第154話 勝負の夜② - jeux de l'amour et du hasard
「今日は落ち着いてるのね」
「2回目だから、さすがにね」
お金に余裕あるのも大きい。前回は大した下調べもなく来てしまったからな。
「そういえば、もう大丈夫なのか?」
「なにが?」
「ほら、この前あった事件」
姫嶋かえでとして助けられたのは良かったが、その後どうなったかまでは聞いてなかった。陽奈は謹慎処分だと言っていたが。
「ああ、そんなのもうヘーキよ。ていうか、心配するの遅くない?」
「ご、ごめん。ちょっと色々あって……」
しばらく入院してたんだ。楓人として連絡できるわけもない。
「ふーん? 彼女とデートでもしてた?」
「またそういうことを、俺には彼女なんていないって」
「新島さんも違うの?」
「え? 新島?」
「あなたが推薦したあの女性。もしかして彼女だから?」
「違うよ、単純にビジネスパートナーだ」
「へー?」
「まったく、彩希は俺に彼女作って欲しいのか?」
「え?」
「だっていつも訊いてくるだろ?」
――この人は〜!!
なんでそうなるのよ! こういう場合、普通は「気があるのか?」てなるところでしょう!
……まあいいいわ。楓人さんが女子耐性0のせいで女性からの好意に鈍いってことはもう分かってる。こんなことで挫けないし、諦めたりなんかしないから!
「バカね、冗談に決まってるでしょ? 慌てふためく楓人さんが可愛いから、つい。ね?」
「ったく……。それに、彩希はどうなんだ?」
「え?」
「事情は聞いたけど、彩希には気になってる男の子いないのか?」
――ええ。いますよー? 目の前に。
「ま、いないこともないわ」
「へー、どんな子なんだ?」
「そうねー、年上で優しくて気が利いて真面目で、そのくせ可愛らしいところがある人よ」
「なんだ、すごく良い人じゃないか」
「ええ。素敵な夜を過ごしたこともあるわ」
「ブッ! ゲホゲホッ! な、なんだって!?」
「あら、聞こえなかった? 素敵な夜を過ごしたこともあるって言ったのよ」
「おいおい、まだ未成年だろ!?」
「え?」
「その、俺が口を出すことじゃないけどさ……。ちゃんと、ひに」
「ばかー!!」
「え?」
「あなたなに考えてるのよ!? なんでそっちに行くわけ!?」
「えっ、だって……」
「素敵な夜って言っただけでしょ!? もう、信じられない!」
しまったああああああああ!!
特大の地雷を踏んでしまった! ど、どうすればいいんだ!? 衛生兵ー!!
「ご、こめん! 汚れた心でつい邪推を!」
――まったく、どういう神経してるの!?
……でも楓人さんに限ってチャラい思考回路なわけはない……よね。もしかして、男って皆こうなの? 周りに男子が少なすぎたから、よく分からないけど……。
「……まあいいわ」
「ゆ、許してくれる?」
「楓人さんが下衆な考えで口走ったわけじゃないことくらい分かるから。それに、私も素敵な夜って表現にそっちの連想があることに気づかなかったし」
「いや、それだけ彩希は心が綺麗なんだよ」
「――!?」
「どうかした?」
「な、なんでもないわ。……綺麗なんかじゃないわよ」
――なんでこんなにキュンとするの?
普段ならキザったらしいドン引きなセリフなのに。楓人さんが言ったから? それとも、お店の雰囲気のせい?
「そ、そろそろお料理を注文しましょうか!」
「そうだね。今日は好きなのを頼んでよ」
「へー、頼りになるのね」
「今日はちゃんと準備してきたからね、任せてよ」
「それじゃあ、お言葉に甘えようかな」
彩希はサービススタッフを呼んで料理を注文する。
「楓人さんは?」
「そうだな、えーと……これとこれで」
「かしこまりました」
スタッフが厨房へ行くと、彩希はじーっと俺の顔を見つめる。
「なにか顔に付いてる?」
「いいえ」
「えーと……」
「……」
――
あたしとは20近くも年が離れてる。最初は本当に些細なきっかけだった。あたしが気に入って導入したソフトが思った以上に高評価で、これを作った会社となら良いビジネスができる。そう確信した。
ところが実際依頼すると、とんでもない欠陥品が送られてきた。プロトタイプとはいえ手抜きもいいところだ。信じられない思いで私は、気に入ったソフトを作った人に直接会うことにした。
それが、楓人さんとの出会い。
今でもよく覚えてる。確かにあたしは年下よりは年上のほうがいいと思ってる。好みにうるさいってわけじゃないけど、それなりに条件も考えてた。
でも、そんな理屈なんかどうでもよかった。これは運命だと、そう思った――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます