第125話 第一印象

 ――あらすじ。

 数々の試練(?)を乗り越え、ついに姫嶋かえでがアイドルデビューするその日。ゆかりからHuGFメンバーの誰かに寄生している魔物がフーノルザットだと聞かされる。

 電子を支配するというイクサ以来のチート魔物を相手に楓人はどう立ち向かうのか――。


*   *   *


「なんか久しぶりな感じするな」

「どうしたの?」

「あ、いえなんでも!」


 東山が不思議そうに俺の顔を覗き込むので頭を横に振る。


「大丈夫? 緊張してるの?」

「まぁ……緊張はしますね」


 55,000人を収容するドームのチケットが完売するトップアイドルと同じステージに立つんだ。緊張しないわけがない。


「肩の力を抜いて、私がついてるから」

「ひゃい!?」


 いきなり耳元で囁かれて全身が粟立つ。やめてくれよ心臓が止まるかと思った。


「かえでさんは知ってる? 魔法少女が警備に来てくれていること」

「さ、さっき紫に聞きました……。厄介な魔物ですね」

「私も警戒するけど、かえでさんも気をつけてね」

「はい」


 警戒はもちろんするんだが、嫌な予感するんだよな……。


〈ハロー、メイプル〉

〈お呼びですか?〉

〈ちょっと聞きたいんだけど――〉


 魔法通信とはいえ、周りに誰かいないかを気をつけながら話す。


〈――それは可能です〉

〈よし、じゃあ待機しててくれ。その時が来たらまた魔法通信で呼ぶから〉

〈分かりました。待機しています〉


 さて、あとは……。

 楽屋に行くとメンバー全員が揃っていた。


「かえでちゃーん!」

「わっ! 卯月さん!?」


 この子は突然抱きついてくるから困る……。


「もう、響子ったら……かえでさんが困ってるでしょ?」

「だって~、かえでちゃんのおかげなんだもん」

「え?」

「……私たちね、つい最近まで調子悪かったの。最悪もう解散かもって……。でもね、かえでちゃんが来てくれただけで元のHuGFに戻れたんだよ。だから今ここにいられるし、だから……ありがとう、かえでちゃん」

「卯月さん……」

「響子って呼んで」

「え……えと、……響子さん」

「うん!」

「あー、ズルいなぁ。あたしらも名前で呼んで欲しいよねー」


 古間麗美がそう言うと、他のメンバーも「うんうん」と頷く。


「えーと……麗美さん、瑠夏さん、明音さん。これからもよろしくお願いします」


 公式的にはまだまだゲスト扱いではあるが、HuGFの一員として認められてることを実感した。

 

「じゃあ、リハーサル行きましょうか!」


 東山とメンバーに付いて行くと、ステージに出る。


「うわぁ……」


 まるで巨大な洞窟のようにぽっかり開いた空間。それを見渡すステージに立つと異世界に迷い込んだような錯覚すら覚える。


「かえでさんはここね」

「ここ?」


 言われた場所に立つと、そこはライブ開幕のど真ん中だった。


「えええええ!? 私ここですか!?」

「もちろん。今日の主役なんだから当然でしょ?」


 ちょっと待て、いつから俺は今日のライブの主役になったんだ? なにも聞いてないぞ。


「もう知ってると思うけど、すでに新メンバーの噂はファンなら知らない人はいないレベルで広まったわ。まさか冒頭から出てくるとは思ってないでしょうから、ライブ開幕が勝負なの。メラビアンの法則って言ってね、人間の第一印象は55%が視覚情報――つまり見た目よ。まず冒頭3秒で一気に叩き込む」


 そういえば聞いたことがある。面接なんかでキチッとして行くのは、その第一印象を良く与えるためでもあるとか。


「そして5秒以内に歌ってもらう」

「5秒以内に?」

「第一印象は見た目の次に聴覚情報が38%あるわ。第一印象が決まってしまう5秒以内に歌ってインパクトを与える」

「そのタイミングは?」

「ライブが始まって無音状態でかえでさんにだけスポットライトが当たるから、そこでまず3秒。そこから5秒以内に歌い始める。……どう? やれそう?」

「はい! やれます!」

「良い返事ね! なら問題ないわ」


 秒数には絶対的な自信がある。なぜなら魔法少女モードには時計機能が付いてるから! なんならメイプルが正確に数えてくれるだろう。まさに盤石の布陣だ。4秒くらいでスタートしよう。


「じゃあリハーサル行くわよ! お願いします!」


 照明が全て落とされて真っ暗闇になったかと思うと、全てのスポットライトが俺に当たる。スポットライトを浴びること自体初めてなのにこんなに当てられたことがなくて、目の前が真っ白になってしまう。そしてめちゃくちゃ熱い!

 思わず腕で遮ってしまい、早速NGを出してしまった。


「ちょっとちょっと、駄目だよ腕出しちゃ」

「す、すみません」


 演出家に注意されてしまった……。


「かえでさん大丈夫?」

「はい……スポットライトなんて浴びるの初めてでビックリしちゃって……」

「ふふ、最初は慣れないものよ」


 2回目のリハーサル。今度は大量のスポットライトにも耐えて――


「駄目駄目! 目を閉じないで!」

「え?」


 頑張って耐えようとしたら今度は目を閉じてしまったのか。

 いや、これ第一印象とか以前に難しくないか……?



To be continued→

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