第159話 かえでの気付き
思わぬ援軍はあったが、陽奈の痕跡は欠片も見当たらない。
メイプルにも協力してもらってるのに……。
「センサー全開で探してるのに、なんにも引っ掛からないなんて……」
「三ツ矢女学院にいる探索・探知が得意な魔法少女でも見つけられないそうですし、もしかしたら範囲の問題ではないかも知れませんね」
「うーん……。これは紫を待つしかないかな」
「紫? もしかして、廷々紫さんですか?」
「うん。知ってるの?」
「知ってるも何も、今や魔法少女で知らない人はいない有名人ですよ!」
「そ、そうなの?」
「特に技能試験での逸話は話題でしたから」
「あー、確かにあれはすごかったね」
謎の術式と青いドレス。圧倒的な幕切れ。
あれは確かに伝説になってもおかしくない。
「そんな廷々さんとお知り合いだなんて、やっぱり姫嶋さんはすごい御方です!」
そう言って目をキラキラさせる。
実のところは、俺のことを怪しんで揺さぶりを掛けてきたことで知り合っただけなんだけどな。
「それで、廷々さんはいつここへ?」
「さあ、なにか気になることがあるからって、遅れて来るらしいけど」
「廷々さんが来てくだされば百人力ですね!」
「だと、いいんだけどね」
探索は紫に任せれば問題ないだろう。問題なのはニューラだ。あの戦闘狂より強いとすると、下手したら100キロメートルエリア担当じゃないと倒せない。
今のうちに花織さんに連絡しておくべきか。
「もう一人助っ人を呼ぶかな」
「えっ、まだすごい人脈があるんですか!?」
「あはは、人脈ってほどじゃないよ。……あれ? 通信に出ないな」
「忙しいんでしょうか?」
「そうかも」
いくら師匠になってくれたからって、100キロメートルエリア担当だもんなぁ。
「うーん、担当エリアは探索したし、校長先生に指示を仰いでみようか」
「そうですね。私が連絡します」
「うん、お願いね」
それにしても、陽奈はどこに行ったんだ? 昨夜は間違いなくいた。今でもあのお風呂上がりの姿が目に焼き付いて……。
「え?」
お風呂上がり?
いや、それはあり得ない。
『舞彩ったら、お風呂にも入らず寝てしまったのね』
お風呂に入らず寝たんじゃなく、
心のざわめきは一気に不安を駆り立てる。
「舞彩さん! 舞彩さん!」
魔法通信で呼び掛けると、「なんだ突然!」とすぐ反応してくれた。
「昨日、夜すぐ寝てましたよね?」
『そうだな! 昨日は疲れちゃったし!』
「もしかして、お風呂に
『よく分かったな! そうなんだ! なんだか知らないけどお風呂の調子が悪いからと言われてな! 疲れて眠かったから、そのまま寝ちゃったんだ!』
なんて……ことだ……。
「すみません、このまま緊急通信に切り替えます!」
『なに!?』
「――緊急につき全体通信失礼します! 皆さんに聞いて欲しいことがあります!」
『こちら北見です。どうしましたか?』
「昨夜、私は自室で陽奈さんと会ってお話したんですが、おかしいんです」
『というと?』
「昨夜の陽奈さんはまるでお風呂上がりの様子でした。そして、寝ている舞彩さんを見て『お風呂も入らず寝てしまった』と言ってたんです」
『それのどこがおかしいのですか?』
「昨夜、寄宿舎のお風呂は調子が悪くてお湯が沸かせなかったんです」
『――! それは本当ですか?』
『それは私も証人になります! お風呂場に使用禁止の看板がありました! 寮母さんにも言われました!』
『つまり、有栖川さんはボイラーが故障していることを知らず、お風呂に入ってないのに入ったように偽装していた。ということですか?』
「はい。そして、その事実が一つの可能性を示唆してると思います」
『どんな可能性ですか?』
「有栖川陽奈さんは、拉致されたわけでもなく、ましてや裏切ったのでもない。
『――!!』
通信の向こう側で全員が動揺する様子が伝わってきた。そりゃあそうだ。まさかの第三の可能性が浮かんできて、その信憑性は限りなく高いんだ。
俺も昨日のことを思い出すまで気づかなかった。
「ここからは私の推測になりますが、おそらく陽奈さんは昨夜お仕事のあとで魔物に遭遇。戦闘になり、そのさいに全身水に濡れてしまった。そして虚を突かれて洗脳のような魔法で操られてしまう。たぶん自我はあまり無かったはずです」
『ということはー、陽奈っぽい振る舞いをさせてただけってことー?』
「はい。そうでなければ、お風呂が使えないのを知らずに入った偽装なんて、陽奈さんがするとは思えません」
「そうですね。陽奈はとてもしっかり者ですし、もっと他に説得力ある言い訳を考えるはずです」
「……今考えれば、お風呂に入ったわりに湯気は無かったし、なんの香りもしなかった。ただ髪がしっとり濡れていてパジャマを着ていただけ。私がすぐに気づいていれば……!」
女子耐性0のせいでそういった経験が乏しい俺に、そんな違和感をあの場で見抜けるわけがない。もしあの時、舞彩が起きていたら。もしあの時、乃愛がもう少し早く来てくれていれば。女子二人なら違和感に気づけたはずなのに!
……いや、それは流石に責任転嫁というやつだな。俺のせいだ。
『今、気づいてくれたじゃありませんか』
「……え?」
『姫嶋さん、あなたが今気づいてくれなければ、私たちはまだ裏切られたという疑念を抱きながら不毛な探索を続けていたでしょう。
仲間を疑いながら、疑念を抱いて動くというのは心身を消耗し、勘を鈍らせます。――ここからは総力戦です。魔物に操られて姿を消したと断定し、有栖川陽奈さんを捜索します』
「校長先生……」
『通信の割り込み失礼します。その捜索、私にもお手伝いさせて下さい』
「紫!」
「廷々紫さん!?」
『おや、これは珍しい客人ですね』
『お久しぶりです。北見学長――いえ、今は校長先生でしたか』
学長? 北見さんは以前大学にいたのか。ていうか紫は北見さんと知り合いだったのか。
『廷々さんがお手伝いしてくださるのなら、大変心強いですよ。よろしくお願いします』
『はい。全霊を以て』
よし、これで陽奈を見つけられる!
待ってろよ、彩希!
To be continued→
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