第147話 緊急事態?
「ふぅー」
なんとかランクA相当の魔物を倒すことはできた。だが今みたいな裏技はもうできない。なぜなら【エクスカリバー】は一回限りのものだからだ。
ゲーム内では年一回のイベントで手に入るが、使うと消滅する。要は剣と言いつつも消費アイテムの扱いだ。能力を使わず剣として使ってもいいが、性能は決して高いとは言えない。つまりアイテムとしての価値なのだ。
だから……。
「【エクスカリバー】!」
再び魔法の杖で再現しようとする。しかし案の定現れない。あれだけ忠実に再現してくれてるんだ、こういうデメリットも再現されてるよな。
「何度も使えるなら敵無しなんだけど、そうは問屋が卸さないよな」
さて、水鳥は無事か?
「水鳥さん」
「……」
無事ではあったが、ボーっとして放心状態だ。無理もない。殺されそうになったんだ。
「水鳥さん、終わりましたよ」
「……終わった?」
「はい。今度はちゃんと消滅しました」
「本当に?」
「はい」
「姫嶋
「え!?」
突然抱きつかれて尻餅をついてしまった。
「なになに!? どうしたの?」
「先ほどの無礼をお許し下さい。姫嶋様の勇姿を見て私、感銘を受けました!」
「いやそんな! 水鳥さんのほうが先輩だし修羅場も経験してるじゃないですか」
「先輩なんて烏滸がましいですわ……。それに、私は修羅場といっても先輩魔法少女の後方支援をしていただけです……」
「え? そうなの?」
「はい……。私は自分でもプライドが高いと分かっているんです。なので、どうしても姫嶋様の上に行きたくて……。どんな罰でも受けます!」
「いやいや、そのくらいで罰とかないから」
「はぁ……なんとお優しい」
「それに様はやめてよ」
「いえ、敬愛する相手に様を付けるのは当たり前のことですわ」
そこはキリッと真面目に答える。
「まあ、今はいいか。それより……」
「どうされました?」
「ん? ああ、さっき言った妙な気配。あの魔物を倒してから消えたんだ」
「では、あの魔物がその気配の正体なのでは?」
「いや、気配はそれとはまた別なんだ。それが急に消えた」
メイプルにずっと探ってもらっているが……期待できそうにない。
「ま、いっか。水鳥さんが無事だったし」
「私が?」
「うん。水鳥さんに怪我がなくて良かったよ」
「そんな……私なんかのことを……」
「私なんかじゃないよ。水鳥さんは私を助けてくれたじゃない。それに協力者として私を支えてくれてる。本当に感謝しかないよ。ありがとう」
「ひ、姫嶋様ぁ……」
「ちょ、なんで泣くの? もう……」
さっきは本当に助かった。水鳥が助けてくれなかったら、俺は死んでたかも知れない。
謎の魔物に妙な気配。まったく、学院でもトラブルかよ。少しは平穏に過ごさせてくれ。
「ほら、そろそろ部屋に戻らないと」
「……はい。今日は本当にありがとうございます」
「それはこっちのセリフだよ」
「それと、私のことは水鳥と呼び捨てにしてください」
「え? それはまずいんじゃないの? ここって超が付くお嬢様学校でしょ」
「そ、そうですね……。ではせめて二人の時にでも!」
「しょうがないな、分かったよ。水鳥」
「ありがとうございます!!」
本当にものすごく嬉しそうだ。姫嶋様に水鳥の関係か。なんだか少女モノになってないか?
* * *
寄宿舎に戻り、水鳥と別れて部屋に戻ると舞彩はまだ寝ていた。というかこのまま朝まで寝るのか?
「舞彩ったら、お風呂にも入らず寝てしまったのね」
いつの間にか後ろにいた陽奈はいつの間にか風呂に入ったらしく、髪がしっとりしてパジャマ姿だった。なんとも目のやり場に困る……。
「陽奈さん、もう大丈夫なんですか?」
「なにが?」
「あ、いえ、なんでも」
どうやらさっきのは気のせいだったみたいだな。怒ってないようだし。
「そうだ、陽奈さんに報告が」
「なに?」
先ほどの魔物のことを話すと、陽奈は少し考えて「分かりました。そのことは私から話しておきます」と答える。
「よろしくお願いします。……そういえば、協力者って水鳥さんともう一人いますよね」
「ええ。真島乃愛ね」
「どんな子なんですか?」
「そうね……。一言で表すならマイペースかしら」
「マイペース?」
「そう。とにかく自分のペースを崩さず行動するの。性格はおっとりしてて、特に下級生に人気があるわ」
「下級生って、小学生ですか?」
「ここ三ツ矢女学院は幼稚園から大学までありますよ。予習くらいはしておいてください」
「うっ……すみません」
確かにまったく予習してない。ただホテルで過ごす感覚でいた。
「三ツ矢女学院について少しだけでいいので教えてください!」
頭を下げると、「しょうがないですね……。今夜はもう遅いですから、明日にしましょう」と言ってくれた。
「ありがとう! ――ございます」
「それ、慣れないと大変ですよ?」
イタズラっぽくニヤッと笑う。
「が、がんばります」
そういえば俺、三ツ矢女学院についてなんにも知らないな。いや、娘どころか彼女もいないおっさんが詳しかったら逆に怖いだろ。
「ふぁぁ……」
眠い。とりあえず風呂入って歯磨いて寝るか。……風呂?
いやいや! ここ女子寮っていうか女の子しかいない学校じゃないか! いくら見た目女の子でも犯罪だぞ!?
「え? じゃあ、風呂どうすればいいの?」
こういう時は……。
魔法の杖のボタンを連打する。と、すぐに頼れるぬいぐるみに蹴り飛ばされる。
「お前は緊急事態という言葉の意味を知らんのか!?」
「しぃーっ! 今舞彩が寝てる!」
「ぬっ?」
ベッドで寝てる舞彩を確認すると、ぷに助は少し声を抑える。
「それで、お前の頭には緊急事態という言葉はどういう解釈で載っておるのだ? ん?」
「いやいや、真面目に緊急事態なんだって!」
「ほほう? なんだ、言ってみろ」
「風呂に入れない」
「じゃあな」
「ちょ、ちょっと待てって!」
「このアホめが! 風呂に入れないってなんだその理由は! どうせ恥ずかしいとか思ってるんだろ、このピュア童貞めが! 緊急事態ならせめて風呂場が壊れたとか、それくらいの理由を――」
《緊急放送です。寄宿舎のお風呂の調子が悪くお湯を沸かせません。現在業者に問い合わせており――》
「えーと」
「お前、まさか本当に壊したんじゃあるまいな?」
「そんなことするかぁ! それに恥ずかしいというか、犯罪だろ!」
「そんなこと気にするのはお前くらいだアホめが! 主人公なら普通喜んで入るだろうが!」
「それは偏見だ!」
言い争っていると「あのー」と声を掛けられる。
「えっと……誰?」
「私は乃愛っていうの。真島乃愛」
「真島乃愛……。ああ! 協力者の!」
「うん。それでね、もしかしてお風呂に入れなかったの?」
「実はそういうことです……」
「なら、うちに来ない?」
「え? うち?」
「うん。これからお風呂に入れなかった人たちを招待してお風呂に行こうと思うの。かえでちゃんも良かったら」
い、行きたい。すっごく行きたい!
でも、だが、うーん……。
「よし、ならこいつを連れてってやれ」
「へ?」
「はーい。じゃあ行こう!」
「ええーっ!? いや待て、ちょっと待って!」
「なーに?」
「今確か、
「そうだけど?」
「私は今、世間的には重体。三ツ矢女学院では長期休暇っていうことになってる。事情を知らない他の人とはマズイでしょう」
「む。それもそうだな」
「大丈夫よー」
「え?」
「みんな良い子だから!」
「……は?」
「だからー、大丈夫よ」
「え? あの、話聞いてた?」
「うん。みんな良い子だもの。ちゃんと言えば分かってくれるわ」
「……ぷに助、どうしよう」
「スレイプニルだ。これ以上は平行線だ。行ってみるしかあるまい」
「いいのかよ!?」
「もし、バレそうになったら私が対処してやる」
「え? いいのか?」
「今ここで問題を起こしても困る。彼女の家は三ツ矢女学院の生徒の中でも影響力が大きいからな」
「そ、そうなのか」
それじゃあ、まあお言葉に甘えるとするか。
「じゃあ、よろしくお願いします」
「うん! お風呂に行こうー!」
To be continued→
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