第166話 新基準ランク

「アナライズ」


【ランクA+ ポラキオノゥス】

大型で装甲が厚く、角から強力な魔法を放つ。主に砲台の役割があるが、動きは俊敏で前衛にもなれる。不明な点もあるため要注意。


「ランクA+!?」


 今までそんなのあったか? プラスが付いてるってことは、ランクAの中でも強いってことなんじゃ!?


「生島さん! 気をつけてください! そいつは」

「あぁ? これくれぇでビビってんじゃねーよ! 今日は手応えあるのがいなかったからな、やっと面白くなってきたじゃねぇか!!」


 生島は嬉々として飛び込んで行った。俺の思い過ごしならいいが……。

 

〈ハローメイプル〉

〈はい、マスター〉

〈魔物のランクにプラスなんて表示なかったよな?〉

〈はい。この表示はつい先日追加されたようです。今まではランクAとだけあり、10キロメートルエリア担当でも倒せるものから100キロメートルエリア担当でないと倒すのが難しいものまで振れ幅が大きく、そのために魔物の強さを見誤る事例が多かったことから追加された基準と推測されます〉

〈なるほどな〉


 常にアップデートはしてるってことか。たぶん魔法の杖に通知来てたんだろうが、気づかなかったな。


〈A+の強さがどのくらいかは分かるか?〉


 今のところ善戦はしているが、今までのように圧倒的ではないし、圧してもいない。


〈内部データによると、基準としては無印のAが10キロメートルエリア相当、A+が50キロメートルエリア相当、そしてA++は100キロメートルエリア相当のようです〉

〈てことは、こいつは50キロメートルエリア相当か。生島ならやれるか?〉

〈なお、この新基準にも誤差があり、あくまで目安とのことです〉


 ということは、思ったより弱いかも知れないし、その逆ってこともあるわけか。油断は禁物だな。


「ハハッ! いいぜ! こうでなくっちゃな!!」


 生島は手応えあるのが嬉しいらしく、さらに手数を増やしてスピードを上げる。だが、それでも魔物にはどこか余裕があるように見える。


 念の為に、魔法の杖を構えていつでもピュアラファイを撃てるようにする。生島には邪魔するなと言われてるが、いざとなったら……。


「おっと」


 生島が攻撃しようとして角に弾かれてしまった。ポラキオノゥスの一番硬い部分だろうか。


「それなら」


 すると、今まで使ってた剣を解除して別の剣に変えた。さっきのより大きい。身の丈ほどある大剣だ。


「こっちを使うのは久しぶりだな。よ?」


 担ぐように構えると、新たな剣に電気が纏う。


雷霆らいてい――」


 加速をつけるように何回か小さく回転すると、魔物ポラキオノゥスに向かって勢いよく振り下ろす。


「斬空!!」


 電気を纏った巨大な斬撃は魔物ポラキオノゥスに直撃すると爆発した。


「すごい……」


 最初に見た斬空に電気を纏わせたもの。と、説明すればそれだけなんだが、より大きな剣で放つことで斬空を巨大化させて威力を倍化させた上に爆発ダメージも追加される。


「でもこれって、デュプリケートだよな?」


 デュプリケートは戦闘スタイルの併用だ。外に魔力を放出するマジカルと、身体に魔力を使うコンバットのように相反するスタイルを同時に発動すると過負荷が掛かる。

 実際、俺も武器化した魔法の杖にマジカルタイプの魔法を乗せたらぶっ倒れた。


 でも、2度も助けてくれた黒衣の魔法少女、エースもデュプリケートだった。それもコンバット、マジカル、アタッカーの3種類を使い分けるという異次元な戦い方だ。

 まあ、あれはさすがに例外と思いたいが……。


 歩夢からは危険だと言われたが、もしかしたら高位ハイランク魔法少女にとっては当たり前の上級スキルなのか?

 ――と、考えていると爆煙が晴れてきた。


「これで終わり。なんてこたぁねぇよな?」


 もちろん。とでも言うように、そこには外殻が一部割れた魔物ポラキオノゥスがいた。


「へっ、あれ喰らってその程度か。やるじゃねぇか!」


 再び剣を構える。今度は剣身に術式が走る。


「なら、コイツはどうだ? 雷火――」


 と、技を放とうとした時だった。

 ポラキオノゥスが角を生島に向けると、角に魔力が集中する。


「生島さん!」

「うるせぇ! 今いいとこなんだからよぉ、邪魔するんじゃねぇ!!」

「生島さん……」


 あのチャージ攻撃には各種センサーが危険を訴えているし、俺の本能も逃げろと警鐘を鳴らしている。

 生島は自分の技と魔物ポラキオノゥスの攻撃のどちからが上か、勝負したいようだ。だが、もしそれで負けたら……。


「アイテム」


 手持ちのアイテムを確認する。和泉さんから退院祝いに頂いたRドリンクならあるが、もし致命傷を負ったらキュアオールじゃないと治せない。


「メイプル、もしもの時は頼む」

〈はい。マスター〉


 生島は術式を走らせた大剣を


「雷火槍!!」


 同じタイミングで魔物ポラキオノゥスの砲撃も発射され、生島の技と空中でぶつかった。


「これは……互角!?」


 生島が投げた大剣は魔物ポラキオノゥスの砲撃を突破できずに途中で止まっていた。こういう場合、有利なのは砲撃側だ。投擲物は勢いを失って……。


「あれ?」


 まだ大剣が落ちない? どういうことだ? 投げた時の勢いはとっくに失ってるはずなのに。


「ハッ、理解できねぇって顔してんな」

「えと、……はい」


 生島は勝ち誇ったように腕を組みながら、見透かしたように俺を見る。


「投擲物は止められた時点で意味が無くなる。てめぇの考えてることは間違ってねぇよ」

「なら、どうして?」

「簡単な話だ。あたしのはんだよ」


 そう言うと生島は途中で止まってる大剣に右手を向ける。


「雷光走れ! 雷雲、空を閉じろ!」


 これって……詠唱魔法インカンテーション!?


「罪人に雷が落ちる! ――雷火槍・追式、雷葬!」


 大剣に別の術式が走る。次の瞬間、魔物ポラキオノゥスを稲妻が包んだ。


 

 To be continued→

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