第117話 技能試験㉔ - After3

「……これでいい?」


 花織さんが魔力を注入すると画面に結果が表示される。


「魔力深度64mit、推定総量3万2250、器の強度A……さすが100キロメートルエリア担当ですねぇ」

「魔力量はかえでに負けちゃうね」

「魔力深度を考慮すればそれくらいは誤差ですよぉ」

「ありがとう、おかげで方針が決まったわ」

「フフフぅー、楽しみですねぇ」


 なんで俺の方を見て笑うんだ。


「せっかくだし、歩夢もやってみたら?」

「え? アタシ?」

「いいですねぇ、やってみましょうか」

「まぁ、いいけど。……フッ! ――こんなもん?」

「いいですよぉ。……魔力深度32mit、推定総量5900、器の強度B……魔力深度が思ったよりありますねぇ」

「その魔力深度ってやつは結局どう影響するのさ?」

「そうですねぇ……例えばカウントダウン・ブレイカーの適正魔力深度は16mitで、バースト・ブレイカーは魔力深度32mit。と言えばなんとなく掴めますかぁ?」

「魔法ってそんな条件あったの!? バースト・ブレイカーなんてギリギリじゃん!」

「条件というかぁ、あくまで適正値です。別に魔力深度16でもバースト・ブレイカーは使えます。ですがぁ……魔力の質によっては相性が悪い魔法もあるわけです。深度が下過ぎても上過ぎても扱いが難しくなります。バースト・ブレイカーが使える人が限られるのはそういった理由もあるわけですよぉ」

「えっと……じゃあ、今主流の解除系? は魔力深度いくつが適正なんですか?」

「フフフぅー、姫嶋氏、良い質問ですねぇ」


 あ、なんかこれヲタクの心に火を点けてしまった気がする。


「今主流の解除系。これは実は魔力深度に関係なく使えるとってもスグレモノなんですよぉ。作った当時は魔力深度なんて概念は無かったんですがねぇ? 技術班の経験と知恵でどんな魔法少女にも使える調整システムを組み込んであるんです。なので魔力深度8mitだろうと64mitだろうと変わらない性能を発揮できるんですよぉ」


 さらにさらに……と話を続けようとしたところで、花織さんが「その調整システムは他の魔法に組み込むことはできる?」と質問を変える。


「そう簡単には行きませんが……それぞれの魔法用に調整して組み込むことは可能ですぉ。なにに組み込みますかぁ?」

「ちょっと今考えてる魔法があってね。詳しいことはまた後日連絡するわ」

「そうですかぁ。……いい機会です、他にも質問ありますかぁ?」

「……波長」

「ん? 波長?」


 歩夢は「なんのこと?」といった顔だが、山田は食いついた。


「ほほぅ……なかなかマニアックな言葉を知ってますねぇ」

「波長について詳しく知りたいんです」

「いいですよぉ。しかしその前に、波長が分からない人も多いと思うので説明しますねぇ。まず基本のおさらいですが、我々魔法少女には魔法の器というものが存在します。その器には魔力が満ちていて、この魔力を使って我々は魔法を発動させているわけです。その器に満ちる魔力……言うなればコップに水が入ってる状態ですねぇ。その水面には時折、周期的に波紋が発生するんですよぉ。その波紋――波の間隔が波長です。これは指紋と同じで魔法少女全員が異なる波長となります」


 そういやメイプルも湧き出る水をイメージしろって言ってたっけ。


「へー、でもなんでそんな波紋が発生するのさ? 上から魔力でも垂れてんの?」

「実はそこ、まだ研究中なんですけどねぇ……興味深い仮説が一つあるんですよぉ」

「興味深い仮説?」

名倉なくら智子ともこもいう技術班の人間が提唱したんですがね? これはだと言うんですよぉ」

「拍動って……器が生きてるってこと!?」

「ねぇ? 面白いでしょお。まぁまだまだ研究中なので、あくまで仮説ですがねぇ。――話は逸れましたが、その波紋こそが波長そのものと思ってもらえばいいですよぉ。さらに豆知識としては、魔法を発動させるには天界が定める波長に整える必要があるんですが、個人差がある波長をその規定された波長に変換するのが魔法の杖の重要な役割となっているんですよぉ」

「そうなんだ、魔法の杖ってすごいんですね」


 変換されるのはメイプルから聞いていたが、一応初めて聞いたリアクションをしておく。

 なるほど、周期的に発生する波紋。その波の間隔を波長と呼んでいるのか。

 魔法の器が生きているかも知れないというのは衝撃的で突飛な発想だが、周期的に波紋が生まれるとなると、あり得ない話じゃないな。


「ところで姫嶋氏はどこで波長という言葉を聞いたんですかぁ?」

「え?」

「いえね、波長という言葉は魔法少女の世界では大変マニアックな用語なんですよぉ。技術班の人間ですらなかなか使わない。そんなマニアックな用語をいったい誰から聞いたのか、興味深いんですよぉ」

「えーと……誰からというか、夢の中で知らない女の子が言ってたんです。たまたま波長が合ったから夢の中で会えた……みたいなことを」


 正確には違うが、そのまま話して信じてもらえるとは思えないし、ニュアンスが通じればそれでいいだろう。

 ――ところが、予想以上に思った以上の反応があった。


「夢の中で……? 姫嶋氏! それはいつのことですかぁ!?」

「え!? えーと……風邪引いて寝てた時だったから……2週間くらい前かな?」

「2週間前……。すみませんが私はこれから調べないといけないので失礼しますよぉ。花織氏もまた後ほど」


 早口で言うと、さっさと行ってしまった。

 なんなんだ? いったいなにが起きてるんだ……?



To be continued→

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