第123話 チーム

「――というわけで、人形を使わせて欲しい」


 久しぶりの深夜会議。マンションに引っ越してからは初となる。防音対策されてる上に遮音結界があるのでいくら騒いでも平気だ。


「うーむ……東山にも困ったものだな……」

「それより、10キロメートルエリアがこんなに大変なんて聞いてないぞ!」

「……言ってなかったか?」

「言ってねぇよ! お前は今まで大事なこと一つも事前に言ってねぇよ!!」

「ふむ。いくらか制限はあるが、対応できなくはない」

「本当に頼むぜ。で、制限ってなんだ?」

「主に仕事についてだ。キーボードを叩けてもコードを書くことはできない。それとミーティングも苦手だ。他にも不得手はあるが……それでも大丈夫か?」

「コードは俺がやるから問題無い。……待てよ? 人形の視界を俺が見るって可能か?」

「ふむ……できなくはない。……はずだ」

「別料金か?」

「いや、天界うちのエンジニアに頼めばなんとかなるはずだ」

「それができるなら話は大きく変わる。俺が指示した通りに動いて話してもらえばいいわけだからな」

「なるほど、それは良いアイデアかも知れん。早速エンジニアと話してみよう。――それで? アイドルのほうは大丈夫なのか?」

「全然大丈夫じゃねーよ、セットリスト頭から出てくれなんて無理ゲーだろ」

「だが了承したのだろう?」

「するしかなかったんだよ。せざるを得なかったんだよ」

「ならばもう腹をくくるしかないだろう」

「分かってるよ。だからサポートはしっかり頼むぞ」

「分かっている。それがこちらの仕事だからな」


 今回の深夜会議はわりと早めに終わった。

 人形が使えるようになったのは本当に大きい。しかもリモート業務できるなら魔法少女の仕事しっぱなしでもいいんじゃないか? ダブルワークいいな!


*   *   *


『マスター、南西4キロメートルから救援要請です』

「よし!」


 後日、早速ダブルワークが実現した。人形から送られてくるライブ映像が視界の隅っこにワイプ表示される。音も直接聞こえるからイヤホンしなくてもいいのは楽だ。


「ピュアラファイ!」


 今日は比較的弱めの魔物が多くてサクサク処理できる。すでに6体を浄化できた。


「それにしても……」


 10キロメートルエリア担当になったから分かることだが、とにかく救援要請が多すぎる。

 5キロメートルエリアは現役魔法少女の半数以上を占めていて、中でも東京は人口が多いから当然魔法少女も多い。つまり一番忙しいエリアなわけだ。


「次!」


 会社は人形に任せられるから、遠慮なく魔法少女の仕事に集中できる。ランクAは滅多に現れないしポイント稼げるし、割の良いバイトみたいな感じだ。

 ちなみに5キロメートルエリアだと救援要請にポイント付与されないのは、ポイント欲しさに無茶しないようにという配慮からだそうだ。


〈楓人さん、今よろしいですか?〉

「どうした?」

〈佐々木さんが相談したいことがあると〉

「佐々木が? 分かった。俺が喋るからモード切り替えしてくれ」

〈了解〉


 俺の指示通りに喋らせる予定だったが、天界の技術者が人形を通して直接話せるようにしてくれた。有能すぎる。


〈先輩、ここなんですけど……〉

「ああー、それはな――」


 話し始めたら救援要請が入る。まったく、息をつく暇もないな。


「そこのコードはこっちのほうが組みやすい。たぶんここが悪さしてるんだろうな」

〈なるほど!〉

「あと、こっちの処理は新島が上手いから聞いてみるといい」

〈えっ! 新島っスか……?〉


 魔物が見えた。見た目は蛇……か? えらく細長い体をしている。白蛇が空に浮いているイメージだ。


「新島から教わるのは嫌か?」


 何発かピュアラファイを撃ち込むが上手く当たらない。


〈嫌っていうか……〉

「佐々木、俺たちはチームなんだ」


 魔法の杖に術式を走らせる。拡散された魔法ピュアラファイは魔物を取り囲むようにして襲い掛かる。


「一人じゃできないことも、助け合えば成し遂げられる。それがチームだ」

〈それは……〉

「佐々木も頭では理解わかってるんだろう? ライバル心も大いに結構。いいじゃないか、切磋琢磨して成長して行ける仲間なんて。――でもな」


 ニョロニョロ動く魔物は器用に魔法ピュアラファイかわして逃げて行く。だが、逃さない。


「普段はライバルでも、お互いに手を取り助け合う時というのは必ずある。その時に相手を見捨てて蹴落として出世する奴もいるが、俺は佐々木や新島たちと同じワンチームでやって行きたいと思ってる」

〈先輩……〉


 追尾型拡散ラジアル・ホーミングは今度は束になって魔物を襲い直撃する。


「どうしても一人で聞きづらいっていうなら、俺も一緒に行こうか?」

〈いえ! それくらい一人で行けますよ!〉

「そうか、じゃあ俺も戻るわ」


 佐々木が「ありがとうございます!」と言って会議室を出たところで人形のモードを切り替える。


「サンキュー、席に戻って引き続き頼む」

〈了解〉

「……さて、救援要請も落ち着いたみたいだし、俺もそろそろ戻るか」


 仕事は自分で進めておかないと安心できないからな……。

 それにいよいよライブが始まる。何事も無ければ良いんだが……。



To be continued→

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る