第141話 口頭注意

「ミニライブ!?」


 ほらな、やっぱりこうなるんだ。


「いやいや! 無理無理、できないって!」

「あらどうして? 55,000人もの大観衆を熱狂させたアイドルとは思えないわね」

「あれは皆さんのサポートと、会場の熱気に浮かされたからできたことで……」

「大丈夫よ。確かにかえでメインのミニライブだけど、ちゃんと私たちもいるから」

「え? そうなの?」

「ええ。だから安心して。それにもう学校には話ついてるし」


 ぐっ……そこはやはり腐っても東山煌梨か。こういう手腕は見事としか言いようがない。うちの会社に欲しいくらいだ。


「はぁ、分かったよ……。いつやるの?」

「明日よ」

「はい!?」

「あはは! 冗談よ。2週間後を予定してるわ」

「2週間……。また練習しないとだなぁ」

「まあ、詳しい話はまた今度ね。阿山さん、お待たせしました」


 あ、そういえば阿山本部長に呼ばれて来たんだった。


「もういいのか?」

「はい。仕事も溜まっているので、失礼します」


 またね。とウインクして煌梨は本部長室を去る。

 なんだか本部長と二人だと空気が重いな……。


「東山はな」

「え?」

「ここに来た時、絶望で今にも自殺しそうな顔をしていた」

「え!?」

「無理もないだろう。自分が計画した大プロジェクトを壊されかけて、あまつさえ姫嶋が殺されかけたんだ。合わせる顔がないと言って見舞いにも行けなかったようだ」


 そういえば煌梨は一度も来てない。てっきり忙しいんだろうとばかり思ってた。


「HuGFのメンバーも心底心配していたようだ。練習に来れず指示はメールのみ。事務所も病院に行かせようとしていた」

「そんなに……」

「そんな東山を立ち直らせてくれた。感謝するよ姫嶋」

「いえ! そんな、元はと言えば私が――」

「違うな、それを言うなら姫嶋を刺した犯人。それと共犯者だ」

「そういえば、犯人はあれからどうなったんですか?」


 まだ会社に行けてないしニュースも見てないから、宮根がどうなったかまだ知らない。


「警察に逮捕されたよ。殺人未遂と脅迫の罪でな」

「そうですか……」

「どうした? 同情の余地などないだろう」

「ああ、いえ。実はあの人、知り合いなんです」

「なんだと?」

「いや! 知り合いと言っても、知り合いの知り合いというか。私がお世話になってる会社と同じ建物にある会社の人なんです」

「なるほど、そういうことか。それなら多少気掛かりになるのも無理はないか。だが罪は罪だ。犯罪者には相応の罰が待っているよ」

「はい。それと共犯者については?」

「ああ、それなんだが……。少し妙でね」

「妙?」

「ワープを使える魔物がいたにはいたんだが、犯人の部屋に鎖で固定されていたそうだ」

「じゃあ、共犯者は無理やり?」

「そうなるな。しかも魔物のランクはCなのにコアが発見された」

「コアって、ランクB以上じゃないと存在しないんですよね?」

「そうだ。コアは魔物に複雑な動作や特殊な能力を与える。だからランクB以上は厄怪な魔物が多い。しかし今回の魔物はただ鎖で繫がれていただけだ」

「……ワープを強制的に発動させるためのコア。とか?」

「なるほど……。そうか、それならコアが必要だった理由も頷けるな」


 阿山さんは早速、内線電話で技術班にコアとワープ機能についての可能性を伝えた。

 山田さんならコアの意味もすぐ分かると思うけどな。


「ありがとう姫嶋。おかげで謎が解けそうだ」

「いえ、ちょっとそう思っただけです。ところで本部長、用件てなんですか?」

「ああ、忘れるところだったよ。ちょっとした口頭注意だ」

「注意?」

「今回の件、君が有栖川を救ったのは大変素晴らしい献身的な行動だ。が、しかし無謀とも言える」

「はい……」

「姫嶋。君は自覚が足りないようだ」

「自覚?」

「魔法少女の10キロメートルエリア担当は主力級エースと呼ばれるだけあって魔法少女の中でも選りすぐりの精鋭だ。毎年、多くても数人しか昇格しない。それだけ貴重な人材だということを肝に銘じておいて欲しい」

「はい。すみませんでした……」


 10キロメートルエリア担当は責任ある立場だ。もし俺が阿山さんの立場でも同じく「軽々な行動は取らないように」と注意するだろうな。

 

「――とまあ、ここまでが本部長としての口頭注意だ」

「え?」

「姫嶋が助けた有栖川彩希さんの妹、陽奈からの要望でな。魔法少女としての処罰なら自分が代わりに受けるから、注意に留めて欲しいと」

「陽奈さんが……」

「心配せずとも処罰などしない。どちらもな」

「良かった。ありがとうございます」

「ところで、これからどうするんだ?」

「これから?」

「姫嶋は今、世間的に重体で入院していることになっている。下手に自宅にいたりに出るわけにはいかないだろう」

「あー、そうですね。まあ一応当てはあるんで」


 全ての事情を知ってる紫に頼めばなんとかなるだろう。


 *   *   *


「うちは無理ですよ」


 ちょうど本部に来ていた紫に、しばらく匿ってもらえないかと相談すると即答で断られた。


「え?」

「私の祖母が勘の鋭い人でして、かえでさんの正体がバレかねません」

「そ、そんなにすごいの?」

「はい。魔法少女に変身してなくても魔物を察知できますし、詐欺には一度も引っ掛かったことはなく、勘の鋭さだけで株式投資で莫大な資産を築きました」

「な、なんだか本当にすごいね……」

「なので、かえでさんの正体はすぐ見抜くと思います」

「そっかー、……ん? でも廷々ていで家は衰退してるって言ってなかった?」

「ええ。株式投資の利益は全て祖母の個人資産なんです。廷々にも有栖川にも渡さんと仰っていて」

「そうなんだ……。さて、これからどうしようかな」

「ところで、三ツ矢女学院に行くんですよね?」

「うん。校長にも呼ばれてることだし」

「それなら寄宿舎がありますし、心配ないでしょう」

「寄宿舎?」

「知りませんか? 三ツ矢女学院には遠方から来る生徒のための寄宿舎があるんです。学校にも協力者がいるでしょうし、しばらく身を隠すには丁度いいでしょう」

「ああ、寮のことを寄宿舎っていうのか。それは良いアイデアだよ!」


 紫にアドバイスしてもらってからすぐに陽奈に連絡して事情を話すと、すんなり話は通った。


「助かったよ、ありがとう!」

「いえ」

「そうだ。お礼ってわけじゃないけど、ミニライブ見に来ない?」

「ミニライブ?」

「うん、煌梨がね」

「煌梨……?」

「ああ、東山煌梨。向こうが私のことをかえでって呼ぶから煌梨って呼べって」

「……そうですか」

「煌梨が姫嶋かえで復活のミニライブやるっていうからさ」

「いつですか?」

「2週間後って言ってたかな」

「2週間後……。せっかくですが、残念ながら用事がありまして」

「そっか、じゃあまた次の機会にね」

「はい」

 

 いよいよ学校かー、学校に行くなんて何年ぶりだ? しかも中学校でお嬢様学校か……。今さらだが大丈夫か?


 

 To be continued→

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