第116話 技能試験㉓ - After2

「魔力制御が上手くできてない……ですか?」


 最近はかなり上手くできてるつもりだったが……まだ駄目なのか?


「そうねー、じゃあもう一回試験と同じように浮いてみて。今度は少し浮くだけでいいから」

「えーと、はい。分かりました」


 よく分からないまま再びホバリングする。――と、また魔力が消えた。


「うわっ!」


 ガクッとなったが、数十センチほどしか浮いてなかったのでダメージは無い。


「大丈夫?」

「は、はい……大丈夫です」


 まさか再現性があるとは……。ということは柴田は関係なかったってことか。


「やっぱりね。姫嶋さん――これからはかえでって呼ぶね。かえではから出力が安定しないのよ」

「え? 自分の魔力を?」

「そう。かえでの器は明らかに高位ハイランクレベルのものだけど、例えば魔力量が実際にどれだけあるのか自分で分かる?」

「いえ……」

「自分の魔力を把握しておくというのは当たり前で地味なことだけど、とても大事なことなの。それに安定した出力は魔法少女の基礎でもある。優海も器のすごさに圧倒されて見過ごしちゃったのね。出力が安定しないとさっきみたいなストールを起こしちゃうのよ」

「ストール?」

「魔力の出力が止まっちゃうこと。分かりやすく言えば魔法の杖がエンスト起こしちゃうのよ」

「あー、なるほど」

「技術班で魔力を測ってもらえるから、今から行こうか」

「はい! ――歩夢も行く?」

「そうだねー、久しぶりに行ってみようかな」


*   *   *


「こんにちは」

「花織さん!?」


 技術班のフロアへ来ると、一気に空気が変わる。やはり100キロメートルエリアというのは特別のようだ。


「おやおや〜、珍しい客人ですねぇ」


 そこへやって来たのは、H公園の事件でお世話になった山田一千花いちかだった。


「こんにちは、山田さん」

「調子はいかがですかぁー?」

「とても良いわ。でもちょっと気になるとこあるんだけど」

「ほほぅー? いいですよぉー、今から調整しますかぁ?」

「少し待っててね、先に用事を済ましちゃうから」

「用事?」

「この二人の魔力量を計測してもらいたくて」

「おやー? お二人はいつぞやの……」

「ご無沙汰しております。その節はどうも」

「あら? 知り合いなの?」

「お二人なら歓迎ですよぉー、特に姫嶋氏。あなたは興味深いですからねぇ」

「へー、山田さんに気に入られてるなんて、やっぱりただ者じゃないわね」

「え? いやそんな、私は普通より器は大きいっていうだけで……」

「器の大きさは立派な才能よ。誇っていいわ」

「さて、ではこれに魔力を注入してください。握るだけでいいですよぉ」

「分かりました。……って、これは……」

「どうしました?」

「あ、いえなんでも」


 どう見てもただの握力計だ。とりあえず力いっぱい握ってみる。


「……っ!! ――これでいいんですか?」

「どれどれ……おやぁ?」

「えと、……なにか?」

「エラーですね。……ふむ。エラーログを見るにどうやら魔力量が計測上限をオーバーしてしまっているようですねぇ」

「ていうことは、かえでの魔力量は計測不能ってこと?」

「フフフぅー、これは簡易版なんですよ。10キロメートルエリア程度ならこいつで十分なんですが、どうやらアレが必要みたいですねぇ」


 持ってきて。と声を掛けると、近くにいた子がなにやら重そうな機材を押してきた。キャスターが付いてるとはいえ大変そうだ。


「これも……計測機器?」

「この備え付けの魔法の杖を握って思いっきり魔力を注入してください。今度はエラーが出る心配ありませんから」


 運んできてくれた子から説明を受けて魔法の杖を握る。言われた通り思いっきり魔力を注入すると「ピーッ」という電子音が鳴り、モニターに測定完了と出た。


「どれどれ……。魔力深度12mit、推定総量15万3700、器の強度A」


 機器の説明をしてくれた子が結果を読み上げると、「総量すごっ!」「器も高位ハイランクだ!」とザワつく声が聞こえる。

 

「えーと、……どうなんでしょう?」 

「これは驚きましたねぇ……。道理で簡易測定がエラー吐くわけです」

「なんだか見たことない表示ね。山田さん説明してもらえる?」

「いいですよぉー。今までの魔力計測は10キロメートルエリア相当など、ざっくりとした結果しか得られなかったんですが、つい最近開発したばかりのこちらの計測機器は注入された魔力を分析して魔力深度――mit深度とも言いますが、簡単に言えば魔力の質が分かるんですよぉ。そしてmitデータから魔力の総量を推定できる画期的な発明品なんですよぉフフフぅー。ちなみに器の強度は総合的なランクみたいなものです」

「それはすごいね! それで、参考数値はあるの?」

「もちろんありますが……。せっかくなので花織氏も調べてみませんかぁ? と行きましょう」

「面白そう! ――でもよく分かったね? 今さっきの話なのに。私言った?」

「フフフぅー、花織氏がわざわざ新人を連れて来るというのは、そういうことでしょうー? しかも魔力量を計測してくれということは、これからみっちり鍛えるんでしょうー?」

「さすがね」

「フフフぅー、簡単な推理ですよぉ。では、始めますねぇ?」



To be continued→

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