第151話 事件の容疑者
「それで、話とはなんだ? 気付いたことがあると言っていたが」
宮根のことで大きな闇が見えてきた俺は、夜遅くに悪いと思いながらも本部長の阿山千景に直接会うことにした。
「できれば技術開発の山田さんにも聞いてもらいたいんですけど」
「ふむ。……私だ。至急、本部長室へ来い。――これでいいかな?」
「助かります」
「では、山田が来る前に少し話を聞いておこうか」
「はい。今日、知り合いから気になることを聞いたんです。あの日、ライブ会場の最前列で人が入れ替わったと」
「人が入れ替わった?」
「その人の話では、隣の隣、少し離れた席にいた古間麗美さん推しのファンが居たそうなんです。それがフィナーレ直前に消えて別の人間になっていたと」
「トイレにでも行ったんじゃないのか?」
「それは私も考えましたが、トイレ休憩もちゃんとあって、それは考えられないそうです。それに、その入れ替わりがあった直後なんですよ。宮根明が彩希さんに襲い掛かったのは」
「べつに疑問は無さそうだが」
「いえ、考えてみるとおかしいんです。だって、彩希さんがサプライズ登場するのはごく一部のスタッフと煌梨さん以外に知らなかったんですから」
「……なるほど、宮根が知る由もなかったというわけか」
「はい。宮根は元々無差別殺人を示唆していました。そして彩希さんが来ることを知らない。そんな宮根が最前列に陣取り、彩希さんが登場した瞬間に襲った。都合良すぎると思いませんか?」
「何者かが、糸を引いていると?」
「はい。そう考えると謎が解けるんです」
と、そこで「こんばんはぁー、呼びましたかぁー?」と山田一千花が入ってきた。
「山田さん、わざわざすみません」
「おやぁー? ということは、私を呼んだのは姫嶋氏ですかぁ?」
「そうだ。まあ座れ。興味深い話だぞ」
「ほほぅー、阿山氏がそう言うのなら、大変興味を唆られますねぇ」
山田はソファに座ると、「それで? どんなお話なんですかぁー?」と俺を覗き込むように見てきた。
「例のワープ専用の魔物を使った事件。どうやら裏で糸を引いている奴がいるらしい」
「ほほぅ? 続けてください」
「では、その前に少し話を整理します。今回の事件の発端は、宮根明が一方的な想いでネットストーカーしていた有栖川彩希さんが、とある男性と一緒に写った写真をSNSにアップしたことです」
自分のことを他人事のように説明するのはなんだか変な感じだな……。
「それを見た宮根は、彩希さんが参加を発表していた
そしてライブの終盤、目撃情報によるとファンの一人がどこかに消えて別人に入れ替わった。その直後にフィナーレを迎え、彩希さんが登場した瞬間に宮根はステージに乱入して彩希さんを襲った」
軽くまとめると、山田は「つまりぃ、その入れ替わった人間が共犯者。あるいはそいつが裏で糸を引く黒幕の可能性があるというわけですねぇ?」と肝心な部分を指摘する。
「そうです。そして、この入れ替わった人間は――」
「
「なんだと!?」
「……そうです」
「どういうことだ! ちゃんと説明しろ!」
「それは――」
「私が説明しましょうかぁ」
「山田さん?」
「いいですかぁ?」
きっと、この人も今回の事件に違和感を持っていたんだろう。
「はい。お願いします」
「では。そもそも、例のワープ専用の魔物なんですがねぇー? あれにピンポイントでワープする性能はないんですよぉ」
「なに?」
「確かにワープはできますよぉ。ただし、半径数十キロメートル内の半径数十メートル内にです」
「そんなに大雑把なのか?」
「そうなんです。まぁ、今回詳しく解析できたから分かったことなんですけどねぇー」
「え? どういうことなんですか?」
「ワープ専用というだけありましてねぇ? この魔物は存在は確認されてても解析したことはなかったんですよぉ。なんせ数回ワープさせると勝手に死んでしまいますからねぇ」
「自爆機能!?」
「そういうことです」
ずっと存在し続けたらワープ元を叩かれてしまうから、てことか。思ってたより魔物ってシステマチックなのか?
「つまりぃ、今回の事件最大の謎はどうやってピンポイントにワープできたのか。だったんですよぉ」
「それがもし、ワープの魔物が囮で――」
「その入れ替わったという人間――魔法少女が共犯者。あるいは黒幕だった場合、謎が線で繋がるというわけか」
「そういうことですねぇ」
話を聞いた阿山は天を仰いで椅子に深く沈んだ。
「確かに魔法少女が真犯人だとすれば話は簡単だな。魔法少女の姿は民間人には見えない。有栖川彩希が実はサプライズで登場することも簡単に知れるし、それを宮根に伝えられる。そしてフィナーレ直前に魔法で侵入し、ナイフを渡してステージに上がらせる……」
そう。そう考えると全ての謎が一本の線に繋がる。そして――
「それができた魔法少女は、
俺は信じているが……。紫を含めた数名の魔法少女が容疑者となった。
To be continued→
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