第128話 認められた二人

《この時をどれほど待っていたんだろう

 カラフルに花咲き誇るハピネス》


 な、なんとか歌い切った! 振り付けは大丈夫だったのか? ちゃんとやれたか!?

 次の瞬間、ドーム会場が揺れるくらいの歓声と拍手に包まれた。脳汁がドバドバ出て体の芯がゾクゾクする。これがトップアイドルの世界か……!


「皆あなたを見てるわよ、かえでさん」


 東山が小声で囁く。55,000人もの観客が姫嶋かえでを見ている? 現実かこれ……?


「みんなー! ハピネスundグッドフォーチュンのライブにようこそー! 今日は一日楽しんで行こうね!!」


 東山がMCを始めると、再び会場が揺れる。


「「うおおおおおおおおおっ!!!!」」


 ははは、ヤバいなこれ。最近は東山と接する機会が多かったから東山という人間を少しは分かったつもりだったが……。ステージに立つ東山は別人だ。まるで世界が違う。

 魔法少女になってなかったら一生見ることのなかった景色、世界。これほど役得なことがあろうとは……。


「皆、気になってるよね? 見たことない子がいるよね?」


 さて、ここが最大の関門だ。新人アイドルとして紹介された時の反応次第でライブの成功が決まると言っても過言じゃない。俺のせいで失敗することもあるんだ。頼むぞ……!


「紹介するね、今日サプライズでライブ限定コラボすることになった、新人アイドルの姫嶋かえでさんです!」

「えーと……姫嶋かえでです。突然の登場で驚かれたと思いますが、本日精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!」


 しまった……挨拶は任されていたとはいえ、これじゃサラリーマンの挨拶だ。

 恐る恐る顔を上げると、「可愛いー!」「かえでちゃーん!」「歌良かったよー!」と思った以上の反応が返ってきた。

 俺だけじゃなく他のメンバーも一抹の不安を感じていた中、東山だけは絶対に成功する。こうなると予見していた。どうやら東山のプロデューサーとしての実力は本物のようだ。


「……っ! ありがとうございます!!」


 こんなに努力が報われる瞬間を、俺は人生で味わったことが無かった。もちろん大半は東山やメンバーと事務所などの力のおかげではある。

 それでも本業と魔法少女の仕事をこなしながら合間を縫ってレッスン……というデスマーチ並の過酷な日々を思うと涙が出そうになる。


「さあ、次行くわよ!」


*   *   *


「佐藤さん、まゆずみさんの援護をお願いします」


 ライブが始まった頃、ゆかりは大忙しで指示を出していた。

 技術班が魔法少女モードじゃない時も魔法の杖からのデータで魔力状態が分かるシステムを開発してくれたおかげで、煌梨の魔力がかなり高まっていることが分かる。

 魔力が高まるということは、それだけ魔物を引き寄せやすい。――そして、計算外の要因が一つ。


「かえでさんの魔力がこれほどとは……」


 紫は楓人の器が高位ハイランクであることは確信を持っていた。しかし魔力量については想像の遥か上を行く。

 ライブで盛り上がり魔力が高まるのは同じでも、煌梨と違って楓人は魔法少女モードのまま。高まった魔力が抑えきれず漏れ出してしまっている。それに気づいているのは紫だけだった。

 その漏れ出した強い魔力に惹かれて集まる魔物の数も質も、煌梨のそれとは比較にならないレベルである。


――このままじゃ不味い。

 現在10キロメートルエリア担当が7人、5キロメートルエリア担当が5人。5キロメートルエリア担当は単独戦闘が厳しくなってきて、ほぼ全員が10キロメートルエリア担当のサポートに回っている状態。

 つまり、全方位からの魔物の襲来に対して実質7人で対応しなければいけない。


 最悪、紫が戦闘に加われば一時的に戦力は増すが、司令塔がいなくなると現場が混乱してしまい、魔物を逃して民間人に被害が出る恐れがある。

 紫の魔法少女としての力が試されていた。


「……皆さん、一度下がってください」


 そう指示すると、全員が「了解」と言ってスッと下がった。面識の無い、しかも戦闘中の全員が素直に指示を聞くのは通常考えられないことだった。

 紫にとって不思議に映ったこの光景。実は全員が技能試験での紫を見ていて、その姿に感銘を受けた者たちである。そのため紫のピンチに真っ先に駆けつけ指示に全面的に従っていた。

 それを知らない紫は少し驚きつつ、これなら行けると確信をもって作戦を展開する。


「――防陣・玄武」


 紫の周囲、空中に術式が幾重にも走ると大きく外側へと広がり、ドーム会場の半径100メートルほどを地面から天まで囲う巨大な結界が現れた。


「これが防陣……」

「すげぇ……」


 応援の魔法少女からは思わず声が漏れる。この魔力と技術は明らかに高位ハイランクのそれだった。


〈皆さん、この結界は魔物を通しませんが魔法少女の移動、及び攻撃は素通りします〉


 その言葉に魔法少女たちは「マジで?」「本当に?」と、流石に信じられない様子だった。


〈ライブが終わるまで3時間弱。私も全力でサポートしますので、全て浄化しましょう〉


 紫が静かにげきを飛ばすと、全員が「「はい!!」」と気合いを入れたのだった。



To be continued→

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