第145話 気配のない魔物

「なんだ!?」


 謎の気配を探っていたところ、一瞬それが顔を出した。


「今の……なんだ」


 とてもおぞましい気配に身体が震える。まるで全身に大量の虫が這うような気持ち悪い感じ。


「メイプル?」

『ほんの一瞬でしたが、高魔力反応がありました。現在確認されているどの魔物とも一致しません。新種の可能性が極めて高いです』

「新種か……」


 応援を呼ぶか? だが未知の敵を相手に誰を……。


「……いるじゃないか。が」


 現役最強の魔法少女。あの人が来てくれれば!


「メイプル、今すぐ応援を――」

『警告! 緊急防御展開!』

「――!」


 どこからか飛来した物質攻撃を受けてふっ飛ばされる。


「ぐっ……!!」


 メイプルが防御してくれなかったらヤバかった。


「いったいなんだ!?」

『上空に敵影。ランクA相当の魔物です』

「ランクA!?」


 まずいぞ。俺はまだ単独でランクAを倒せない。ていうか結界はどうしたんだ!?


「メイプル! 花織に連絡――」

「オマエ、邪魔するな」

「なっ!?」


 一瞬で肉薄された。黒い外套を着た女のような魔物。なんの気配もない。


「くっ! アナライズ!」


 ビーッ! と聞いたことないブザー音が鳴り、視界にERRORと出た。


「エラー!?」


 なんだこいつ!? アナライズできない? そんな馬鹿な!


「邪魔は、させない」

「くそ! ピュアラファイ!」


 クイックドロウで強めに撃つ。被害ならあとでぷに助になんとかしてもらう!

 が、そのピュアラファイをこいつは片手で弾いた。


「なっ!?」

「オマエ、弱い」


 嘘だろ……? なんなんだよこいつ!?


「消えろ」


 やられる――!


「――エグゼキューション。レイアライラレイラ!」


 上空が光ったと思うと、無数の光の剣が降り注ぐ。

 俺自身にはいつの間にかバリアが張られていて無傷だった。


「助かった……?」

「ボーっとしてないで! こっちに!」

「え? あ、はい!」


 声のするほうに跳ぶと、そこには青髪ショートの女の子がいた。


「君は?」

「風間水鳥です。姫嶋かえでさん、ですね? 本人の」

「はい、そうです」

「詳しいことは後回しにします。アレは?」

「分かりません。なんの気配もなく突然襲われて」

「今のが効いてない……いや、避けられた? なら――飛輪より来たれ紅蓮。赫々かくかくたる宝剣を咎人の喉に突き立てろ!」


 水鳥が呪文のような言葉を唱える。すると魔法の杖のハート飾りが赤く光った。


「オマエ、も邪魔。消えろ」

「そちらこそ、消えてください。――エグゼキューション。アルエルリエリアッタ!」


 魔法の杖から巨大な赤い剣が現れ、謎の魔物を貫く。


「うぐっ」


 そのまま天高く魔物を飛ばし、上空で大爆発を起こした。


「あんな爆発して一般人に気づかれないんですか?」

「平気よ。学院の結界内で起きたことは外には一切漏れないし、結界内の一般人には一切知覚できないわ」

「すごいですね……」

「それで、あの魔物はなに?」

「私が聞きたいですよ……。えーと、風間さん?」

「水鳥でいい」

「えと、じゃあ水鳥さん。もしかして50キロメートルエリア担当?」

「? いえ、10キロメートルエリア担当です」

「そうなの!? あんな強い魔物を倒しちゃったから、そうかなって」

「あんなって、ランクB相当なら姫嶋さんもいけるでしょう?」

「え? 今のランクB?」


 おかしいな。メイプルはランクA相当だって言ってたが……。


「いや、私のピュアラファイ弾かれちゃって」

「ピュアラファイ……? ランクB以上にはピュアラファイなんてほとんど効きませんよ」

「え?」

「特にランクA相当には一切効きません。効くのは完全に弱ってからです」

「でも、この前やったトラクトノスはピュアラファイで倒せたよ」

「トラクトノスをピュアラファイで!?」

「うん」

「はぁ……。姫嶋さん、嘘をつくならもっとマシな嘘にしてください」

「え?」

「トラクトノスを倒すには、10キロメートルエリア担当の魔法少女なら10人。50キロメートルエリア担当なら2人で倒すような魔物です。しかもちゃんとした魔法と術式が必要になります。ピュアラファイだけで倒したなんて他の魔法少女に言ってみなさい、笑われますよ」


 うーん、本当なんだけどなー。現場に何人かいたし。まあ今はそれどころじゃないか。


「それより、あの魔物だけじゃないんです!」

「え?」

「私は妙な気配がしたから探ってたんです。そしたらあの魔物に邪魔するなって襲われて。だからまだ危険が」

「姫嶋さん。あなた本当に10キロメートルエリア担当なの?」

「はい?」

「そんな気配どこにもないし、あの魔物がその妙な気配に関わってるかどうかも分からない。詳しいことは調査のあとです」

「でも本当に!」

「しつこいですよ」

「……」

「あなたは確かに強い器を持っています。魔法少女としてはかなり恵まれた生まれです。しかし魔法少女としての経験値は圧倒的に私のほうが上なんです。修羅場も経験してます。なので今は私に従ってください。いいですね?」

「……分かりました」


 参ったな、なんだかプライド高そうな子だ。これ以上下手に騒いでもまずい。


〈メイプル、さっきの魔物はこの子の言うようにランクB相当なのか?〉

〈いいえ、残念ながら水鳥さんの推測は外れています。マスターもご存知のように、私は天界のデータベースに直接アクセスできます。そのデータを分析して検証した結果、Aランク相当と断定できます〉

〈だよな。私も実際にやりあってBとは思えない。あれは一人でやるなら高位ハイランクじゃないと倒せないはずだ。でもこの子は倒した〉

〈いいえマスター、それは間違いです〉

〈なにがだ?〉

〈あの魔物は未だに存在します〉

〈なんだって!?〉

「水鳥さん!」

「なんですか?」

〈警告! 緊急防御展開!〉


 水鳥を押し倒す形で攻撃から守る。ギィン! と物質攻撃が弾かれる音がする。


「なんですか、いったい!?」

「さっきの魔物です!」

「なんですって? そんな馬鹿な!」


 水鳥は起き上がって上空を見る。そこには先ほど倒したと思った魔物がいた。


「うそ……」


 魔物は刺された傷など無かったように回復していた。


「オマエたちは、殺す」



 To be continued→

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