第122話 ブラック悪化
――
会議室に
「詳しい分析が終わりましたので、報告しますね」
「廷々さんが私を呼ぶということは、相当厄介な魔物なんですね?」
空中にフワフワと浮かぶスレイプニルは真面目なトーンで話を聞く。
「断定はできませんが、恐らくフーノルザットかと」
「フーノルザット!? あれが寄生しているというのですか!?」
「実際に典型的な現象が周りで起きているようですし」
「寄生されてからどのくらいですか?」
「もう3週間は経つかと」
「ぐぬっ……。ではもう猶予は……」
「あまり無いでしょうね。いつ始まってもおかしくないと思います」
「では、最悪の場合……」
「ええ。
* * *
いよいよだ。来週ついにライブが始まる。
新島と佐々木みたいに観に行くならワクワクして楽しみにもなるだろうが、魔法少女に変身してステージに立つ俺にとっては緊張してソワソワしてしまう。仕事にも集中できてない。
正直なところ自信はあまりないが、東山のリモートレッスンのおかげで踊りの方はだいぶ良くなったと思う。歌はさらに良くなったはずだ。
「えーと……ここのコードは……ここから1、2、3で、ステップが……」
「どうしたんですか? 先輩」
「へ?」
「ステップとかターンとか」
「……俺そんなこと言ってたか?」
「言ってましたよ。ダンスでもやってるんですか?」
「え? いやまさか、はは。ちょっと疲れてるのかな」
危ない危ない……。まさか声に出てたなんて。
ちょっと休憩してくると言って席を立つ。
「ふぅー」
参ったなぁ……有栖川のプロジェクトの
東山や彩希のことで浮かれてたりアイドルの件で頭がいっぱいで集中できなかったり、それに……。
『マスター、救援要請が入りました。南に5キロメートルほどです』
「……分かった」
すぐに魔法少女に変身して会社を飛び出す。――そう、魔法少女の仕事が最近は特に多い。10キロメートルエリアに昇格してまだ間もないというのに増えたのは理由がある。
今まではお手伝い感覚だったのが義務化されたのと、要請が優先的に割り当てられるので件数が大幅に増えた。
しかしそのぶん旨味はある。優先的に来た要請を片付けるとランクや種族に応じて
「……あれか! なんかハリネズミみたいな奴だな」
住宅街の公園に動けないでいる魔法少女がいた。
『ランクB・フラーヌス。毒針を飛ばしてくるようです』
「あの子は毒にやられたのか。飛距離は?」
『10メートルほど、近距離です』
「なら、ここからで十分だな」
民家の屋根に降り立って魔法の杖を構えると同時に
『お見事です。クイックドロウはマスターしましたね』
「もう少し無駄を無くせそうな感じはするんだけどな」
『マスターはストイックなんですね』
「いや、ただの職業病だよ」
性格とも言えるか。俺にとってはプログラムコードを詰めてく感覚に近い。
終わったと思ったらまた別の救援要請が入ったので、助けた魔法少女に手を振って現場に向かう。
「今度はなんだ?」
『ランクB・ラグノアです。鳥のような魔物で超音波による攻撃があるようです』
「超音波? 面倒くさそうな相手だな……」
現場に到着すると、逃げ回っている魔法少女がいた。
「こっちだよ!」
魔物を挑発して注意を向けると、俺を敵と認識したようで早速超音波攻撃をしてきた。
「超音波ってどう防げばいいんだ?」
『マスターの手持ちでは防げません。避けてください』
「マジかよ!」
とりあえず横に避ける。超音波は目に見えないから攻撃範囲も分からない。厄介だな……。
『超音波は直進します。攻撃は口を開けた時なのでマスターなら見極められます』
「アドバイスサンキュー!」
「ふぅ」
逃げ惑っていた子もなんとか落ち着いたらしく、俺に礼を言って帰って行った。
「そろそろ戻らないとまずいな」
いくら救援要請が義務だからって俺は社会人で仕事中なんだ。
会社に戻りトイレの個室で変身を解除する。
「……もう30分は経つな」
こんなこと繰り返してたらマジで仕事にならないぞ……。
「さすがにぷに助に頼むか」
魔法少女の仕事が入ったら人形に会社を任せる。それしか手はない。簡単な仕事くらいならできるだろ。
「すまん、遅くなった」
遅れを取り戻すために急いでキーボードを叩く。
最近は会社が奇跡的にブラックからホワイトに生まれ変わったというのに、こんなのが続いてたらブラックの頃と変わらん。――いや、別ベクトルで悪化してるまである。
〈ハローメイプル〉
〈はい、マスター。緊急ですか?〉
〈今夜ぷに助をマンションに呼んでおいてくれ。急ぎと言って〉
〈分かりました〉
サラリーマンに魔法少女にアイドル。
とんだトリプルフェイスになったもんだ……。
To be continued→
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