第138話 暴走

「竹田! これを使え!」


 ぷに助から渡された瓶を女医――竹田が受け取る。


「キュアオール! どうして!?」

「いいから早くそいつを治してやれ!」

「あ、はい!」


 キュアオールによって体が全快するのが分かる。刺された――というより手を突っ込まれた――脇腹も見事に完治。


「ほれっ! ついでにこれも受け取れ!」

「魔法の杖! サンキュー!」

「……で? あやつはなんなのだ?」

「先の大戦で魔法毒を受けて治療中の魔法少女だそうだ」

小山内おさない空羽あきはか! 随分と容貌が変わってしまったなぁ」

「なんだか分からないけど、急に起きて竹田さんを襲ったんだ」

「急に? なんの前触れもなくか?」

「あ、いや。前触れかは分からないけど、地震のような揺れはあったな」

「地震のような……魔力暴走か!」

「魔力暴走? これが!?」

「うむ」


 聞いたことはあったが初めて見た。これが話に聞いた魔力暴走? なんだかイメージとは違う気がするが。


「魔力暴走って、なんかこう制御できずに無差別攻撃するみたいなイメージだったんだけど」

「魔法少女それぞれに暴走の仕方は異なるのだ。――来るぞ!」

「ぐぁァ!!」


 獣のように襲いかかる小山内をピュアラファイで迎撃しようとするが、獣のような素早い動きに照準が合わない。


「くっ!」


 暴走した小山内は俺が避けた隙に部屋を出ようとする。


「しまった!」


 外に出られたらマズい! と思ったらドアを破れず困惑している。


「なんで?」

「ここには魔物侵入防止のための結界があるのよ。今はそれが小山内さんに働いたようね」


 ということは、暴走状態の魔法少女は魔物扱いなのか?

 なんにせよ、これはチャンスだ。今のうちにピュアラファイで制圧しよう。


「ピュアラファイ!」


 クイックドロウの腕は鈍ってないようだ。見事に直撃した。


「いかん、かえで! 魔法少女に浄化魔法ピュアラファイは効かないぞ!」

「えっ、マジで!?」


 どうすればいいんだ? 俺はまだピュアラファイしか使えないぞ!?


「ぐぅルルル……」

「ねぇ、あの子……落ち着いてない?」

「え?」


 言われてみると、なんだか勢いが弱まっている。


「どういうことだ?」


 ぷに助もチンプンカンプンといった顔だった。どうやら見たことのないケースのようだ。


「とりあえずもう一発撃ってみるか?」

「うーむ。できれば他の魔法少女にやってもらいたいところだが……」

「そうも言ってられないだろ」

「うむ。検証は後だ! 撃てかえで!」

「よーし」


 もう一発ピュアラファイを撃つと、「ぎゃん!」と悲鳴を上げて吹き飛び倒れた。


「大丈夫!?」

「ああ、心配ない。気を失っただけだ」

「良かった……」

「しかしどういうことだ?」

「なにが?」

「ピュアラファイが効いたことでしょう?」

「そうだ。魔法少女には効かないはずなのだが……」

「毒に効いたんじゃないかな?」

「なに?」

「いやほら、小山内さんは魔物の毒にやられて集中治療室? に居たわけだよね? ピュアラファイの魔物を浄化する力が毒を浄化したってことは考えられないのかなって」

「ピュアラファイが……毒を浄化だと?」


 信じられないといった顔のぷに助だが、竹田は「なるほどね」と呟く。


「それはあり得るかも知れないわ。ピュアラファイだってその原理が完全に解明されたわけじゃないもの」

「え? そうなんですか?」

「ええ。ピュアラファイは天界に昔からある魔法なんだけど、『ぶっちゃけ原理はよく分からないけど魔物を浄化できる魔法』として魔法少女の基本魔法になってるの」

「随分といい加減なんですね……。ぷに助、そこんとこどうなんだ?」

「ぷに助?」

「このぬいぐるみの愛称です」

「へー、ぷに助ね」


 ニヤニヤする竹田にぷに助は「スレイプニルだ!」と強く否定する。

 

「いいじゃない。可愛いわよ」

「それで、どうなんだ? ぷに助」

「スレイプニルだっ! ……まあ、お前たち二人には話しても大丈夫だろう。竹田の言うようにピュアラファイはその仕組みの4割がまだ解明されていないオールドタイプの魔法なのだ」

「オールドタイプって、以前に試験で歩夢が使ってたやつみたいな?」

「ああ。古の魔法だ。その多くが原理不明で、実はピュアラファイもその一種だ」

「そこまでは私も知らなかったわ。でも今回のことでピュアラファイは毒ダメージも浄化できると分かれば、戦いもかなり変わるし研究も捗るわよ」

「いや、まだ早計だろう。まだ検証が必要だ。このことは天界の一部技術者に伝えておく」

「分かった。ところで」


 チラッと小山内のほうを見遣る。


「小山内さん、着替えさせたほうが良くない?」

「え? あら大変! すぐ着替え持ってくるわね」


 さっきの暴走で病衣がボロボロになり、あられもない姿になっていた。それを見た竹田女医は急いで服を取りに戻って行った。


「お前、あんな子供の半裸姿もだめなのか」

「ぷに助、その発言は色々と問題があるぞ」

「スレイプニルだ。……さっきの毒浄化、本当にピュアラファイのものだと思うか?」

「さあな。そう思っただけだ」

「まあいい。これで小山内が回復したらお手柄だ。50キロメートルエリア担当にも近づくぞ」

「こういうのも評価されるのか? べつにいいよ。10キロメートルエリア担当今のままでも大変なんだし、本業があるんだ」

「なんだ、そんなことか。50キロメートルエリア担当になれば負担は減るぞ」

「え? だってメイプルから中間管理職みたいなものだって聞いたぞ」

「まあそれは間違ってないが、一番忙しいのが10キロメートルエリア担当だ。次いで100キロメートルエリア担当だな。50キロメートルエリア担当は主に100キロメートルエリアのサポートと――」

「……よし」

「ぬ?」

「決めたあああ!! 私は50キロメートルエリア担当を目指すッ!!」



 To be continued→

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