第150話 予想外の展開
「課長」
「なんだ?」
「有栖川彩希さんと食事へ行くことになったんですが、経費では無理でしょうか?」
「仕事か?」
「はい」
「……あまり期待はできんぞ。領収書を忘れるなよ」
「はい!」
我ながらセコいというか、ケチくさいやり方だな。しかしあのレストランはマジで洒落にならん金額だからなぁ。ダメ元で申請はしたが、経費で落ちない覚悟で行くしかない。
「先輩、彩希さんとお食事ですか?」
「ああ。仕事だけどな」
「どこでです?」
「ん? 有名レストランで修行したっていう人がいるとこだよ」
「もしかして、
「ああ、確かそんな名前だ」
「めちゃくちゃ高級なレストランじゃないですか!!」
「そんなにすごいのか?」
知らない佐々木が訊くと、「あんたの月給が一晩で消えるわよ」と睨む。
「そ、そんなすごいところに行くんですか……」
「ああ、まあな」
「いいなー、私も連れてってくださいよー」
「馬鹿言うな、これは接待なんだぞ」
「だからこそじゃないですか!」
「そうですよ! 俺達ワンチームじゃないっすか!」
おいおい、こんな時だけチームを主張するなよ。
「とにかく、今回は駄目だ!」
「えー! ……じゃあ、今度連れてってください」
「は?」
「いいじゃないですかー! 彩希さんと行くんですから、私とも行ってください!」
「どういう理屈だ」
「新島、見苦しいぞ。大人しく諦めろ」
と、横槍を入れてきた佐々木に「あんたは黙って仕事してなさいよ!」と一喝する。
「おー怖」
「分かった分かった。今度食事に行こう」
「ホントですか!?」
「ああ。ただし、あんな高級レストランは無理だからな」
「やったー!」
「先輩、俺はー?」
「あんたはダメ!!」
噛みつきそうな新島に「ひぇぇ」と佐々木は退散する。
「なにもそこまで邪険にしなくても……」
「いいんですよ、あんなやつ」
はぁ、ワンチームね……。
一悶着あって仕事に戻ろうとした時、新島の左肩あたりにノイズが走るのを見た。
「――!」
何度も何度も頭の中で否定し、何度も何度も頭の中でシミュレーションし、それでも最終的には浄化するしかないという結論に達する。そのループをもう何十回繰り返しただろう。
「……新島」
「なんですか?」
「……」
「?」
「いや、なんでもない。仕事がんばろうか」
「はい!」
時間はない。俺は覚悟を決めないといけないのか……。
* * *
夜になり、仕事を終えて会社を出る。
「お疲れ様でしたー」
「ああ、お疲れ」
「先輩、約束ですからね。忘れないでくださいよ」
「分かったよ」
「それじゃ!」
あんなに元気なのにな……。もうすぐローレスになってしまうのか……。
駄目だ駄目だ! しっかりしろ! これからもう
「そういえば先輩」
「なんだ、佐々木まだ帰らないのか?」
「いえ、今から帰るところです。それより姫嶋かえでのその後ってなにか情報ありませんか?」
不意に姫嶋かえでの話を振られて一瞬動揺してしまった。落ち着け、佐々木のは単純にオタクなだけだ。
「さあな。なんで俺が知ってるんだ?」
「いやー、あんな特等席のチケット買える上級国民とお知り合いなら、なにか分かるかなーって」
「上級国民? なんだ、そんなに良い席だったのか?」
「え? 前にも話したじゃないですか。良い席どころか、最前列のかぶりつき席だったって!」
「そ、そうだったか?」
ヤッベー! そうか、新島と違って佐々木は人形のことも完全に
それにしても煌梨よ、さすがに最前列はマズイだろ……。
「それは良かったな」
「もうマジ感謝感激ッスよ! ……まあ、あんなことがあって、色んな意味で記憶に残りましたけどね」
「宮根もホント、馬鹿なことしたよな」
俺が彩希に写真を撮られたばかりに発展した事件――
『きききき、きき、君になにが分かるっていうんだ!? 彩希ちゃんはなあ! てて、ててて天使なんだよ僕のさああああ!!』
あいつにとって、彩希は本当に天使だったんだろうな。それを俺が汚したと思って……。
――待てよ? なら、どうして写真に写っていた男である俺を殺そうとしなかった? それに無差別殺人を示唆する書き込みをしてたのに、どうして彩希を襲ったんだ。書き込みは捜査を撹乱するためか?
いやいや、それよりもっと
それなのに、
……それとも、無差別殺人を行う予定だったのに彩希が登場したから急遽狙いを彩希に変更した? いや、そもそも無差別殺人なんて本当にやろうと思ってたのか?
サプライズで意表を突かれたなら戸惑うはずだ。もしあの瞬間、殺意に駆られたとしても準備が良すぎる。たまたま最前列にいた? そんな偶然あるか!? まるで、宮根は彩希が登場するのを知っていたかのようじゃないか!
「佐々木!」
「は、はい?」
「お前、最前列で観てたって言ったよな」
「はい。最前列のチケットだったので」
「最後のフィナーレの時……いや、もう少し前かも。宮根は最前列にいたか?」
「いや分かるわけないっスよ。皆熱中してて……」
「どうした?」
「いえ、そういえばあの時、妙なことがあったなって」
「妙?」
「はい。さっきまで居たのと違う人が居たような」
「どういうことだ?」
「えーと、ファンの多くは推しの鉢巻してるんですよ。で、新島の隣の隣だったかな? 古間麗美を推してるファンがいたはずなのに、フィナーレには居なかったんです」
「トイレとかじゃないのか?」
「いやいや、それはないっスよ。あの大熱狂のフィナーレでトイレなんか行くファンはいませんって。ちゃんとトイレ休憩だってありますし」
「つまり、理由は分からないが、人が入れ替わった?」
「はい。あ、ちなみにそいつは宮根さんじゃないですよ。宮根さんの顔は知ってたんで。だから宮根さんが突撃した時はマジでビックリしましたよ」
人が、入れ替わった?
宮根本人じゃないにしても、なんらかの役目を持った人間がライブ会場の最前列に侵入した。そして……。
「その、ファンが消えた直後なんだよな? フィナーレは」
「そうです。だからトイレに行ったなんてあり得ないですよ」
フィナーレ直前で入れ替わった人間がいた。
その直後にフィナーレ、宮根が事件を起こした。
おい……。まさか、入れ替わった人間って――!
To be continued→
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