第129話 歌姫の機転

 激しいエレキギターのイントロが流れる。東山の得意ナンバーであり推理ドラマのテーマソング『アリア・ロジック』だ。


《完全無欠の名探偵、僅かな痕跡も見逃さない

 迷宮入りなんてnothing!

 電光石火でcase closed!

 光と闇の背中合わせ

 ツギハギのトリック盲点を突いて

 今ここで証明しよう


 とことんまで追い込む狂気のロジックで

 灰色の脳みそが火花を散らす

 虚構と矛盾その鍍金メッキを推理で剥がして

 追い詰めて行く地の果てまで

 犯人はお前だ》


 ロックな曲が本当によく似合うと、歌ってる東山を見て思う。

 実は俺も前回のライブでこれを聴いて気に入ったのでスマホで購入してほぼ毎日聴いている。しかしこうしてステージで見ると全く違う曲に聞こえるから不思議だ。


海内かいだい無双の名探偵、些細な違和感も見逃さない

 解けない謎なんてnothing!

 未解決事件もcase closed!

 紙一重の殺意と憎しみ

 鉄壁のアリバイを切り崩して

 今ここで解き明かそう


 とことんまで追い込む狂気のロジックで

 灰色の脳みそが火花を散らす

 偽りの事実から真実の糸を手繰り寄せて

 決して闇の中へは逃さない

 犯人はお前だ》


 犯人はお前だ。のフレーズでパーン! とキャノン砲から銀テープなどが発射される。開幕2曲目なのにもうクライマックスかのような盛り上がりだ。


「ありがとうー!!」


 一旦MCに入ったタイミングで俺はセンサー全開で魔物の動向を探る。10メートルと離れていない現場でフーノルザットを探れるのは俺だけだ。なんとしても早急に見つけ出さなければ。

 ……しかしやはり反応は無い。これだけの盛り上がり、メンバー全員絶好調で無反応なんて悟りを開いた僧侶かよ。


〈どうやら長期戦になりそうだな、メイプル〉

〈はい。私も目を光らせていますが、なかなか尻尾を出しませんね〉

〈例の準備は?〉

〈できています。合図して下さればいつでも〉

〈分かった〉


 このままトラブル無く、宿主が特定されて浄化して終わり。となればいいんだが……。


「――次も行けるー!?」


 次の曲へと東山が煽る。


「まだまだ行けるよねー!?」


 会場が再び「「うおおおおおおお!!!」」と吼えると、ヒット曲『roll up!』のイントロが流れる。

 急遽参加することになり必死に覚えた振り付けを夢中で披露する。夢の中でも練習するくらい『roll up!』漬けの日々だったが、それでも不安だった。

 上手くやれてるかは分からないが、なんとか致命的な失敗はしてないはずだ。このまま――


「えっ――!?」

「なになに!?」


 最後まで行けるんじゃないかと思った瞬間、マイクかスピーカーが不調になったらしく会場から音が消えて照明も消える。


「来やがったか! メイプル!」


 小声で呼び掛けると、「マグネット・リンクを開始します」と脳内に声が響く。

 視界にいくつかのディスプレイが現れると、そこには壊されたプログラムコードが表示されていた。


「読み通りだな!」


 作業を始めると同時に東山に「東山さん、私が復旧させますから少し待ってて下さい」と魔法通信で伝える。


〈できるの?〉

〈任せてください!〉

〈……分かった。でも時間は長く取れないわよ〉

〈3分あれば行けます〉

〈頼もしいわね、繋ぎは任せて〉


 繋ぎ? と思うと、誰かが俺の横を歩いて行く。通り過ぎるさいに「私に任せて」と響子の声が小さく聞こえた。

 響子はステージ前辺りに立つと、アカペラで歌い始めた。ファンのライトセーバーとスマホの光だけの空間に歌姫が浮かび上がる。


「よし、これで気兼ねなくやれる!」


 魔法の杖を通してドーム会場ここのシステムにハッキングし、システムを直接メンテナンスする。幸いこういったプロジェクトにも参加したことがあるから勝手は分かる。

 照明と音声、電気関係のプログラムは予めメイプルが洗い出してくれた上にコードを複写しておいてくれたから、作業は一気に短縮された。


「ここと……ここか? 念の為に電源供給も頼む」

〈分かりました〉


 全てのプログラムを正常に書き直してチェックする。


「……よし、OKだ!」


 東山を経由してスタッフに復旧してくれと伝えると、照明がステージを照らす。音声も復活して響子の歌声がドームに満ちる。すると次の瞬間、響子の歌う曲が流れた。

 スタッフは粋な計らいをしてくれたようだ。バックバンドとも話を合わせてくれたのだろう、なんの違和感も無くスムーズに響子は歌い切った。


「ごめんね、機材トラブルで照明と音声が止まっちゃってたみたい」


 響子は機材トラブルとして説明してくれた。しかしファンは機転を利かせてくれたと思ってくれたんだろう、盛大な拍手がドームに響く。

 東山が俺の側に来ると「すごいじゃない、本当にかえでさんがやってくれたの?」と小声で話す。


「はい。一応準備はしてたんです。フーノルザットがプログラムを弄れるって聞いてたので」

「プログラムを直しちゃったの?」

「一応プログラム勉強してるので」

「へぇ……。ありがとう、助かったわ」


 東山はそのままステージ前へと行くと、「さーて! 仕切り直して行くわよー! 皆ー! 盛り上がろうねー!」とライブを再始動させた。



To be continued→

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