第146話 武器再現

 参ったな……。完全に油断していた。


〈メイプル、至急花織さんに連絡を〉

〈了解〉


 このままじゃ確実にやられる。水鳥を守りながら逃げられるか? そもそもどこへ逃げる?


「死ね」


 ――来る!


 気配なく肉薄できるこの魔物相手にできる対処法はただ一つ。

 

 ガキィン!


「なに?」


 ピュアラファイが効かないなら、アタッカーモード。【双天緋水】しかない!


「オマエ、剣士?」

「まあな」


 あくまでゲームの中の話だがな。俺は剣で戦うことが多かった。だから武器だけは網羅している。


「ん?」


 なんだ、こいつ? 震えてる?


「剣士、ならアタシも! 来たれティルフィング!」

「なに!?」


 ティルフィングだと!? もし本物ならやばい!


「楽しみ。行くぞ!」

「くっ!」

 

 【双天緋水】で受け止めるが、このプレッシャー……マジで本物か!?

 なんとか弾き返して水鳥を抱きかかえる。


「ひゃっ! なにを――!」

「逃げるんですよ!」


 女の子の柔肌と良い匂いで心臓が破裂しそうだ。


「逃さない!」


 このまま逃げ回っててもやられる。なんとかしないと!


〈メイプル、花織さんは?〉

〈現在魔法通信が遮断されているようです。何度試しても繋がりません〉

〈魔法通信が遮断されてる!?〉


 そんなことできるのか? だとしたらもう一つの魔物のほうか。この戦闘狂にそんな芸当ができるとは思えない。

 それよりも、花織さんが当てにならないとしたら、どうすれば……。


「死ね」

「しまっ――」


 とっさにガードしたが、バランスを崩して落ちてしまった。


「ぐっ!」


 どこかの屋根に落ちる。なんとか水鳥も下に落ちなかった。


「オマエ、剣士? 戦え!」

「そうするしかない――。な」


 あれが本物のティルフィングなら、俺に勝ち目はない。ティルフィングは使用者を不幸に陥れる代わりに勝利をもたらす。それはゲームでも再現されていた。

 ゲーム内の不幸は経験値減少(実質的なレベル低下)と資産の半減(預けてるお金とアイテム全て)、あとランダムにステータスが減少(永続)する。その代わり一部を除いた敵には必ず勝てる。


 当時の衝撃はすごかったが、捨て垢が横行したり人柱に使われる人が出るなど被害も多く、一年も経たずに禁止武器となった。それからは条件付きのただ強い武器になり人気もそこそこだった。


「ティルフィングに対抗できる武器か……」


 あれほど強力な武器に対抗できるとしたら、パッと浮かぶのは【エクスカリバー】か。約束された勝利の剣という名はあまりにも有名だ。

 だが問題なのは、俺がアタッカーモードでその神話性を再現できるかということだ。以前、公園で謎の結界に閉じ込められた時は【紅のヤシオ】の能力を使えたが、結界によるエミュレータ機能のおかげという説が俺の中では有力だ。


「でもまあ、そんなこと考えてる猶予はないか」


 【双天緋水】を捨てて【エクスカリバー】を再現する。当然ながら本物は知らない。これもゲーム内にあったものを再現するだけだ。

 ただし、ゲーム内では少し能力が異なる。神話性よりゲーム性が優先されるためだ。


「武器変えられる? オマエ、面白い」

「そりゃどうも」


 ゲーム内における【エクスカリバー】の能力。それは――


「頼む……。湖の乙女の加護!」


 能力名を宣言すると剣が青いオーラを帯びる。それが俺の全身を包み込む。


「発動した……?」


 ということは、あの謎の結界で発動した冥府ノ誘はエミュレータによるものではなく、魔法の杖、もしくは俺自身の力か?


「なんだ、それは?」

「これか? ゲーム内での【エクスカリバー】の特殊効果だ。それは――」


 一瞬で魔物の背後に回り首へ刃を向ける。


全能力強化オールバフだ」

「なっ!」


 さすがの反応で首は逃したが、背中あたりを切りつけることには成功した。


「それもただのバフじゃない。解除しない限りは青天井で上がっていく。MPが尽きるまではな」

「そんなことが――」

「あるんだよ!」


 ゲーム内でのMP消費は1秒10ポイント。それは一定で増えることはない。ただし高級ポーションを惜しげもなく湯水のように使える人でなければあっという間に尽きてしまう。

 その仕様がどう再現されてるかは分からないが、今の感覚を信じるなら一晩中戦えそうな気がする。


「くそ!」


 ティルフィングは確かに不幸と引き換えに勝利をもたらす剣だ。でもそれは因果を歪めるようなものじゃないはずだ。事実、ゲーム内でもラスボスや裏ボスなど一部例外には効かない。

 現に俺の猛攻に魔物は対応できてない。相手がレベル100だとしてもバフにより俺がレベル150相当になれば競り勝てるようなものだ。


「というより、そのティルフィングは本物じゃなかったのかもな。私のも本物じゃないけど」


 さっきの威圧感も、もしかしたらこの魔物からのものだったか。


「さて、そろそろバフが上乗せされるな」


 ここまでくると、もはや弱いものイジメに思えてくる。相手の攻撃は一切当たらず一方的に攻撃する。だが相手は魔物だ。油断ならない。


「これで終わりだ!」


 魔物に【エクスカリバー】を一閃。ようやく戦いが終わる。――と、魔物は「すみません、ニューラ様……」と言って消えていった。


「ニューラ?」


 魔物の名前かな?


 ……それにしても、まさか本当に【エクスカリバー】を再現できるとは。しかもちゃんと全能力強化オールバフが乗っていた。これはもう疑いようがない。

 ゲーム内の武器再現は、姫嶋かえでというイレギュラーな魔法少女による力だ。



 To be continued→

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