第152話 雷都の提案

 翌日。宮根の事件の再調査をすることになったことを煌梨にも魔法通信で伝えた。


〈そう……〉

〈それで、煌梨にも事情聴取があるかも知れないから〉

〈分かったわ。昨日レッスンを休むって言ってた急用って、そのことだったのね〉

〈うん。ごめんね〉

〈謝ることはないわよ。私もあの事件に関してはなんかスッキリしなかったから〉

〈煌梨も?〉

〈ええ。なんか引っ掛かるものがあったの。……それで、犯人は本当にあの時、警備してくれてた魔法少女の中にいるの?〉

〈正直まだ仮説だけどね、可能性は極めて高いと山田さんも言ってた〉

〈そう……。山田あの人が言うならほぼ間違いないでしょう〉

〈それで、レッスンのことなんだけど〉

〈そうねー、しばらく空いてないから、また連絡するでもいい?〉

〈うん。私も用事あるから、また今度で〉

〈分かった。それじゃまた連絡するから〉


 通信を切るとから出る。通信するタイミングが出社直前の会社のトイレの中しかないとは、なんだか情けなくなる。


「おはようございます」


 職場の自分の席に着くと、雷都から声をかけられる。


「ちょっといいか」

「え? ああ」


 さっき出てきたばかりのトイレへと移動すると、雷都はマジトーンで「話聞いたぞ」と言ってきた。


「話?」

「有栖川の嬢ちゃんから誘われたって?」

「ああ、そのことか。そうだよ。まだ決めかねてるけどな」

「は? なんでだよ」

「ぶっちゃけこの会社に思い入れや未練なんてこれっぽっちもないけど、有栖川に行って上手くやれるのか、正直自信がないんだ」

「お前なぁ……」

「ところで、その話いったい……」

「嬢ちゃんからに決まってるだろ? あなたも来るのかって訊かれた」

「あー、俺が何人か連れてってもいいかって訊いたからだろうな」

「何人か?」

「ああ。雷都は俺の中で内定してた。あとは新島か佐々木かだな」

「なんでその二人のどちらかなんだよ?」

「そのほうがライバル心でより切磋琢磨してもらえるかなって。ほら、今はお互いに険悪だろ? 正直仕事にも影響が出てるんだよ。一人有栖川に行けばやる気出してくれるんじゃないかって思って」

「そう単純に行くかねー?」

「それは分からないよ。でも、二人とも連れて行くってなったら上層部が文句を言いかねない」

「ああー、それはあるかもなぁ。一気に4人、しかも中核メンバーが有栖川に引き抜かれるってなったらな」

「だからといって、俺と雷都だけ行くのは都合良すぎるだろ?」

「なるほど、その二人はトレード材料でもあるわけか。お前意外と策士だな」

「そんなんじゃないよ」

「まあいいや、思ったよりちゃんと考えてそうで安心したわ」

「? どういう意味だよ」

「嬢ちゃんに誘われて一人でホイホイ付いて行くんじゃなくて良かったってことだ」

「あのなぁ……。俺ってそんなに信用ないか?」

「まあ、女子耐性0のお前に限ってそんなことねーか」

「お前なぁ!」

「ははっ。いいぜ、行くなら俺も賛成だ。そもそもお前にこんなちっせぇ会社は狭すぎるんだよ。有栖川ならお前が全力を出せる。俺もサポートし甲斐があるってもんだ」

「……お前はそれでいいのか?」

「あん?」

「お前の能力は、誰より俺が買ってる。お前はもっと表で輝けるはずだろ。なのにどうしてずっと俺のサポートをしてるんだ?」


 ずっと感じてた思いの丈をぶつけると、雷都は真面目な顔で答える。

 

「俺がお前の思うようなパーフェクトヒューマンだとして、俺がフルに活躍しなきゃ勿体ない。なんてことはない。――いや、一理はあるがな。だが本当に活躍するべき人間てのは、パーフェクトヒューマンなんかじゃない。俺はそう思うね」

「雷都……」

「それとな、一つ提案があるんだ」

「なんだ?」

「それはな……」


 *   *   *


「佐々木、新島、ちょっといいか」

「「はい!!」」


 ホント、こいつら息ぴったりだよなー。


「昼飯付き合ってくれるか。俺の奢りだ」

「えっ! いいんですか!?」

「ちょ、先輩大丈夫ですか!? 今夜は彩希さんとの食事もあるんですよ!?」

「お前らな、俺がそこまで極貧生活に見えるのか?」

「いえ、そうじゃないですけど……」

「それとも、俺と昼飯は嫌か?」

「そんな! ……分かりました。ご一緒します!」

「よし、じゃあ行くか」


 いつもの庵安あんあん亭に行くと、いつもの天そばを注文する。


「――それで、なにかあるんですか?」


 新島が真剣な面持ちで訊くと、佐々木は「は? なんのこと?」とキョトンとする。


「先輩がなんの用もなくお昼に誘ってくれるわけないでしょ? しかも奢りで!」

「おいおい、そこは強調しないでくれよ」

「あっ、すみません……」

「ま、新島の言うことは当たってるけどな」

「それで、どんな話っスか?」

「二人とも、有栖川はもう知ってるよな」

「え? ええ。だって今は有栖川の仕事で手一杯じゃないですか」

「その有栖川に行けるとしたら、どうする?」

「……」

「……」

「「ええええええええええ!?」」


 あまりの衝撃的な話に反応がワンテンポ遅れた。それにしても本当に息ぴったりだな。


「有栖川に行けるって、それってつまり、引き抜き? ヘッドハンティングってやつですかー!?」

「佐々木うるさい! そんな甘い話なわけないでしょ!」

「え? てことはまさか!」

「そうよ。二人のうちどちらかをって話よ」

「おいおいそりゃないだろ! 俺は絶対行くぞ!」

「私だって行きたいわよ!!」

「まあ二人とも、とりあえず落ち着け。他の客の迷惑だ」

「あ、……はい。すみません」

「あれ? 待ってくださいよ。そしたら先輩はどうなるんスか!?」

「バカね、私たちなんかが単独でヘッドハンティングされるわけないでしょ」

「てことは、先輩と一緒に……!? うおおおおお!! 絶対ぜってぇ行きてえええええ!!」

「だから! うるさい……わよ!」

「え……なんで泣いてんだよ、お前」

「う、……うるさい」

「……そっか。もし選ばれなければ、先輩は遠くに行っちゃうんだもんな……。いいよ、新島が行けよ」

「え?」

「悔しいけどよ、プログラマーとしての腕はお前のほうが上だ。それに、お前のほうが先輩をサポートできるだろ」


 おや? これは意外な展開だぞ。


「なにバカ言ってんのよ。腕なんて大差ないでしょ。あんたのほうがコード書くの早いくせに。それに、あんたが毎日毎日先輩のコードを見て勉強してるの、知ってるんだからね」

「なっ!? お前いつの間に!」

「ばーか、それに気づかないくらい集中してるってことでしょ。がんばってるじゃん」

「……お前だってがんばってるじゃねーかよ」

「え?」

「苦手だったところ、何度怒られても挫けないで克服してるだろ。困難には逃げずに立ち向かう。そういうところ、すげーよ。新島」

「佐々木……」

「あー、とても青春的に盛り上がってるところ申し訳ないんだが」

「「え?」」

「有栖川に行くのは二人ともだぞ」

「……」

「……」

「「えええええええええええ!!?」」



 To be continued→

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る