第142話 隊長
――三ツ矢女学院。
政界・財界の大物から有名人、大企業の重役など。ハイステータスな親を持つ令嬢が全国から集まる超がつくお嬢様学校。
「それが、ここか……」
大きな校門が「てめぇなんかお呼びじゃねーんだよ!」と言ってるようだ。
「なに突っ立ってるんですか」
「うひゃわぁ!?」
突然後ろから声を掛けられて声を上げてしまう。
「聞いたことない叫び方しますね……。おはようございます」
「あ、陽奈さんか……おはよう」
「おはようございます」
「え? お、おはよう」
「はぁ……。姫嶋さん。いいですか? 挨拶は必ず『おはようございます』です。おはようなんて気の抜けた挨拶はしてはいけません」
「え? あ、なるほど! ごめん」
「まあいいです。怪しまれないよう、姫嶋さんは極力喋らないでください。私がフォローしますので」
「はい、分かりました……」
さすが陽奈もお嬢様学校の教育を受けてるだけはあるな……。
校門をくぐると、そこはまるで別世界だった。魔法少女の本部はガチの異世界だったが、ここは別の意味で異世界だ。
「おはようございます」
「おはようございます」
他の生徒からの挨拶にも全て応え、自分からも挨拶していく。俺はその後ろで真似をし続ける。
「姫嶋さんは極めて異例の転校生ということになっています。なのでまだ溶け込めない感じでも大丈夫です」
後ろでオドオドしているのを察したのか、早速フォローしてくれた。が、最上階にある校長室へ着くと、「私は委員の仕事がありますので」と先に行ってしまった。
「ここからは俺一人か……」
魔王の部屋に入る勇者の気分だ。さて、乗り切れるかどうか。
ドアをノックすると、「どうぞ」と中から促される。
「失礼します」
正面の大きな窓から朝日が差し込み明るい室内は、豪華な調度品やらなにやらは少なめで、清潔感のある部屋だ。その代わりトロフィーや表彰楯が大量にある。
「あなたが姫嶋さん?」
「はい」
「ようこそ。校長の北見美緒です。ようやく会えましたね」
「すみません。なかなか来れなくて」
「ある程度の事情は伺っています。魔法少女としても忙しくなって大変でしょう。ですが、姫嶋さんはあくまでも我が校の生徒。学生の本分はお分かりですね?」
「はい。分かっています」
「よろしい。しかしながら、マキハラさんの人形は本当に素晴らしいですね」
「マキハラさんをご存知なんですか?」
「ええ。天界と魔法少女のごく一部には知れてますよ。私は姫嶋さんの人形で初めて見ましたが」
「その様子では大丈夫そうですね」
「問題はありませんよ。今のところは」
「というと?」
「いくら精巧に作られた人形とはいえ、人間と同じとはいきません。周りのサポートが必要になる。事情を知る生徒の負担は少なくないということです」
そういえばぷに助が言ってたな。協力者が数人いるって。そのうちの一人が有栖川陽奈だ。
「それはもう、本当に感謝しております。……ところで、寄宿舎の件なんですが」
「ええ、有栖川さんから聞いてますよ。寄宿舎の部屋は協力者と一緒ですから、融通は効くと思います」
「ありがとうございます!」
「他の協力者のリストはこれです」
1枚の紙を渡される。そこには御坂
「同じ部屋に全員いるんですか?」
「いいえ、寄宿舎『しらゆり』は一部屋に2人です。あなたの部屋には御坂舞彩がいます」
「御坂舞彩さんですか、どんな子ですか?」
「それは、実際にお会いしたほうが良いでしょう」
「そうですね、分かりました」
「それと、寄宿舎でしばらく過ごすのであれば、お仕事を一つ頼みたいのですが」
「仕事ですか?」
「ええ。大したことではありませんよ。詳しくは御坂さんが説明してくれると思います」
「まあ、私にできることであれば」
「大丈夫ですよ、あなたに適任だろうと思いますから」
「分かりました。でしたらお受け致します」
「ありがとうございます。ところで、寄宿舎にはいつまで
「えーと、2週間後のミニライブはご存知ですよね?」
「はい。私も楽しみにしてますよ」
「あはは……ありがとうございます。そのライブが終わるまで居させていただけたらと」
「構いませんよ。ああそれと、世間との整合性を取るために姫嶋さんは現在長期のお休み扱いになっていますので、そのつもりで」
「刺されたことは伏せてるんですか?」
「当然です。我が校の生徒が校外で刺されたとあれば大変なニュースになりますからね。しかしバレるのは時間の問題。なので、復活ミニライブを機に公表する予定です。三ツ矢女学院史上初の現役学生アイドルとしてね」
「またすごいシナリオですね……。それも東山さんが?」
「ええ。彼女は天性のアイドルだけど、敏腕プロデューサーでもあるわね」
全くの同感だな。
「とはいえ、異例中の異例。特例措置ですからね、世間からどう見られるかは博打みたいなものね」
「すみません、私のせいで……」
「悪いのは犯人よ。それに成績優秀でアイドルとしても成功した三ツ矢女学院の生徒なんて、いい宣伝になると思わない?」
この校長も……なかなか食えない人だな。
「では、他になにかあれば仰ってくださいね。できる限りの協力をお約束しますよ」
「はい。何から何までありがとうございます」
* * *
「ここか」
三ツ矢女学院の寄宿舎『しらゆり』は漆喰で塗装された美しい建物だ。とても学校の寄宿舎とは思えない。外観はまるで一流ホテルだ。
「なんか、入りづらいな……」
不審者の如くウロチョロしていると、「なにしてるの?」と声を掛けられた。
「え? あ、いや私は」
「不審者ね!?」
「えっ」
「あなた見たことないもの! きっと不審者ね!」
「いやだから私は」
「いいえ不審者よ! どこからどう見ても不審者だわ!」
「だからー!」
「なにしてるんですか?」
そこへ陽奈がやってきた。
「陽奈さん!」
「陽奈ちゃん! あたしは不審者を発見しました!」
「落ち着きなさい舞彩。その人は在校生よ」
「ええ? だって見たことありませんよ!」
「それはそうよ、寄宿舎に来たのは初めてだもの」
「そうなんですか?」
訝しむ舞彩に気圧されながらも「えと、はい。そ、そうです」と応える。
「むぅ……。お名前はなんですか!」
「姫嶋かえでです」
「姫嶋……。ああー!! 知ってますよ! あたし姫嶋ちゃん知ってます!」
確か、校長はお仕事について詳しいのはこの子だと言ってたが……大丈夫か?
「すみません! 顔まで覚えてませんでした!」
「いえ、分かってもらえたら」
「それと、舞彩の同室よ。姫嶋さんは」
「えっ!? そうなんですか!」
「はい。よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
「ところで、お仕事についてなんですけど」
「――お仕事?」
「え? はい」
「気をつけてね、姫嶋さん。舞彩はお仕事に関しては別人になるから」
「え?」
「君か、校長に聞いていた助っ人というのは」
「あの……舞彩さん?」
「隊長と呼べっ!!」
「ええっ!?」
「私は三ツ矢女学院が誇る防衛隊『トリテレイア』の隊長、御坂舞彩だ!!」
To be continued→
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