第140話 退院
「それじゃ、気をつけてね」
「はい。ありがとうございました」
生死の境を彷徨うような傷をキュアオールで治してもらい、枯渇した魔力も瞑想によって回復。無事退院することになった。
「そうだ、あなた主治医はいるの?」
「主治医ですか? いないと思いますけど」
「じゃあ、あたしが主治医になってもいい?」
「いいんですか?」
「うん。だって、かえでちゃん危なっかしくて」
「あはは……」
「連絡先LINEでいい?」
「はい。大丈夫です」
こんなこともあろうかと、魔法少女用のスマホは常時携帯している。
「これでよし。じゃ、がんばってね」
「はい!」
病院を後にして、まずは本部へ向かう。ステルスモードをオンにして飛ぶと、久しぶりの空が心地良い。
しかし病院からスクランブル交差点へはわりと近いため、空の散歩はすぐに終わってしまった。本部へアクセスすると、久しぶりに異世界が現れる。
「ここも久しぶりだなー」
建物に入ると、ショップのほうから「おーい!」と元気な声が聞こえた。
「あ、小夜さん!」
「元気してたー? って、入院してたんだっけ?」
「はい。ちょっと刺されちゃって」
「いや軽いな! はは、元気そうで良かったよ。今日はどうしたの?」
「本部長に呼ばれまして」
「阿山さんに? なんだろ?」
「なんかやらかしちゃったかな?」
「ははは! それはないでしょー、むしろ表彰されるんじゃない? 身を挺して有栖川彩希を助けたんでしょ?」
「ええ、まあ」
「すごいよねー、なかなかできないって」
「ありがとうございます」
「でも、気をつけたほうがいいよー」
「え?」
「かえでちゃんのその性格、いつか命取りになりかねないからさ」
変わらない笑顔だが、少しトーンを落として警告してるようだ。
「はい。気をつけます」
自分でも分かってる。どうやら魔法少女になってると身を挺して人を守るようになるらしい。
魔法少女になる前は体が勝手に動いて人を助けるなんてしたことなかった。それが変身中は死ぬ危険があっても体が勝手に動く。いつか殉職しそうだよな。
「そうだ。これ退院祝い」
「え!? Rドリンクをダースで!?」
「うん、あげる。さすがにキュアオールは無理だけどねー」
「いえそんな! ありがとうございます!」
Rドリンクはキュアオールほどじゃないが体力も魔力も回復してくれる。一つ1000ポイントと高価なものをダースで頂けるとは。
「それじゃ、これからもがんばってねー、応援してるから」
「はい、ありがとうございます!」
貰ったドリンクを魔法の杖のアイテム枠に収納して本部長のところへと向かう。
「なんだろうなー、まさか本当に表彰してくれるのかな?」
期待と不安が入り交じる中、ノックして部屋に入る。
「入ります。姫嶋かえでです」
「ああ、よく来たな。私の前に東山から話があるそうだ」
「東山さん?」
部屋の隅に控えていたらしい東山煌梨が俺の前に来きて深くお辞儀した。
「えっ、え? どうしたんですか!?」
「ごめんなさい!」
「なんでそんな」
「警備は万全、監視も十分にしてたつもりだった。どんなトラブルが起きても対処できる自信があった。それなのに姫嶋さんを守れなかった。最悪の事態にはならなかったとはいえ、今回のことは私の責任です。本当にごめんなさい!」
こんな東山は初めて見た。いつも自信に満ちて明るく元気でみんなを導くスター。まさにアイドルになるために生まれてきたような女の子だと思ってた。
「……顔を上げてください」
「……」
「私は東山さんのせいなんて思ってませんよ。話は聞きました。犯人はワープを使って直接乗り込んだんだろうって。そんなの誰にも予期できませんよ。それに東山さんの迅速な対応で私は助かりましたし」
「……それは私じゃないの」
「え?」
顔を上げた東山は暗い顔だった。
「救急車を呼んだのは卯月さんよ」
「卯月さん?」
「私も驚いたわ。あの人、普段はのんびりしてるでしょう? 私はあまりの衝撃にフリーズしちゃって、卯月さんが声を掛けてくれて、手配もしてくれたの」
あれ? 普段は響子って呼んでたよな……?
「え? でも有栖川陽奈さんからは東山さんが手配してくれたって聞いたんですけど」
「ああ、それは魔法少女に対応できる病院をあとで私が手配したってだけよ」
「そうだったんですか。でもライブ自体は成功したって聞きました」
「ええ。かえでさんが刺されて会場もメンバーも動揺しちゃって、でも卯月さんが動いてくれたのに私がボーっとしてるわけにはいかないでしょ? だから、かえでは大丈夫。命に別状はない。かえでにエールを送ろうって強引に盛り上げたの」
「良かったです」
「え?」
「私のせいでライブがぶち壊しになっちゃったら、犯人の思う壺でしたし、私も申し訳無さで病院から出れないところでした。卯月さんに助けてもらって、東山さんにライブを成功してもらって、本当に良かったです」
「姫嶋さん……」
「かえででいいですよ。それと、聞きましたよー、
「あれはね、前から用意はしてたの。あのライブでかえでさんの人気が最高潮に達したのが分かったから、今かなって」
「ふふ、さすがです」
「……なんだか元気づけて貰っちゃったわね」
「東山さんに暗い顔は似合いませんよ」
なんて、ちょっと臭かったか。ふふ、なんて笑い方したことないから不自然というか我ながらキモかったな。
「はぁー、そうね。ありがとう。それと私のことは煌梨でいいわよ、同い年なんだし」
「え? じゃ、じゃあ煌梨さんで」
「うーん、じゃあこうしましょう。私もかえでって呼ぶから、かえでも私のことは煌梨って呼んで。いい? あとタメ口でいいから」
「え!? えーと、あの……はい。煌梨?」
「これからまたよろしくね、かえで」
「うん。……これから?」
「ええ、ちょっとした話があってね。話の流れや雰囲気次第ではまた今度にしようかと思ってたけど、むしろやるっきゃないって感じね!」
あれー? もしかして余計に火をつけてしまったか?
東山……いや、煌梨が生き生きとしてる時はとんでもない企画を考えた時だからな……嫌な予感がする。
「あなたの学校。三ツ矢女学院で姫嶋かえで復活のミニライブよ!」
To be continued→
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