第143話 トリテレイア

 ――三ツ矢女学院防衛隊『トリテレイア』

 三ツ矢女学院に在籍する生徒、魔法少女は質の良い器を持つため魔物に狙われやすく、学院には常に魔物が集まる。もちろん一般生徒や教師には見えないが、見えないからといって放置していいものではない。

 その魔物を学院に在籍する魔法少女が密かに浄化している。そのための組織が学生による防衛隊『トリテレイア』というわけだ。


「なるほど、それが校長先生の言ってたお仕事か」

「そういうことです」


 不審者の誤解が解けたあと、舞彩の部屋にお邪魔していた。といっても今日から俺もお世話になるんだけど。

 ……待てよ? 色々と切羽詰まって焦ってたから気づかなかったが、2週間も中学生の女の子と二人きりなのか!?

 しかし今さら「やっぱりやめときますー」なんて言えるわけがない。それに協力者には多大な迷惑と負担を掛けてるんだ。俺はわがままを言える立場じゃない。


「それにしても……。舞彩さんはさっきとは打って変わって大人しいね」

舞彩まあやは普段はポンコツ、お仕事モードは優秀、力尽きると使い物にならなくなります」

「なにもそこまで言わなくても」

「あぅあー」


 あらまぁ、これは本当に重症だわ。言語野までポンコツになってる。


「大丈夫ですよ。明日になれば元に戻ってますから」

「そうなの?」

「はい。今日はお仕事ありませんし、ゆっくりなさってください」

「そうなんだ。いつやるとか決まってるの?」

「余程のことがない限りは週に1回ほどです」

「週一か。てことはお世話になってる間に2回あるかどうかかな?」


 それなら全然いいや、2週間後のミニライブへ向けたレッスンと本業の調整に費やせそうだ。

 と、安心しきった時だった。ビーッ! ビーッ! とけたたましいアラート音が鳴り響く。


「なに!?」

「緊急出動の合図です。すみませんが、かえでさん一緒に来てください」

「いいけど、舞彩さんは?」

「あぅあ〜?」

「今はポンコツなので置いて行きます」

「……そうだね」


 隊長モードの反動でポンコツになってしまった舞彩を置いて上空へと飛ぶ。


「これはすごいな……」


 上空には魔物が大量に押し寄せて来ていた。しかし中には入って来れないようだ。


「三ツ矢女学院にはドーム状の強力な結界が張られています。そこで足止めした魔物を魔法少女私たちが処理するという仕組みです」

「へー、こんな巨大な結界を……すごいね。この結界は誰かがずっと張ってるの?」

「誰か一人ではありません。学院の全員で維持しています」

「全員でって、一般生徒もいるでしょ?」

「ほんの少量の魔力を頂いてるだけなので、一般生徒は無自覚です。健康に影響もありません」

「そうなんだ。こんなすごい結界をいったい誰が……」

「さあ、そこまでは分かりません。随分と昔からあるようですが」


 結界といえば廷々家だが……。昔からということはゆかりじゃない。祖母の時代に複数人で作ったのか。


「分かった。とりあえず片っ端から浄化すればいいんだね?」

「そうですが、今回は数が多いので応援を――」

「ピュアラファイ!」

「え? ちょっ」


 全ての魔物にロックオンして細めの拡散式を放つ。ちょっと数は多いが、メイプルの力を借りれば造作もない。


「ふぅ、九割は片付いたかな? 陽奈さんなにか言った?」

「……いえ、なにも」

「そう? 残りもやっちゃうね」


 ロックオンが掛けづらい魔物が数体。近づいてからピュアラファイを撃って浄化する。


「これで全部かな?」

〈反応は全て消失しました〉

「オーケー、それじゃ戻ろうか」


 陽奈のもとに戻って「終わったよ」と声を掛けるが返事がない。

 

「あのー」

「……え?」

「大丈夫? ボーっとしてたけど」

「――! いえ、なんでもありません」

「そう? あと、魔物は片付いたけど、なんか妙な感じがするんだよね」

「妙な?」

「うん。学院内に気配がする」

「それはあり得ません」

「え?」

「学院内は結界で守られてるだけではなく、万一魔物が侵入した場合は警報音が鳴ります。警備は万全です。ご安心ください」

「そ、そうなんだ」


 なんだか不機嫌になってないか? 俺なにかしたか?


「えーと、他にはあるかな? 手伝うこととか」

「いえ、防衛隊のお仕事は魔物を全て浄化することなので、これで終わりです。お疲れさまでした。私は用事があるのでお先に失礼します」

「え? ああ、うん。じゃあ部屋に戻ってるね」


 なんだか様子がおかしい気もするが、こういう時になんて声を掛けていいのか分からないし、ここは大人しく部屋に戻るか。もなんとかしないといけないしな。


「戻りましたー」

「ぇぅー?」


  舞彩は部屋のベッドで寝ていた。


「お仕事は終わりましたよー」

「あーぅ」


 プルプルしながら起き上がると、俺の頭を撫でる。


「えっ!?」

「あーぅあぅ」

「舞彩さん……」


 なんともポンコツな隊長だが、根はいい子なのかもな。一応、三ツ矢女学院に通うお嬢様なわけだし。


「それにしても……」


 やはり気になる。あの気配はどこかで感じたことがある。魔物とは少し違うような……。


「少し調べてみるか」


 消灯時間にはまだ早い。メイプルとなら探れるだろう。


「舞彩さん、少し外に出ますね」

「あぇ? うーぁぅ」


 いってらっしゃい。と言うように手をひらひらさせる。

 舞彩が明日復活するまでに情報を集めよう。


「行くぞ、メイプル」

『了解』



 To be continued→

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