第153話 勝負の夜① - Introduction
巨大企業、有栖川
「先輩! これなんですけど!」
「お、おう」
「先輩! このシステムなんスけど!」
「あ、うん」
やはり人間は目標あるほうがいいらしい。それに――
「新島、ここってもっと効率化できないか?」
「できるわよ。佐々木なら1時間で修正できると思う」
あれだけいがみ合ってたのが、まるで嘘のように連携が取れている。
『腕なんて大差ないでしょ。あんたのほうがコード書くの早いくせに』
『困難には逃げずに立ち向かう。そういうところ、すげーよ。新島』
お互いにお互いのことをよく見ていた。俺が思っていた以上に、この二人は良いライバルだったんだ。
「ん? 電話か」
サラリーマン用のスマホ――魔法少女になる前から使ってたものだが――に着信が入る。
「彩希?」
席を外して誰もいない廊下で電話に出る。
「もしもし」
『さっき資料貰ったけど、本当にこの二人でいいの?』
「どういうことだ?」
『言っちゃ悪いけど、あなたや安西さんに比べると、どうしても魅力に欠けるから』
ズバッと言うなぁ。まあ、そこが彩希の良いところだ。
「安心していい。その二人は、俺と安西のお墨付きだ」
『そうなの? ならいいわ。それと確認だけど、今の仕事が終わったら
「ああ、よろしく頼む」
『こちらこそ。――今夜、楽しみしてるから』
最後、囁くような甘い声でそう言って電話は切れた。
ハードルは上がった気がするが……どうやら機嫌直ったようで一安心だな。
「――っと」
近くで魔物の気配がする。
「メイプル、救援要請は?」
〈今のところはありません〉
「そっか」
〈それと、余計なことかも知れませんが、マスターは現在、
「あ、そうだった」
元の姿で自由に動いてるから、つい姫嶋かえでのことを忘れていた。昨夜もマンションに戻ろうとしてメイプルに注意されたばかりだというのに……。気を引き締めないといかんな。
「とはいっても、三ツ矢女学院に行くのが気が重いからなぁ」
「三ツ矢女学院がどうかしたんですか?」
「うわぁっ!? ……佐々木か。ビックリさせるな」
「三ツ矢女学院って、超がつくお嬢様学校ですよね?」
「ああ。知り合いが通ってるんだよ」
「知り合いって、まさかあのプラチナチケットの!?」
「残念ながら違う」
「なんだー、三ツ矢女学院の関係者ならプラチナチケットも手に入るかと思ったのに」
「そんなコネがあるなら、俺だってあやかりたいよ」
「三ツ矢女学院といえば日本の最高峰のお嬢様学校ですからねー、もしその中の誰かと結婚できれば人生勝ち組っスよ!!」
「変態」
盛り上がってるところに新島が生ゴミを見るような目で佐々木を見る。
「佐々木ってロリコンだったんだ」
「ばっ! ちげーよ将来性の話だ!」
「ま、そもそも縁が無いでしょうから」
「うるせー! ……そういや先輩、三ツ矢女学院に知り合いがいるんですよね?」
「ああ、そうだけど」
「紹介してくださいよー!」
「無理だな」
「そんな即答で!?」
「三ツ矢女学院はめちゃくちゃ厳しいとこなんだぞ。紹介して簡単に会えるわけないだろ」
「なんでそんな詳しいんスか?」
「知り合いから聞いただけだよ」
「じゃあその知り合いを――」
「いい加減にしなさい! 仕事するわよ!」
「ちょ、待てよ! せんぱーい!!」
なんか、お似合いじゃないか? あの二人。
* * *
――19時45分。
よし、余裕を持って来れた。金も用意したし準備万端のはずだ!
「お待たせ、
声に振り向くと、そこにはピンクのドレスで別人のように美しく着飾った可愛い女の子がいた。
「……」
「? 楓人さん?」
「あ、ああごめん。彩希があまりに綺麗で」
「ふふ、楓人さんからそんなセリフが出るなんて、がんばった甲斐があったかな」
「え? 俺の……ために?」
「もう、他に誰がいるの? 今夜のデート、誘ってくれたの楓人さんでしょ?」
「そう……だった」
そうか、俺は彩希をデートに誘ったのか。なんだか、まるで恋人みたいだな……。
「ほら、いつまで見惚れてるの?」
「え?」
「行きましょう」
「そ、そうだな」
彩希のほうから腕を組み、体をくっつけてくる。
なんだ? 今夜の彩希すごく積極的だな。もしかして……。いや、まさかな……。
To be continued→
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