第118話 技能試験㉕ - After4
「いったいどうしたんだろ?」
技術班が忙しなくなったので、とりあえず訓練棟に戻ることにした。
「かえで、あなた本当に夢の中でその子に会ったの?」
「え? そうですね。あの夢はわりとハッキリと覚えてます。相手の顔は見えませんでしたけど」
「……もしかしたら、厄介なことになるかもね」
「えーと……いったいなんなんですか?」
「アタシも気になるな。明らかに様子がおかしくなった」
「……まあ、別に機密事項でもないから教えてもいいんだけど……」
「そんなにヤバい相手なんですか?」
「そうね、ある意味では」
「ていうか、どうせ魔物なんでしょ? 魔法少女関連のヤバい相手なんて魔王と魔物しかいないじゃん」
歩夢の言葉は核心を突いたと思ったら、「魔物かどうか分からないのよ」と予想外の答えが返ってくる。
「魔物か分からない? じゃあ、もしかして魔王が!?」
「それも分からない。魔王なのかも知れないし、そうじゃないかも。当時は魔王じゃないって判断されたけどね」
「当時?」
「同じようなことが10年ほど前にもあったのよ」
「10年前に!?」
「その時にはなにがあったんですか?」
「――特にはなにも。とにかく分からないことが多いの。だから山田さんの報告を待ちましょう」
「……分かりました」
「そうだ。葉道さんにちょっとお話があるから、かえでは先に部屋に行ってて」
「――? 分かりました」
* * *
灯は歩夢を連れて訓練棟のとある部屋に入ると、プライベートモードにして外界を遮断した。
「なんですか? 話って」
「さっきの話、葉道さんにだけ続きを聞いてもらおうと思って」
「続き?」
「10年ほど前になにがあったのか」
「……なにもないって、ウソなんですか?」
「どうしても言えなかったの、かえでには」
「なんでですか?」
「……10年前、とある10キロメートルエリア担当の魔法少女が、今回と全く同じ話を先輩に相談したの。夢の中に見知らぬ女の子が出てきて『波長が合ったから会えた』という話をね」
「その先輩は、他の人に話したんですか?」
「もちろん。山田さんが言ってたように波長は指紋と同じで個体差があるから
「それって……まさか天界が!?」
「当時もその可能性は疑われてスレイプニルに調査要請を出したけど、天界は当時、調査にはあまり乗り気じゃなかったの。理由としては実害が報告されてないから。ただ夢の中で波長の話が出た程度で天界を巻き込まれても……というのが向こうの意見だった。それはまあ分かるけどね。結局、調査結果としてはシロ。これで謎の事件も終わり。そう思われた……でも」
「でも?」
「その夢を見た本人。当時の10キロメートルエリア担当の小坂みゆきが死んだことで、この話は一転して事件として扱われることになったの」
* * *
「うーん、暇だなぁ」
花織さんが歩夢を連れて行ってだいぶ時間が経つように思うが……。
「ハロー、メイプル」
『お呼びですか?』
「あー、なんだか懐かしさすらあるわ」
『試験は無事終わりましたか?』
「一応ね。A判定の基準は分からないけど、いい感じだと思うよ」
『では、来週からは10キロメートルエリア担当の
「うーん、
『しかし大丈夫ですか? 魔法少女の仕事がかなり忙しくなりますが……。本業もお忙しいのでは?』
「それはまあそうだけど、ブラック企業の延長だと考えればいいかなって。それになにより家賃8割引きのメリットが強すぎる」
家賃の部分だけシリアスに強調する。こればかりは魔法少女やってて良かったと本気で思えたし、最大のメリットだと思う。M区の高級マンションなんて住んでみたい候補にすら上がってなかったからな。それが8割引き。さらに
「それに、いくら10キロメートルエリア担当になったからって劇的に変化するわけでもないだろう」
『劇的に。の定義にもよりますが、少なく見積もって仕事量は5倍になります』
「ふーん、5倍くらいか……5倍?」
『今までは救援要請に行くかどうか任意でしたが、10キロメートルエリアからは義務となります。他にも月一回の活動報告や魔物の討伐・調査指令があれば任務として最優先に処理しなければなりません』
「待て待て待て、ちょっと待て! え? なに? そんなに仕事変わるの?」
『はい。ちなみに50キロメートルエリアになるとエリア統括責任者となり、自身の関わるエリア内での事件や事故などの責任を負うことになります。また100キロメートルエリアのサポート業務もあります』
「なんだそりゃ! まるっきり中間管理職じゃねーか!!」
『ご自愛ください』
家賃タダという強すぎるメリットの裏にはそんな事情があったのか。やっぱり甘い話には裏があるんだな……。
大丈夫かな……?
To be continued→
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