第136話 祭り
『ホントびっくりしました! 一瞬なにがなんだか分からなくて……』
『いきなり男の人がステージに上がって、死ねー!! って、すごい悲鳴でした。わたしも叫んじゃった!』
『そしたら、かえでちゃんが飛び出して彩希ちゃんを守ったんです!』
『かえでちゃんが刺された瞬間が大きいディスプレイにも映って……すぐ消されちゃったんだけど、もう刺されたってみんな分かっちゃって、会場が凍りついちゃって……』
『かえでちゃんのライブまた見たいので、無事でいて欲しいです』
それどころか、いつの間にかアップされた姫嶋かえでのデビューシングルのMVは再生回数300万を突破していた。
「こんなものいつの間に……誰が上げたんだ?」
「公式ですよ」
「え?」
……本当だ。よく見たら事務所公式チャンネルの動画だった。たぶん、東山の仕業かな? この勢いに乗らない手はないっていう。
ちなみにMVは撮影してないから姫嶋かえでのイメージイラストだ。今の時代はこれでも十分らしい。
「SNSでも大いにバズってますね」
「……トレンド独占かよ」
「それだけセンセーショナルな出来事でしたし、姫嶋かえでというキャラクターの人気が高いということでしょう」
「キャラクターか……」
言い得て妙。というか、まさにその通りだ。彗星の如く現れた新人アイドルとして、姫嶋かえでは今や多くの人に認知されるキャラクターだ。
形としてはだいぶ変わってしまったが、結局のところ東山の思い描くシナリオ通りになったわけだ。――いや、事件を利用してそれ以上の成果か。
「でもやっぱり、他人事な感覚は変わらないなぁ」
「他人事ですか?」
「うん。確かにドーム会場の熱気は凄かったし楽しかった。でもそれは
最近は魔法少女に慣れてきたとはいえ、どこまで行っても俺は俺。姫嶋かえでは別人格のようなものだ。
「では、歌は聴けませんか?」
「え? ああ、歌は全然いいよ。退院したら誰もいない訓練棟ででも」
「ありがとうございます。楽しみにしておきますね」
一応ボイトレしたほうが良いよな。また東山に頼んでみるか。
「あ、歩夢!?」
「大丈夫!? 痛いとこない? 息してる!?」
「だ、大丈夫だよ。息してるから……」
俺があたふたしている様子を少し離れたところから見ている紫は、なんだかニヤニヤしていた。
「もうー、ほんっっっとにビックリしたんだから!」
「あはは、ごめんね」
「本当に大丈夫? 刺されたって聞いたけど」
「ああ、それはキュアオールで治してもらったみたい。それよりも魔力が無くて、今は瞑想で回復中」
「瞑想で? 自然回復できないってこと?」
「うん。原因はまだ不明だけど、魔力が完全に空っぽになっちゃったらしくて」
「ええー!? それって
「うん、ありがとう」
魔力が空っぽになった件については、歩夢には悪いが秘密にしておく。まだ憶測の域を出ない話で余計な心配を掛けたくない。
紫と約束した。歩夢の笑顔を絶対に守り抜くって。俺にとっては騙してることに対する罪滅ぼしの意味合いが強いが、俺のエゴだとしても守って行きたい。
「そうだ、かえで知ってる? 有名人になってるよ」
「みたいだね……さっき紫から聞いた」
「掲示板も見た?」
「掲示板?」
「ネットのだよ。BBSってやつ。……ほら」
見せてくれたスマホには、日本で最大級の某掲示板のとあるスレッドが表示されていた。
619 [名無しのアイドル] [sage]
かえでちゃんマジ天使
620 (1) [名無しのアイドル] [sage]
かえでちゃんは僕の天使
621 [名無しのアイドル] [sage]
かえでちゃん今入院しとるんやろ?大丈夫かな……。
はよ回復してライブツアーして欲しいわ
622 [名無しのアイドル] [sage]
胸刺されたんだろ?意識不明の重体とか聞いたしライブ無理じゃね?
623 [名無しのアイドル] [sage]
かえでちゃんは伝説になったんだ
624 [名無しのアイドル] [sage]
>>620
許さねえからな宮根
625 (1) [名無しのアイドル] [sage]
オリオン毎日聞いてる。可愛すぎて尊死ぬ
626 [名無しのアイドル] [sage]
オリオンは今年のレコ大新人賞狙える
627 [名無しのアイドル] [sage]
宮根は人類の敵
628 [名無しのアイドル] [sage]
>>625
分かる。マリアナ海溝より分かりみ深い
629 [名無しのアイドル] [sage]
かえでちゃんに早く会いたい
「どう? すごいでしょ」
SNSが目立っていて気づかなかったが、掲示板の盛り上がりも確かに凄い。流れが速すぎて全部のレスは拾えそうにない。もはや
今見てるスレッドはすでに13スレ目を終えようとしていて、他の関連スレもリアルタイムで増えている。
「これみんな……私のことを……?」
「うん。中には批判的なレスもあるけどね、ほとんどがかえでのファンだよ」
本当に色んな人が……多くの人が姫嶋かえでの復活を切望しているんだな。
東山はずっと言っていた。アイドルの素質がある。必ず成功する――と。
事件による宣伝効果は完全に想定外だろうが……姫嶋かえでがこんなにも人気になるビジョンが、東山には最初から見えていたということなのか。
「ん? そういえば私って世間的には重体なんだよね。これからどうすればいいんだろ? 魔法少女の仕事に復帰してもいいのかな?」
「そうそう、そのことで用件思い出した」
「用件?」
「うん、本部長から。退院したら本部に来てってさ」
「本部長って……歩夢の師匠の?」
「そ。阿山さんのとこ」
そういえば本部長とはまだちゃんと会ったことないな。ちょうどいい機会だし、退院したら会いに行くか。
To be continued→
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