第148話 お風呂へ行こう

 ――あらすじ。

 学院に侵入した魔物をなんとか倒した俺は風呂に入って寝ようとして、女子寮の風呂になんか入れないとぷに助と言い争っていると風呂が壊れてしまい、協力者の一人である真島乃愛から招待されて自宅の風呂に招かれたのだった。


 *   *   *


 一時的とはいえ、世界的に有名人となってしまった姫嶋かえで。

 学院側の措置としては長期休暇中のはず。そのかえでが一緒にお風呂に行くなんて不自然さ、当然のように騒がれると思ったんだが、招待された10人の女の子は特になんの反応も無かった。

 

 今の子はテレビ見ないのか? いや、ネットニュースにもなっていたし知らないなんてことあるか? それとも三ツ矢女学院はインターネット禁止なのか?

 まあ、下手に訊くとやぶ蛇になりかねないので、とりあえず黙ってることにした。


「ここが真島邸……」

 

 さすが三ツ矢女学院に通うお嬢様だ。自宅がホテルみたいだ。ここ日本だよな?


「なんか本当にお嬢様って感じだなー」

「あはは、なに言ってるんですか。姫嶋さんだってお嬢様じゃないですか」

「え? いやぁ私はそんな大したことは……」


 ていうかお嬢様じゃなくておっさんだし。

 でもそうか、三ツ矢女学院に通う生徒は全員なんらかのお嬢様なんだな。てことはここにいる10人も全員そうなのか。


「とりあえず私は最後でいいので」

「? 姫嶋さん入りたいんですか?」

「え?」


 案内された風呂は、一般的な銭湯の4倍は広かった。


「はは、は……。さすがはお嬢様の邸宅」

「ほらほら、姫嶋さんも入ろ!」

「えっ、え!?」


 中学生のお嬢様10人と一緒に風呂!?

 おいおい急に読者サービスしすぎなんじゃないか!?


「いや、私はあとでも――!」

「なんでそんなに恥ずかしがるんですかー?」

「もしかして、胸が小さいことが悩みとか?」

「お腹のお肉がちょっとヤバめとかー?」

「ちょ、ちょっと、みんな目が怖いよ……?」

「脱がしちゃえー!」

「ああああああ!!」


 中学生の女の子に寄って集って服を脱がされる。これはちょっとした恐怖だぞ。


「みんな、かえでちゃんが怯えてるよー」


 乃愛が助けに来てくれた!


「って」


 裸じゃねーか! いや当たり前のことだけど!

 本当に目のやり場に困る……。


「あらあら、かえでちゃんたらぁ」

「え?」


 皆さんの全視線が姫嶋かえでの身体に集まる。なにこれ羞恥プレイ!?


「なによもう、恥ずかしがるとこないじゃない」

「ていうか羨ましい。スタイルいいし!」

「ほんと、おっぱいの形すごく良いよね」

「肌白くてキレイー! 髪もすごくキレイ。なんのシャンプー使ってるのー?」


 今度は逆に褒められながら質問攻めになってしまった。


「いや、あの、特には……」

「えー? ウソだー! どうやってスキンケアしてるの? 教えて教えてー!」


 俺に分かるわけないだろー!?


 *   *   *


「はぁ……」


 結局皆と一緒に入ることになってしまった。ササッと体を洗って湯船に入る。いや、これ湯船って言えるのか? ちょっとしたプールだろ。


「でも、いい湯だな……」


 一日の疲れが取れる。姫嶋かえでの姿で風呂に入るのは初めてだが、悪くはないな。

 というのも、姫嶋かえでに変身すると何故か毎回髪はサラサラで良い匂いがして、まるでお風呂に入れておきましたってくらいのコンディションなんだよな。だからシャワーすら必要ない。


「しかし、今後2週間はこのままなわけだし、がんばって入るしかないか」


 さすがに変身中は汚れちゃうだろうし。


「かえでちゃん」

「あ、乃愛さん」

「湯加減はどう?」

「最高。ありがとね」

「良かったー。喜んでもらえて」


 入浴剤を入れてるからか、湯は乳白色なので肩から下は見えない。なので目のやり場に困ることはない。


「まさか風呂が故障するなんてねー」

「故障とは少し違うよー」

「え? どういうこと?」

「放送でも言ってたでしょ? 調子が悪くてって」

「そういえば……」

「実はねー、あれ、あたしなの」

「え?」

「本当はお風呂、普通に使えるんだよー」

「えええ!? いったいなんのために?」

「かえでちゃんとこうして話したかったからだよ」


 スッと俺の方に近寄る。


「ど、どういうこと?」

「んー? あたしね、可愛い子が大好きなの」

「そ、そうなんだ」

「うん。スレイプニルと校長先生から話は聞いてたから、ずーっとワクワクしてたんだぁ。今日見かけてね、一目惚れしちゃった」

「えっ」

「あはは、大丈夫。襲ったりなんかしないからー」

「あはは……」


 とか言いながらさらに近寄る。


「ねぇ、かえでちゃんは好きな子いるの?」

「や、いや、いない……けど」

「……女の子でも?」

「う、うん……」

「そうなんだ」


 足に、太ももあたりに乃愛の細い指が這う。次第に上の方へと……。


「乃愛……さん?」

「いいよ、乃愛って呼んで」


 耳元で囁かれるのは……!


「あっ……」

「ふふ、弱いんだ? 可愛い」

「はぅ……!」


 力が抜けて動けない。このままされるがままなのか!?


「本当にキレイな肌だね」

「ひぅん!」


 首筋に柔らかい感触が!


「ふふ、抵抗してもいいよ? なんてね」


 抵抗したいけど、力が抜けて……。


「ほら、ここ」

「あっ」


 ヘソのあたりに魔力が流し込まれる。すると体が一瞬燃えるように熱くなり、疲労感が消えてゆくのが分かる。


「これは……」

「ふふ。気持ちいいでしょ? あたしの特技だよ」

「疲れが取れた……だけじゃない。体が軽い」

「これ使ったの、かえでちゃんが初めてだから」

「え?」

「いつもは自分にしか使わないし、他の人に使う時も簡単バージョンなの。ちゃんと最後まで、奥の方まで使ったのはかえでちゃんだけ」

「あ、ありがとう……ございます」

「ふふ。ちょっとだけ期待した?」

「え? ――ッ!!」

「あはは、いい反応だなぁ」


 この子……俺をからかったのか! チクショー!

 マイペースじゃなく小悪魔じゃないか!


「でもね」


 また耳元へ言葉を囁く。


「一目惚れしたのも、大好きなのも本当だよ」


 チュ。


「えっ?」

「早く上がらないと逆上せちゃうよ?」


 そう言って湯船を出る乃愛を見送りながら、囁かれた言葉と頬に残る感触に脳がオーバーヒートしてしばらく動けなかった。



 To be continued→

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る