第127話 ライブにようこそ!
「すっごいね!」
新島はまるでこれから登山するかのようにドームを見上げる。突き抜けるような青空に「絶好のライブ
「ライブ日和っていっても、会場に入れば関係無いけどな」
佐々木は皮肉っぽく言うが、新島は興奮していて聞いてないようだった。
「お前は本当にガキだよなぁ」
呆れるようにため息をつく。すると新島は急に動きを止めた。
「やっと落ち着いたか?」
「ねぇ、なんだろ……あれ」
「あれ?」
「あれよ、あの空にある人影みたいなの」
「はぁ? 人影なんてどこにあるんだよ」
「あそこよ! ほら!」
「……どこにもそんなの無いって。大丈夫か? 暑さにやられたか?」
ドーム会場は空調設備が整っているため問題ないが、今日は猛暑日。入場を待つ間は熱中症対策をする必要がある。
新島も当然対策はしているため熱中症ではなく、
「そうかなぁ……」
絶対に見えてる。新島はそう思いながらも他の人に「ねぇ! あれ見えるよね!?」と訊くわけにもいかず、渋々諦めたのだった。
そして、もう一つ新島はがっかりしていた。今日のためにと用意していた私服に佐々木は1ミリも反応しなかったからである。
佐々木に対しては特に恋愛感情は無い新島だったが、それでも気合いを入れて来た女性に対してなにも言わない反応しないというのは、新島にとって大きくマイナスポイントなのだった。
――先輩がいたら……。
どうしても考えてしまう。用事があるのは仕方ないけど……。先輩だったら可愛いとか似合ってるって言ってくれたのかな?
入場時間になると人がどんどんドーム会場に吸い込まれていく。受付に電子チケットを見せるとオンラインアクティベーションされて入場可能になった。
「今は便利になったんだね」
「去年からやってるよ。お前本当にファンなのか?」
「ライブには来たことないのよ!」
「なんで?」
「あんたには教えない」
プイッとそっぽを向く。
どうして先輩はこんな奴と一緒に行けなんて……と新島は内心不満ばかりだった。
隠れファンとしてずっと大好きだったHuGFのライブ。行きたくても行けなかった夢の空間にようやく来れたというのに、最悪な相手が隣にいて楽しめるのか
「ここ!?」
「すげー!!」
チケットにある席番号に来ると、そこはまさかの最前列。プラチナチケットの中でも選ばれし者しか手に入らない空間だった。
「……先輩、どうしてこんなチケットを……?」
「知り合いが行けなくなったから貰ったって言ってたけど……」
まさかHuGFのリーダー、東山
照明が全て消えると、嵐の前かのように自然と会場は静かになる。スポットライトがステージに立つ一人の女の子を闇に浮かび上がらせた。
「……誰?」
「もしかして……」
スポットライトが当たって3秒、会場がザワつき始めたまさにその時だった。
《どれほどこの時を、待っていたんだろう
カラフルに花咲き誇るハピネス》
透き通るような、それでいて可愛らしい歌声が会場に響く。スポットライトが5つに分かれてメンバー全員を照らすと爆発したように会場が沸いた。
そんな中、新島はなぜか開幕ソロをやった女の子が気になって仕方なかった。推しであるはずの岩清水明音も目に入らないほどにその子をずっと見ていた。
《想い、
色は濁ってしまう。描き直そうとしても
上手く行かなくて、破り捨てようとしても
出来ないよね、そんなこと出来るはずない
私たちの大切な人、仲間、みんな
なにしてたって思い浮かべるよ
目の前には未来がある
横を見れば希望がほら
後ろから情熱の追い風が来るよfortune》
開幕、冒頭からまさかの新曲で会場は一気にボルテージMAXになった。それを初体験した新島は音の濁流に飲まれてしまい、耳をふさいでしまう。
「なにこれ!?」
楓人と同じく洗礼を浴びた形となった新島。しかしステージを見ると、推しとソロをやった子があまりに眩しくてそれどころではなくなった。
「きゃー!! 明音ちゃーん!!」
近くに自分と推しが同じ、いわゆる
一方、佐々木はどこからか取り出した「KIRARI☆」と書かれた鉢巻にライトセーバーを両手に持って「煌梨ちゃあああああん!!」と、こちらも女性陣に負けじと声を出す。
《目指す場所はもう目の前にあるんだよ
歩みは止めない、もう止まらない
痛み分かちあえば、心のキズも
嬉しさを
私たちの大切な人、仲間、みんな
なにしてたって思い浮かべるよ
目の前には未来がある
横を見れば希望がほら
後ろから情熱の追い風が来るよfortune》
《どれほどこの時を、待っていたんだろう
カラフルに花咲き誇るハピネス》
フルコーラスを歌い切ると、割れんばかりの拍手が会場を包み込んだ。
《みんなー! ハピネスundグッドフォーチュンのライブにようこそー! 今日は一日楽しんで行こうね!!》
To be continued→
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