助の話じゃ正体を知ってるのは三ツ矢女学院では理事長だけということだったが……。

 北見校長の前では下手なことは言えないな。なるべく大人しくしていよう。あの人なら、いっそ正体バラしてもいいような気もするが……。

 

 そんなわけで、昨日の今日で抜け出すわけにもいかないから仕事は人形に任せることにした。新島と佐々木には有栖川へ行けるかも、というモチベを与えておいたし、彩希の問題もクリアして仕事の調整もしてある。

 あとは人形に少し詳しく指示して、時々リモートワークすれば問題ないだろう。


 というわけで、俺は寄宿舎で待機だ。日中は授業があるから寄宿舎は空っぽになるが、寮母さんがいるため怪しまれないよう魔法少女に変身しておく。外に出なければ問題ない。問題なのは……。


「暇だ」


 とにかく暇だ。人形を通じて仕事するのもいいが、何かあったら対応に困る。かといって学院内は北見校長の言うように姿を見られる恐れがあるため、寄宿舎からは出られない。


「ならば魔法少女の仕事を手伝え」

「うわぁ!? い、いきなり現れるなぷに助!」

「スレイプニルだ」

「まったく……。魔法少女の仕事を手伝えって、いいのか? 私は今」

「分かっておる。それについては問題ない。今回は北見から頼まれてな」

「校長から?」

「うむ。若い子が寄宿舎に軟禁状態というのは辛いだろうから、せめて魔法少女の仕事をさせて欲しいとのことだ」

「校長……」


 そんなこと考えてくれてたのか。やっぱりデキる人だな。


「よーし、そうと決まれば!」


 と、寄宿舎を飛び出そうとして「逸るな愚か者め!」と止められた。


「なんだよ、まだなにかあるのか?」

「お前、なにしようとした」

「なにって、魔物を倒しに」

「言っただろう、手伝えと」

「え? ひょっとして、誰かの手伝いするのか?」

「そうだ。50キロメートルエリア担当の魔法少女を手伝ってもらう」

「え!? いいのか?」

「いいもなにも、本来なら10キロメートルエリア担当の仕事のうちだ。お前の場合は色々とすっ飛ばしたりしてたからな。この機会に経験しておけ」

「分かった。誰を手伝うんだ?」

「お前がまだ会ったことのない魔法少女だな。名は生島しょうじま水七海みなみ。アタッカーだ」


 アタッカーか。最近俺もアタッカーで戦うことあるし、勉強になるかもな。


「よし、じゃあ今度こそ行ってくる!」

「かえで」

「え? なんだよ」

「気をつけろよ」

「? ああ、分かったよ」


 *   *   *

 

「……まったく、北見も人が悪い」

「もう行ったのね」

「ああ。お前さんの思惑通りにな」

「人聞き悪いわね。私は姫嶋さんの才能をもっと伸ばしてあげたいだけよ。教育者の鑑と言ってちょうだい」

「ふん。しておいてよく言う」

「あら、あの子は強いわよ」

「誰が能力のことを言った。50キロメートルエリア担当だぞ。強いに決まっておるだろうが。性格の話だ」

「そうねー、難ありといったところかしら」

「まさか、かえでを利用するつもりか?」

「滅相もない。昔のあなたに倣っただけよ。スレイプニル」

「ふん。私はこんなスパルタしたことないぞ」

「私を傷物にしておいて?」

「変な言い方をするな!」

「大丈夫よ。姫嶋さんなら、きっとあの子と上手くやれるわ」

「だといいがな」


 遠く、遠ざかるかえでの姿を目で追う北見は、空の雲行きが怪しくなったのを見た。


「少し波乱になるくらいが、ちょうどいいのよ」

 


 To be continued→

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