第124話 任務内容

「やべぇ……」


 ついにHuGFのライブ当日。前回よりさらに大きい収容人数55,000人というドーム会場――。

 その会場前には人、人、人。密集している列がズラーッと会場前に並んでいる。

 

「冗談だろ? こんな大勢の前で俺は歌って踊るのか?」


 今回は正式にゲストとして登録されているので裏口からこっそり覗いている。また表で騒がれたりしたら面倒くさくなるし、有り難い。


「かえでさん」

ゆかり!? どうしてここに?」

「例の件で東山さんとお話しまして、私がここの司令塔をやることになりましたので」

「例のって、寄生してる魔物?」

「はい。それもありますが、HuGFのライブでは魔物が増える傾向にあるんです」

「えっ、どういうこと?」

「魔法少女は感情に左右されやすいんです。感情がたかぶれば実力以上を発揮しますが、高まった魔力に魔物が反応することもあります。なのでライブ中に感情が大きく揺れる東山さんに魔物が集まりやすくなるんですよ」

「そうなんだ……ってことは他にも魔法少女が?」

「ええ、数人いますよ。立ち話もなんですから、こちらへ」


 関係者以外立入禁止のエリアにある休憩スペースで話を続ける。


「魔物は十中八九、フーノルザットというものです」

「フーノルザット……なにをする魔物なんだ?」

「フーノルザットは電気を操ります」

「電気か……」

「それも、で」

「電子単位……?」

「つまり、コンピュータを論理的に破壊できるんです」

「なっ!? おいおいウソだろ? じゃあなにか? まさかプログラムに介入できたりとか?」

「はい」


 おいおい、チートすぎんだろ……。


「待て、ということは今日もしかして……」

「電気系統のトラブルか起きてもおかしくありません。それに、フーノルザットの厄介な特殊機能として周囲に魔法少女がいる場合、二次的に影響するという点です」

「二次的に?」

「主に魔力の収集です。フーノルザットは魔力を一定量集めると変態し、宿主を喰い破って出てきます」

「なんだって!?」

「つまり今日中に……いえ、あと数時間の内に浄化しないとHuGFの誰かが死にます」

「誰か分からないのか?」

「目星をつけてはいますが、まだ確定してはいません。それにかえでさんにはよりフラットな目線で観察して欲しいんです」

「どういうこと?」

「フーノルザットは、未だ情報が少ない魔物なんです。決めつけて思い込みで動くのは良くない。でも私はすでに主観が多分に入ってしまっています。他の魔法少女と東山さんにも警備の関係で推定した宿主は伝えてありますが、かえでさんは直接現場にいる貴重な第三者です。なのであえて推定情報は伝えません。……それでも、かえでさんならやってくれると私は信じてますから」


 本当にこの子は15歳なんだろうか? ものすごくしっかりしている。彩希とは別ベクトルで大人だ。


「分かった。注意してみるよ」

「それと最近、周りでおかしなことはありませんでしたか?」

「おかしなこと?」

「なんらかの不思議な経験、トラブルなど」

「ああー、トラブルは最近いくつか」

「そのトラブル、HuGFと初めて会った前ですか? 後ですか?」

「……まさか!?」

「思い当たる節があるんですね?」

「……ああ。それもプログラム関係で」

「やはり。東山さんの周辺では特にトラブル無かったので、近い人と言えばもうかえでさんしかいないと思ってました」

「どうりでなぁ……おかしいと思ったんだ」


 身に覚えのないプログラムコード。誰かの妨害か俺が浮かれてミスしたかと思っていたが、まさか魔物による仕業だとは……。


「じゃあ、もしかしてあの視線も?」

「視線?」

「以前、感じたことがあるんだよ。Kスタジオに向かおうとした時に。その時は魔物の気配は一切無かったけど」

「ちょっと失礼します」


 縁の細い手が俺の――かえでの胸に触れる。なんだかイケナイ事をしているようでドキドキしてしまう。


「……緊張されてるんですか?」

「ああーいや、その、まぁ……」

「やはり、かえでさんの中に微かな反応があります」

「マジか。というか微かな反応程度でもそんな影響あるんだな」

「これは子機のようなものです。周りに起きるトラブルはかえでさんの魔力を利用しているんです。かえでさんの場合は魔力が有り余っているせいで多少使われても気づけなかったんですね」

「ああ……なるほど。駆除はできないの?」

「子機はかなり小さいですし、器近くの深い所にいるようなので、かなり繊細な魔法的手術が必要になります。駆除するより本体を浄化したほうが早いでしょう」

「そうか……分かった」

「では、任務のおさらいをしておきましょう。私たちは周辺警備です。東山さん含め宿主と推定される人物を中心に警戒します。かえでさんはフラットな目線で直接現場を警戒してください。なにかトラブルあればすぐに私へ魔法通信をお願いします」

「分かった」

「それと、何事も無ければ私はライブ中も宿主の特定に集中します。断定できたらお知らせしますので上手く対処してくださいね」


 そう言って、口に人差し指を当てて首を傾げる。なかなか小悪魔な一面もあるな……。

 上手く対処か……歌って踊りながらできるか?



To be continued→

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