第131話 墜落

 東山に許可を貰った俺はすぐに上空へと飛んだ。


「なんだこりゃ?」


 ドーム会場を中心に周囲に光の壁ができていた。それも地面から空まで空間を丸ごと遮断する巨大な結界のようだ。


「お待たせ!」

「ライブは成功ですか?」

「え? ああ、今のところはね」

「そうですか、私も見たかったです」

「紫ってこういうの興味あるんだ?」

「少しは。それにかえでさんの歌を聴いてみたかったので」

「そうなの? 歌ならいつでもいいよ」

「……いいんですか?」

「もちろん」

「ありがとうございます」

「それで、私はどうすればいい?」

「現在、防陣で魔物の侵攻を食い止めながら対応してますが、かえでさんと東山さんの魔力に引き寄せられる魔物の数が想定より多くて厳しくなってますので、私がフーノルザットを封じる間に魔物の殲滅をお願いします」

「私も原因なのか……おっけー!」


 魔法の杖を構えて拡散術式をセットし、魔力を充填する。


「後方支援、行きまーす!」


 紫が俺の参戦を伝えてくれてたようで、全員が一斉に離れた。


「ピュアラファイ!」


 十分に魔力が乗った魔法ピュアラファイが全ての魔物に直撃する。


「こんなもんかな?」


 魔法耐性がありそうな魔物は二体ほど残ったが、あとは一掃できた。


「他の湧いてくるやつも片付けておくか」


 結界に近づいてくる魔物を片っ端から狙撃していく。

 しかしまさか東山だけじゃなく俺の魔力が魔物を引き寄せていたとはな……。魔力封じみたいなアイテム作ってもらおうかな。

 数体片付けると、今度は大きな魔力反応が近づいてくる。


「おいおい……なんだあれ?」


 デカい十字架みたいな魔物がこっちにやって来る。わりと豪華に装飾されてるが、意味あるのかあれ?


「アナライズ」

 

【トラクトノス】

 大型ランクA

 頑丈な鎖と魔力による砲撃が主な武器。十字架のような本体も非常に頑丈であり魔法耐性がそこまで高くないにも関わらず魔法攻撃の効き目は弱い。


「魔法攻撃が効きづらいか」


 そういえば、まだ本当の全力ってやつ出せてないんだよな。ここは民家も無いし、丁度いいから試してみるか。

 魔法の杖を構えて魔力を目一杯注ぎ込む。思いっきり撃つと収束が難しいから周りに避難を呼び掛けて弾道を確保する。


「よし、やってみるか!」


 撃った瞬間、今までにない反動で体が持って行かれそうになった。馬鹿デカい白銀の魔法ピュアラファイがトラクトノスに直撃する。


「メイプル、どんな感じだ?」

『破壊には至ってませんが、押してます』

「マジか……ちょっとは響くと思ったんだけどなー」


 自分史上最大の火力でも、この魔物を浄化するには足りないのか。どんだけ硬いんだよ。それとも花織さんならやれるのかな?


「大丈夫ですか!?」


 近くの魔法少女が心配そうに訊ねる。


「え? 大丈夫だよ?」

「いえその、……あまりに巨大な魔力なので、底を尽きないかと思いまして」


 あー、なるほど。その心配か。


「ありがとう、私は大丈夫だよ。それより――」


 他の魔物をお願いしようと思ったその時、ジャラジャラという金属音がして魔法ピュアラファイの外側から鎖が2本飛んできた。


「うわっ!?」


 このままじゃ回避できない。仕方なく魔法ピュアラファイを止めようと思ったらガキィン! と金属音がして鎖が弾かれた。


「姫嶋さん! 魔法に集中しててください! 攻撃はあたしたちが止めますから!」


 3人ほど魔法少女が集まって鎖やら砲撃やらを全て食い止めてくれた。


「こんなに応援されちゃ、やるっきゃないよな!」


 とはいえ今のところはこれが限界だ。これ以上どうすれば……。


「そうだ、拡散も同時に使えないか?」

『術式の併用でしたら可能ですが……』

「なにか問題が?」

『これ以上の負荷に魔法の杖が耐えられない可能性があります』

「なーに、大丈夫だろ。そこは天界の技術を信じよう」


 全力の魔法ピュアラファイにさらに術式を走らせ拡散を加える。


「おおおおお!?」


 さすがに出力が大きすぎるのか、反動がさらに1段階強くなり、魔法の杖がカタカタと震える。


「グヌルォォォォッッ!!」

「なんだっ!?」


 何事かと思ったらトラクトノスの悲鳴だった。無茶した甲斐あってか本体にヒビが入ったらしい。


「うおおおおおおおお!!!」


 そのままゴリ押しでトラクトノスを撃ち抜いた。あまりの過負荷に翼がバサバサと杖を冷却する。


《魔物を浄化、コアを回収しました。2000MPがチャージされます》


「2000!?」


 こんなに貰っていいのか? しかもコアまで……。


「すごいです! 姫嶋さん!」

「皆の援護のお陰だよ、ありがとう」


 実際、あの鎖攻撃とか防げなかったら逆にやられてた可能性のほうが高かった。本当に感謝しかない。

 戦闘が終わり、紫の方を見るとなにやら複雑な術式が展開されていた。あれも廷々ていで家の術式なのか?


「――縛陣・佰式はくしき


 術式が一気に下へと降りて行く。


「……捕らえました」

「え? 術式で捕まえたってこと?」

「はい。佰式は魔物を拘束、無力化する束縛系の術式です。ミニ結界だと思っていただければ」


 術式で結界なんて作れるのか……。いや、そういえばH公園の謎空間も確か大量の術式があったって聞いたな。もしかして結界には術式が必須なのか?


「このまま無力化します」

「よし、これで終われ――」


 ――ドクンッ!


「くぁっ……!?」

「……かえでさん?」


 胸が苦しい……痛い……!?

 なにがなんだか分からないままに魔力が使えなくなって落下する。


「メイ……プル……」


 声も出なくなってきた。このまま地面に墜落死か? くそ、HuGFのライブ会場近くで女の子の死体とか洒落にならねーぞ!

 力を振り絞って魔法の杖のボタンを連打――


「あああああああッ!!?」


 連打しようとすると激痛が走った。これじゃあぷに助も呼べない。「かえでさーん!」と呼ぶ声が微かに聞こえるが、いくら紫でも間に合わないだろう。


「……万事休すか」


 痛みも感じないまま、俺の意識は途切れた――。



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