第157話 魔法少女が裏切るということ

「急用ってなんだったんだ? 血相を変えて飛び出してったけど」

〈マスター、三ツ矢女学院から緊急連絡です。有栖川陽奈の信号がロスト。行方不明とのことです〉

〈なんだって!?〉


 そうか、それで彩希は……。

 

「楓人さん、どうかされましたか?」

「……有栖川陽奈が、行方不明になった」

「それは、三ツ矢女学院からの報せですか?」

「ああ。紫……廷々の呪いって、まさか」

「ええ。大叔母おおおば様が嫁いだことにより魔法少女の血が混じり、強い器が現れるようになったんでしょう」

「やっぱりそういうことか。魔物に殺されたら不審死になるし、魔法少女として殉職したら行方不明になる。前に言ってた関係が良くないっていうのも、因縁があるっていうのも納得したよ」

「黙っていて申し訳ありません」

「いいって、気にしてないから。――それより陽奈だ」

「はい。私は気になることがあるので、先に行っててください」

「食事はもういいの?」

「ええ、もう済みましたから」

「分かった。じゃあ三ツ矢女学院で会おう!」


 *   *   *


 通報のあった三ツ矢女学院に急行すると、校長室に陽奈を除いた協力者全員が集まっていた。


「陽奈さんは!?」

「ちょうど今から捜索するところです」

魔法M少女G協会Aからの情報は?」

魔法M少女G協会Aは動きませんよ」

「え? どういうことですか? 魔法M少女G協会Aはここを探してくれないんですか?」

「ああ、姫嶋さんは知らないんでしたね。御坂さん、説明してあげて」

「はい! 三ツ矢女学院は自立を大きなテーマとして掲げていて、世間からのみならず魔法少女としても独立しており、治外法権のような体制を取っています! なので魔法少女に関する事件があったとしても自分たちで解決する決まりになっています!」


 お仕事ではないが、舞彩は隊長モードに入っていた。

 なるほど、この前風呂で誰も姫嶋かえでに触れなかったのは俗世の情報が遮断されてるからか。


「でも、今回は未知の魔物が絡んでる可能性もあります。私たちだけで対処するのは危険なんじゃ……」

「未知の魔物?」

「……え?」

「なんですかそれは?」

「なんですかって……聞いてないんですか?」

「どういうことですか?」

「昨夜、侵入してきたランクA相当の魔物を水鳥さんと撃退したんですが、その時に別の魔物の気配もあったんです。それを陽奈さんに報告したら、私から言っておくからって」

「妙ですね。そんな報告は受けていません」

「そんな……!」

「可能性としては二つ」


 水鳥は指を2本立てて仮説を唱える。


「ひとつは、報告する前に陽奈さんが魔物に拉致、または殺害された」

「後者は考えたくないですね……。もう一つはなにかしら?」

「もうひとつは、有栖川陽奈の裏切り」

「――!」


 全員が一瞬動揺した。そんなこと考えてもなかった。しかし可能性としては、確かに考えなくてはならない。


「それも、考えたくはない可能性ですね」

「はい。信号がロストしたということは魔法の杖が壊されたか、もしくは隔絶された空間などに封印されたか。

 杖が壊されたのだとしたら殺害されてる可能性が高いですが、封印されてるだけなら救出すればいい話です。――もし裏切りだとするなら……」

「裏切りだったら、どうなるの?」

「魔法少女の裏切りは、魔法少女としての資格剥奪です」

「資格剥奪ってことは、魔法少女じゃなくなるだけなんだ?」

「なにを甘いこと言ってるんですか!」

「え?」

「資格剥奪は魔法少女の契約を強制解除されるんです! 護衛対象からも外されるんですよ!」

「護衛対象から外される!?」


 以前、歩夢から聞いたことがある。契約満了などで引退した元・魔法少女は魔物から狙われやすくなるから護衛が付くと。


「そんな、それって死ねって言ってるようなものじゃないですか!」

「それが、裏切るということなのよ。姫嶋さん」

「そんな……」


 裏切りには死の制裁を。なんてよく漫画や映画であるが、魔法少女のそれは陰湿だな……。血に飢えた獣のいる檻の中に放り込むようなものじゃないか!


「すぐに探しましょう!」

「今のうちに言っておきますよ姫嶋さん」

「え?」

「例えどんな理由があろうと、裏切りは赦されませんし、それを擁護する者は同罪となります。努々ゆめゆめ忘れることのないように」

「……はい」


 先手を打たれた。もし裏切りなら、誰よりも先に見つけて理由を聞いて許してもらおうと思っていたのに。さすがに三ツ矢女学院の校長なだけはある。


「それと、未知の魔物の事もあります。御坂さんと真島さん、風間さんと姫嶋さん。二人一組で捜索するように」

「「はい!!」」

「では皆さん、よろしくお願いしますよ」



 To be continued→

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る