第139話 魔力暴走についての話

 小山内が暴走した翌日、明日退院していいと竹田女医から許可が出た。


「やっと帰れるー!」


 すっかり人形に任せっきりでこっそり溜め込んでる仕事をさっさと終わらせなければ。


「さあ、忙しくなるぞ!」

「随分と楽しそうだなブラック企業戦士のくせに」

「うわぁっ!?」


 突然現れたぷに助にびっくりして尻餅をついてしまった。


「なんだぷに助かよ! 脅かすなよもう。いつからそこにいたんだ」

「スレイプニルだ。今来たところだ」

「なんの用だ?」

「まったく、昨日助けてやったというのに礼も言えんのか」

「え? あ、ああそういえば。サンキューな、まさか本当に来てくれるとは思わなかったよ」

「お前のことは緊急事態に備えて常にモニターしているからな」

「え……」

「ふん、安心しろ。プライバシーまでは覗かんし記錄もされん。お前の器をモニターしているだけだ」

「それならいいけど。器ってそんなに色んな情報分かるのか?」

「魔法少女の核、心臓とも言える器は情報の塊だ。あくまで魔法少女としての情報に限るが、今どこで何をしているのかはモニターすれば一目瞭然だ」

「それって魔法少女全員をみてるのか?」

「アホめ。そんな無駄なことできるか! 普通は監視要請があってからモニターされる。お前の場合は特殊な存在だからな、少しでも多くの情報が欲しいため常時モニターされているのだ」

「そうなのか。でも本当、おかげで助かったよ」

「まったく、お前はトラブルメーカーだな。大人しく入院してることもできんのか」

「いやいや大人しく入院してたって。小山内さんの暴走はたまたまだろ?」

「本当にそう思うのか?」


 真面目な顔をするぷに助は、なんか妙に威圧感あるんだよな……。ぬいぐるみのくせに。


「な、なんだよ。私のせいだって言いたいのか?」

「お前のせい。とまでは言わないが、限りなく近いことには違いない」

「どういうことだよ」

「魔力暴走の原因は一つではない。強力な魔法を使おうとして制御できず暴走したり、なんらかの原因で器から魔力が漏れたり」

「え? ちょっと待て。器から魔力が漏れたらローレスになるんじゃないのか?」

「ふん。かえでのくせに鋭いじゃないか。確かに魔力が漏れたらローレスになる。しかしそれは場合だ」

「え? 漏れたら汚染されるわけじゃないのか?」

「漏れたからといって、イコール汚染されるわけではない。というのも魂にはバリアがあるからだ」

「バリア? 魂にか?」

「そうだ。魂はガラスや飴細工よりももっと繊細なモノだ。世界一デリケートな存在と言ってもいい。そのため、生きとし生けるもの全ての魂はバリアによって守られている。といっても薄い膜のようなものだがな」

「つまり、漏れた魔力がそのバリアを貫通したらローレスになるのか」

「それは半分合っているな」

「半分?」

「確かに魔力がバリアを貫通することはある。魔力漏れに気づかず長年放置されるとジワジワと浸透してバリアを抜けてしまうのだ」

「長年って?」

「さあな。1年か5年か、それは個人差としか言いようがない」


 新島の魔力は数年前から漏れてた可能性もあるのか。もっと早くそれが分かっていれば……。


「お前の考えていることは分かる。だがそれは天界にもどうしようもないことだ。魔法少女すら全員を監視できないのに、スカウト漏れや魔法少女になれなかった器の監視までやっていたら天界のリソースはあっという間にパンクしてしまうからな」

「そうだな、それはよく分かるよ」

「話を戻すぞ。魂が汚染されていなくとも、魔力が溢れた状態というのは体に大きな負担が掛かる。魔法少女契約を結んでない場合、それは体調に現れる。イライラしたり暴力的になったりといった具合にな」

「それって、中高生の反抗期みたいな?」

「うむ。その年頃は制御できない魔力が器の外に溢れることが多いのだ」

「てことは、魔法少女契約した女の子は反抗的にならない?」

「一概にそうとは言えんが、魔力漏洩による不調は無くなるな」

「そうなのか。それで、魔法少女の器から魔力が溢れたら暴走になるのか?」

「それも一概にそうとは言えん。多少漏れた程度ではほとんど影響は無いからな。大きな原因は2つ」


 ビシッと小さな手のさらに小さな指を2本立てる。ていうか指あったんだな。


「一つはなんらかの原因で魔力が大量に漏れた場合。器にヒビが入ったり壊れたりなどだな。それともう一つ、魔力の制御不能状態。これが今回の暴走の原因だ。毒により衰弱した魔法少女に魔力の制御は難しい。病院側でもサポートはしていたが……。そこにお前が来た」

「だからなんで私が?」

「魔力というのは、強い器が近くにあると共鳴することがある」

「共鳴?」

「強い器が近くにあると、いつもより力が出せるなどといった影響を受けることがある。それが共鳴だ。だがそれは魔法少女がちゃんと魔力を制御できている状態での話なのだ。不安定で制御が難しい状態での共鳴は逆に暴走を促してしまうのだ」

「マジかよ……」

「とはいえだ」

「え?」

「故意ではないことは分かっている。それに結果的に小山内を助け、ピュアラファイの可能性についても興味深いものがある。今回の騒動に関しては不問だそうだ」

「よかったー」

「それどころか高く評価している」

「ぷに助が?」

「スレイプニルだ。私ではなく上司がだ」

「へー」


 天界に認められたっていうことか。


「でも50キロメートルエリア担当になるには厳しい条件あったよな? 天界からの評価って関係あるのか?」

「確かにあまり関係はないが、完全にないとは言い切れん」

「なんだよ歯切れ悪いな……」

「天界からの評価で50キロメートルエリアに昇格できるなら、天界に胡麻をする輩が出かねん。ということだ」

「あー、なるほど」

「さて、では本題の用件を伝える」

「え? なにか用事だったのか?」

「当たり前だ! 用事もなくお前のところに来るほど暇じゃない!」

「分かったよ……で?」

「お前は今、三ツ矢女学院の生徒ということになっている。それは覚えてるな?」

「ああ」

「そこの理事長からお前に任務の要請があった」

「理事長から?」

「そうだ。至急学校へ行け」

「まあ、校長から来いって言われてるし、行こうとは思ってたけど」

「そうか。なら明日行け」

「はあ!? ちょっと待て、本業があるんだぞ!」

「魔法少女の仕事が最優先に決まっておるだろう! しかも三ツ矢女学院の理事長から指名での要請だ! 言っておくが、三ツ矢女学院は魔法少女だけでなくにも絶大な影響力を持つ。あくまで例えばだが、お前の仕事を今すぐ無くすこともできる。それくらいの相手だと思え!」

「ぐっ……脅す気か」

「あくまで例えばの話だ。機嫌を損ねて得はない」


 確かに学校へ行こうとは思っていた。でもそれは本業が落ち着いてからだ。3週間以内と言っていたし、2週間くらいは本業に精を出す予定だったのに……。


「じゃあ引き続き本業に人形使っていいんだな?」

「もちろんだ。致し方のないことだ」

「それと、人形だけじゃ無理な仕事がある。ほんの少しでいい、抜け出して本業させてくれないか?」

「善処しよう」

「それってやんわり断ってるやつだろ……」

「理事長はお前の正体を知る一人だ。なんとかしてくれるはずだ」

「そっか……」


 仕方ない。理事長とぷに助を信じて学校へ行くか。

 

 ――その学校で大変なことになるとは、今の俺には知る由もなかった。



 To be continued→

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